人間の本質はなかなか変わらない。
他人を変えることはできないが、自分が変わろうとすれば、ものの見方や視点は変えられる──そんなことを考えさせられた。
● 印象に残った場面(p.172)
「人間も変われるもんですかね? この絵みたいに荒れていた頃から凪の状態みたいに」
「……難しいな。人間の本質は変わらへんのちゃうかな。俺も変わってない。描いている絵が変わっただけやな。荒れている海を見たかった子供が、大人になって凪いでる海を見たくなっただけ……。ただ、自分がなにを見ようとするかは決められるやん。でも、人間の本質は変わらんと思う。ごめん、わからん」
「屑は屑と言うことですかね」と問う主人公に対し、
「屑が屑の絵を描くかどうかは屑自身で決められる」と返す鹿野先生の言葉が胸に残った。
駄目な自分を受け入れ、周囲に迷惑をかけながら生きていくことに疑問を持たない──それこそが傲慢なのかもしれない。
● 読んでいて感じた苦しさ
この作品には「屑だ」「アホだ」と言われる人物が登場する。
屑とわかっていても、どこか人たらしのようで、振り回されても離れがたい不思議な存在。消息不明になっても「生きとるわ」と笑っていそうな男たちだ。
読んでいる間じゅう、胸が重くなる。
真っ当に生きてきた岡田が、横井との関係の中で壊れていくのではないか。
横井はなぜ詐欺師のような生き方から抜け出せなかったのか。
登場人物の多くが「ダメ男」で、読んでいて辛さが続いた。
社会的信用のある公認会計士・岡田と、嘘を重ね、大金を借りては踏み倒し、連絡を絶つ横井。
息をするように嘘をつく横井に、岡田は嘘と知りながらお金を貸し続ける。
返済を求めればいいのに、それができない。
成功者的男と底辺の男──その不可解な関係性が理解しがたく、読んでいてしんどかった。
世の中にこんな人がいるなら、両方とも近づきたくないとさえ思った。
● 著者紹介
又吉直樹さん
1980年大阪府寝屋川市生まれ。芸人・作家。
2015年、小説デビュー作『火花』で第153回芥川賞受賞。
テレビ、ラジオ、YouTubeなど多方面で活躍している。
