13歳向けの入門書ではあるが、大人が読んでも国際情勢の基礎を押さえるきっかけになる一冊だと感じた。
著者は、いま世界で起きている出来事を「そもそも論」から丁寧に振り返り、日本にどのような影響が及ぶのか、そして日本がどのような方向性を取るべきかを、読者が自分で考えられるよう道筋を示してくれる。入門書でありながら、示唆に富んだ良書だと思う。
■ 心に残った言葉
初めに、島根さんが日頃から励まされているという言葉が紹介されていた。
「勉強の苦しみは一瞬だが、勉強しなかった苦しみは一生続く。努力するのはつらいけど、努力をしない人生は果たして楽なのか。努力で人生は拓ける。努力は人を強くし、人生を自由にしてくれる。」
司法試験と外交官試験を同時に目指し、自分を鼓舞しながら勉強した経験談とともに語られており、胸に深く響いた。
■ 国と個人は違うという実感
中国や韓国など近隣国の友人がいる経験から、著者が述べる次の指摘には強く共感した。
国と個人は違う。
国に対して複雑な感情があっても、個人として向き合えば分かり合えることがあり、仲良くなることもある。
■ 最新の国際情勢を踏まえた示唆
外交官としての経験をもとに、多面的で現実的な視点が示されている。理想論に偏らず、堅実な姿勢が一貫していた。特に参考になった点を整理すると次の通り。
・日本の一人当たり国防費は約5万円。アメリカとの同盟により抑止力が保たれ、諸外国より低く済んでいる。日本は地政学的にアメリカにとって重要な位置にある。
・トランプ大統領再選の背景には、アメリカ社会が多様性を重視しすぎた反動があるという指摘。関税引き上げは最終的にアメリカの消費者の負担となる。
・中国の都市戸籍と農村戸籍が生む格差。固定資産税や相続税がないため富の再分配が進まず、経済の立て直しに苦心している。外国企業の受け入れには体制維持への不安がある。
・香港の自由が急速に失われた現状。「今日の香港は明日の台湾になるのか」という問いかけが重い。
・アメリカの「戦略的曖昧さ」。台湾を守るとも守らないとも言わない姿勢。台湾人の多くは現状維持を望んでいる。
・半導体は「現代の石油」。大量の水と安定した電力が必要で、TSMCが世界トップ。
・南シナ海問題。核兵器を深い海に隠し、原子力潜水艦で位置を不明にする戦略的価値。
・ウクライナ侵攻の背景には、不凍港の確保とNATO拡大阻止という地政学的要因がある。
・日本が学ぶべき点として、同盟国の支援が来るまで自国を守り耐えられる力を持つ必要性。
・パレスチナ問題は宗教対立ではなく、「土地を誰が住むのか」という根源的な争い。
■ 民主主義と自由の脆さ
著者が強調していた部分で、特に共感した箇所がある。
民主主義も自由も、思っている以上に脆い。自分たちの力で守らなければ、あっという間に奪われかねない。
完璧でなくとも、民主的で自由な国に住みたい。自分の意見を自由に言いたいし、自分の力で決められないことに支配されたくない。
次の世代にもそうあってほしい。そのために世界の動きに関心を持ち、自由な日本を守っていくことが私たちの使命だ。
国際情勢を学ぶことが、単なる知識ではなく「自分たちの自由を守るための視点」につながるのだと改めて感じた。
目次
はじめに
第1章 高校チュータイのコギャルが司法試験に合格して外交官になった話
第2章 日本の安全は5万円で買えるのか
第3章 「またトラ」のアメリカとどう向き合うか
第4章 中国はどこに向かっているのか
第5章 香港は終わったのか
第6章 今こそ知っておきたい台湾のこと
第7章 「半導体」を制するものは世界を制する
第8章 深海からのぞく国際情勢 ──なぜ中国は南シナ海にこだわるのか。なぜロシアは北方領土を返さないのか──
第9章 北朝鮮は何を恐れ、何を守ろうとしているのか
第10章 K-POPには映し出されない韓国の実像
第11章 10分でわかるウクライナ戦争
第12章 パレスチナ問題やシリア問題のそもそも
第13章 「モテ期」インドの光と影
第14章 ヨーロッパで台頭する「極右」とは何なのか
おわりに
参考文献
著者等紹介
島根玲子さん
1984年埼玉県生まれ。高校時代に2度の留年と2度の中退を経験。一念発起して大検を取得後、青山学院大学文学部に進学。早稲田大学法科大学院を経て、2010年に司法試験および国家公務員1種試験に合格。2011年に外務省入省後、スペイン駐在を経て、中南米外交やアジア外交に携わる。外交官として働く傍ら、国際情勢やキャリア設計についての講演活動も行う。
【No2058】13歳からの国際情勢―高校チュータイ外交官が世界のニュースを「そもそも」解説 島根玲子 扶桑社(2025/05)
