本書は、憲法をめぐる議論を「右」「左」といった立場から距離を置き、制度としての憲法をどのように理解すべきかを、具体的な事例を交えながら平易に解説する一冊である。
あとがきで著者は、憲法の役割について次のように述べている。
「敢えていうと憲法の役割は、日本の自然や文化や伝統が美しいと思う人も、そう思わない人も、どうでもいいと思う人も、一緒に国の中でどうやってうまくやっていくかを調整することなのです。」
この視点は、憲法を特定の価値観の代弁者としてではなく、多様な考えを持つ人々が共存するための調整装置として捉える姿勢を示している。
■ 日本国憲法の改正手続と比較の視点
日本国憲法は制定以来約80年間、一度も改正されていない。これは、憲法改正手続が通常の法律より厳格に定められた「硬性憲法」であることが一因とされる。
諸外国では、憲法に日本の個別法で扱うような内容が含まれている場合もあり、改正回数の多寡だけでは比較できないという指摘がなされている。
著者は、「改正回数」よりも「どの部分をどのように改正するか」という中身こそが重要であると述べ、現状を理解するためにまず憲法の構造と歴史を知る必要性を強調する。
■ 帝国憲法から現行憲法への転換と学説
天皇主権から国民主権への転換を含む改正過程を振り返りながら、
・八月革命説
・改正限界説・無限界説
・憲法改正案の発議主体(内閣総理大臣か、国会議員か)
など、憲法学で議論されてきた主要な論点を紹介している。
これらは政治的立場によって解釈が分かれることもあるが、著者は学説として整理し、立場の違いを評価することなく淡々と説明している点が特徴である。
■ 憲法解釈と制度上の課題
条文に明記されていない事柄についても、既存の条文の趣旨を応用して解決している実例が示される。
また、内閣が全員死亡するなど「内閣が存在しない状態」では国会召集や総理大臣指名が困難になるという、制度上の不備も指摘されている。
こうした説明は、憲法を「固定された答えのあるもの」と捉えるのではなく、現実の政治・行政運営との関係で理解する必要性を示している。
■ 全体の印象
本書は、憲法をめぐる議論を特定の政治的立場から語るのではなく、
制度としての憲法をどのように理解し、どのように運用しているのかを、事例を通して学べる入門書である。
単なる知識の羅列ではなく、現行憲法の構造や課題を俯瞰できる内容であり、憲法を中立的に学びたい読者にとって有益な一冊だと感じた。
目次
まえがき
第1章 死刑囚が異世界ラノベを書くとき
第2章 刑罰と税金から始まる憲法と人権の話
第3章 人権というものにもいろいろある
第4章 憲法の解釈がなぜ分かれるの?
第5章 平等と差別と多様性
第6章 緊急事態と緊急でない事態
第7章 靖国神社とハラル給食―信教の自由と政教分離
第8章 9条にできること、できないこと
第9章 憲法から見た天皇・皇族のあれこれ
第10章 そもそも合憲と違憲ってどう判断するの?
第11章 憲法ってどこまで改正できるものなの?
あとがき
著者等紹介
堀新さん
1963年生まれ。1987年、東京大学教養学部教養学科第三(相関社会科学)卒業。1987年、株式会社東芝入社、主に人事・労務部門で勤務。2001年~2003年、社団法人日本経済調査協議会に出向。2006年、司法試験に合格、2007年、最高裁判所司法研修所にて司法修習。2008年、弁護士登録。
