「袖すり合うも他生の縁」という言葉がぴったりくる。
ほんのささやかな出会いにも意味がある。
血のつながりがなくても、ご縁があって必ず人は出会うもの。
偶然のようでいて、どこか必然めいた出会い。
従来の枠にとらわれない新しい家族の在り方を考えさせられた。
完璧主義で融通がきかない野宮薫子と、女豹のようにクールな小野寺せつな。
姉の薫子は、弟・春彦の元恋人のせつなと出会う。
突然亡くなった弟が、せつなに宛てに遺言書を残していたから。
相続人に指定されていたせつなとの出会いをきっかけに物語が動き出す。
弟の死の裏側に隠されたまさかの真実が、予想を超える展開で明かされていく。
「一緒に生きよう。あなたがいると、きっとおいしい。」
やさしくて、せつなくて、心にそっと寄り添う。
傷つき悲しみを抱えた薫子のこころをゆっくりと食を通じ回復していく。
家事代行サービスの仕事を通して、人と共に生きる意味や食の大切さを知っていく薫子。せつなの胸の奥にある本音も、少しずつ見えてくる。
人と人とのつながりと温もりが心地よい。
終盤には、二人の心の変化に胸が大きく揺さぶられた。
ちなみに、この家事代行サービス会社の名前は「カフネ」で、
79ページによると、ポルトガル語で「愛する人の髪にそっと指を通す仕草」を意味するという。ロマンティックで、薫子が好きなのだというのもわかる。
人の役に立つことが、めぐりめぐって自分を助けることになる。
そんな心境に、薫子は少しずつ近づいていった。
97ページより。
帰り際、岡崎氏は玄関まで見送りに出てきてくれた。
薫子とせつなが「失礼します」と挨拶した瞬間、額が膝につくほど深く頭を下げた。
「どうもありがとうございました」
その言葉が耳の奥で何度もリフレインし、軽トラが走り出すと、薫子の目の奥に思いがこみ上げる。
長い間、自分には価値がないと思い込んでいた。
誰にも愛されず、必要とされないと感じていた。
けれど今、誰かの役に立てた。
たった二時間の、ささやかなことでも。
「ありがとう」と言ってもらえた。
助けたのではなく、助けてもらったのだ――薫子はそう気づく。
阿部暁子さん。
岩手県出身。2008年『屋上ボーイズ』(応募時タイトル「いつまでも」)で第17回ロマン大賞を受賞しデビュー。
著書に『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』『パラ・スター “Side百花”』『パラ・スター “Side宝良”』『金環日蝕』『カラフル』など。
