文化のバロメーターとして、書店は街に欠かせない存在だ。
本屋さんを愛する五人の作家が、本屋という空間のぬくもりや、そこに流れる時間の心地よさを伝えてくれる五つの物語を紡いでいる。ページを開くと、思わず「いまから本屋さんに行きたい」と思わせるような、やわらかな気持ちが広がる。
豪華な顔ぶれの作家名を眺めているだけで、それぞれの作風が自然と頭に浮かぶ。きっとサスペンスや警察ものではなく、人が傷つくような酷い行為も出てこないだろう。安心して身を委ねられる、静かであたたかなドラマが描かれているのだろうと想像してしまう。
本屋さんにまつわる言葉の数々が印象に残った。どれも、本屋という場所をそっと覗き込むような、すてきな一節だった。
●9ページ「続きは書店で」
悩み事は口にした瞬間に、もう半分ほど軽くなる。
知らない相手だからこそ、素直に思いを話せることもある。
占いは「隠す」ものではなく、むしろサービス業に近い。
だからこそ、楽しい空間でやりたい──そんな気づきが語られていた。
●39ページ
大きな変化はそうそう起きないし、望んでもいない。
それでも、本がやってくる。その小さな出来事が、暮らしにそよ風を吹かせる。
それだけで、ありきたりな毎日が少し愛しくなる。
●140ページ「手に取って見てみろよ」
比べて、確かめて、ゆっくり自分の好きなものを選んでほしい。
ほら、手に取って見てみろよ──その言葉のやさしい誘いが、胸に残る。
●206ページ「見晴らし書店の一日」
本屋とは不思議なものだ。
どれだけ本を手に入れても、お腹は満たされないし、暖も涼も取れない。
それでも、街に一軒も本屋がなかったら、きっとさびしく、物足りなく感じるだろう。
生活に必須ではないものを売っているようでいて、
心の窓を開き、見晴らしのいい風景を眺めるためには欠かせないものを扱っている──
そんな本屋の本質が静かに語られていた。
●213ページ
本屋では、さまざまな人の趣味嗜好がふと見える瞬間がある。
けれど、踏み込まず、ただ受け流す。
どんな本を毎日買おうが、犯罪ではないし、かまわない。
どんな仕事をして、どんな暮らしを送っているのか、少し想像するくらいだ。
本を媒介に、お客さまと直接・間接に交流できる。
そのことが、本屋の仕事を好きだと思わせてくれる──そんな言葉が印象に残った。
目次
続きは書店で 瀬尾まいこ
歌うように生きて 一穂ミチ
手に取って見てみろよ
小鳥たち 凪良ゆう
見晴らし書店の一日 三浦しをん
著者等紹介
凪良ゆうさん
滋賀県生まれ。『流浪の月』『汝、星のごとく』
瀬尾まいこさん
大阪府生まれ。『そして、バトンは渡された』『強運の持ち主』
坂木司さん
東京都生まれ。『ワーキング・ホリデー』『和菓子のアン』
一穂ミチさん
大阪府生まれ。『ツミデミック』『スモールワールズ』
三浦しをんさん
東京都生まれ。『まほろ駅前多田便利軒』『舟を編む』
【No2090】本屋さんのある街で 凪良ゆう、瀬尾まいこ、坂木司、一穂ミチ、三浦しをん 文藝春秋(2026/05)
