阿川佐和子さんは、古稀を迎えても好奇心の衰えを知らない。執筆からラジオ、講演会、ロケ、ゴルフまで嗜んでいる。ネガティブではなくポジティブな明るい気持ちで、うま~く歳を重ねていかれているようでなによりだと思います。
ボクシングの世界タイトルマッチやワールドカップのサッカー、オリンピック・世界選手権などの日本という国を代表とした人たちが出ている競技・試合を見るのが好きな理由として、アガワさんと同じように興奮と興味に心が揺さぶられる心境になるからだと気づきました。
36P バイキングオリンピック
「ティロリン」
スマホの音が鳴る。新しいニュースが入った合図だ。
「卓球のミックスダブルス、金メダル」
慌てて私は書斎を飛び出し、またもやテレビをつけるハメになる。
なぜオリンピックは面白いのか、その理由が今回、少しわかった気がする。
感動に浸る間もなく次なる競技が始まって、新たな興奮と興味に心が揺さぶられるからだ。まるでバイキングレストラン。食べても食べても違う味わいの料理が待っている。お腹も胸もいっぱいなのに、まだ食欲をそそられる。ああ、どうしよう。仕事が手につかないの。
やらない後悔をするよりもそのときにやればよい。その結果がいずれ出てきますから。うまくならなくても悔やむことが少なくなり諦めや納得がしやすくなるというものです。したいと思うのならばすればよい。すべてを手に入れることができないし、全部は叶わないものです。格言だなあ。
170P 夢の住処
人生は妥協の産物だ。何かを手に入れれば何かを捨てなければならない。叶わぬことがあるから明日への意欲は湧くというものだ。夢は一つくらい残しておいた方がいい。いつの日か、波の音を聴きながら朝ごはんを食べられるかもしれないのだから。たとえそれが施設であったとしても
「青春は今」と言えるアガワさんを見習って、しかし、ぼくは今は、……!?
246P
時々私より少し上の世代の方が若者に何か向かって語りかけている姿を見かける。
「若いうちの花よ。歳をとるとね、面白いことは何にもなくなるから」
そんな声を耳にするたび、私は秘かに反論したくなる。そうでもないんじゃないですか?まだ面白いこと、知らないこと、初めて出会って興奮することは、いくらでもある気がする。高齢者が物知りだというのは単なる思い込みに過ぎない。少なくとも私はろくにモノを知らない。若い頃、勉強を熱心しなかったツケが回っているせいかもしれない。癇癪持ちの父の圧政の下で自由を謳歌できなかったという意識もある。おかげで今のほうが楽しい。しだいに足腰が弱まり、頭の回転も鈍ってくるだろう。だからこそ毎日を笑って生きていたい。我が青春は、今なり。
<目次>
すず子のこと
メイクはつらいよ
ワクチン星の使者
五輪の記憶
バイキングオリンピック
うーむ
親子爪切り
三つの目標
動かぬ時計
女心と秋の髪型
日曜日の神様
カチン虫のなだめ方
歯より始めよ
さみしい力
Wの悲劇
合点と落胆
六十八の手習い
披露目の段
いたずらばあさん
講演恐怖症 ほか
あとがき
阿川佐和子さん
1953年、東京生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒。エッセイスト、作家。99年、檀ふみとの往復エッセイ『ああ言えばこう食う』で講談社エッセイ賞、2000年、『ウメ子』で坪田譲治文学賞、08年、『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞。12年、『聞く力―心をひらく35のヒント』がミリオンセラーとなった。14年、菊池寛賞を受賞
