地政学を学ぶことは、地理的条件を手がかりに政治・経済・軍事を読み解き、国際社会全体の構造を理解することにつながります。
本書で特に印象に残ったのは、地図の描き方が国際認識に影響を与えるという指摘です。メルカトル図法ではロシアが実際より大きく見え、その「巨大な国土」のイメージが大国としての演出に利用されてきたという話は興味深いものでした。逆にアフリカは小さく描かれすぎるため、潜在力が過小評価されてきたという指摘も印象的でした。
128ページの「平和はバランスから生まれる」という言葉には強く賛同します。
兵法の「遠交近攻」は、隣国よりも遠方の国のほうが利害が少なく対立しにくいという考え方です。中国とヨーロッパの関係を見ても、この原理がよく当てはまります。
国際社会の平和を保つためには、アメリカ・ロシア・中国といった大国間の力の均衡が欠かせません。歴史を振り返れば、力のバランスが崩れたときに戦争という大きな代償を払ってきたことがわかります。
例えば、ロシアによるウクライナ侵略時、アメリカのバイデン大統領は米軍派兵の可能性を否定しました。もし対応を曖昧にしていたら、ロシア側の計算を狂わせ、抑止力として働いた可能性もあります。
また、トランプ大統領が「中国が台湾に侵攻した場合、アメリカ軍がどう動くかは明かせない」と述べたことも、緊張を過度に高めないための「戦略的曖昧さ」と言えます。高市首相の明確な発言とは対照的で、外交姿勢の違いが見えてきます。
欧州連合(EU)では、各国首脳が頻繁に顔を合わせています。実際に会って話すことで誤解や対立を防ぎ、協調を維持しているのだと理解できます。日本も韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)とシャトル外交を重ねることで、同じようにトラブルの予防につながっています。
第二次世界大戦から80年以上が経ち、悲惨な経験を直接知る世代が少なくなっています。だからこそ、歴史から学ぶ姿勢をこれまで以上に意識的に持つ必要があると感じました。
目次
まえがき 地政学が重要になった世界
第1章 地球儀からの視点
(超大国アメリカは海を制するー内向き姿勢で高まる世界紛争のリスク/「ランドパワー」は革命におびえる―ロシアと中国が高圧的な理由/中国がしゃにむに欲しい「深い海」―核の大戦略で不可欠な南シナ海 ほか)
第2章 世界を動かすシステム
(責任果たさず「おいしいとこ取り」するアメリカ―トランプ関税から見える論理/アクターのアメリカとシアターの日本―トランプ氏が中国・ロシアに苦戦する理由/トランプ氏が突き進む紛争仲介ビジネス―揺らぐ超大国の外交力 ほか)
第3章 時がもたらす変化
(戦後「80年」という時間が極右勢力を後押しする―第2次大戦の教訓の風化/核武装は「安上がり」ではない―万能でない究極の兵器/戦争を欲する独裁者の事情―軍事的功績が左右する地政学リスク ほか)
あとがき
註
参考文献
著者紹介
田中孝幸さん
日本経済新聞社で政治・経済・国際分野を担当し、モスクワ支局員・ウィーン支局長などを歴任。40カ国以上で現場取材を重ね、政財界・軍関係者・文化人など幅広い人脈を築いてきた。ウクライナ戦争では現地から実態を報じ、2025年11月にはロシア政府から入国禁止の制裁対象に指定された。著書『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』で八重洲本大賞、ビジネス書グランプリ2023(リベラルアーツ部門賞)などを受賞。
