野口さんは、日本の現状を強く憂いておられた。現在の旧態の産業重視の状態から早く脱却することを提言していた。ここでは、アメリカの事例を取り上げながら日本との比較で日本の現在と将来を考えていくような方法性があった。
アメリカの豊かさの源泉は、かつてのローマ帝国の繁栄と同様に「異質なものへの寛容と多様性の容認」だった。
例えば、介護分野での労働力を高めるために他国から移民を受け入れる用意がないか、IT分野で世界から優秀な人材を受け入れて能力を発揮できる機会を与えているかどうか等。
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私は、日本の政策が、いまの状態から脱却することを強く望んでいる。
しかし問題は、果たして、日本の政治や行政や企業が、実際にそのような転換を行えるかどうかだ。これについて楽観的には到底なれない。
企業が政府からの補助金を求め、政治家がそこに介入するという構造も、金融政策が消費者を無視して企業のために円安と低金利を続けることも、政治家が次の選挙のことしか考えないことも、野党が全く頼りにならないことも、容易には変わりそうにない。
日本の構造を変えるには、日本人一人ひとりの意識が変わることが必要だ。
経済的な凋落傾向は、円安による企業利益の享受を許しているところにある。円安で日本の労働の価値が、国際的に低く評価されるようになったことを意味するものと感じられた。
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円安になると、日本円に換算した売上額は増加する。原材料価格の上昇分は販売価格に転嫁されるため企業の利益が増加する。このため株価が上がり、政治的に歓迎される。
円安で企業の利益は増えるが、それは帳簿上のものに過ぎない。企業利益が増える基本的な原因は、輸入価格の上昇分を消費者物価に転嫁することにある。円安による企業利益増は、消費者の犠牲において生じるのだ。生産性の向上による健全な利益増ではない。
しかも、そうしたメカニズムで利益が増えるために、企業が技術開発に取り組まないという問題がある。日本経済の長期的な停滞は、これによって引き起こされた。
152P 円高に誘導して実質賃金を引き上げよ
中長期的には、生産性が上昇しないと、賃金は増えない。生産性が上昇して付加価値が増えれば、賃金が上昇して消費が増加し、その結果、経済成長率が高くなる。
生産性上昇を伴わない賃金の上昇は、スタグフレーションを加速させる危険がある。その意味で問題をはらむ政策だ。
実質賃金を維持するために短期的な経済政策として実行すべきことは、物価上昇を食い止めることだ。現在の日本での物価上昇は、基本的には円安による。したがって、為替レートを円高に導くことが必要だ。
<目次>
はじめに
図表目次
第1章 日米給与のあまりの格差
第2章 先端分野はアメリカが独占、日本の産業は古いまま
第3章 円安に安住して衰退した日本
第4章 春闘では解決できない。金融正常化が必要
第5章 アメリカの強さの源泉は「異質」の容認
第6章 強権化を進める中国
第7章 トランプはアメリカの強さを捨て去ろうとする
おわりに
索引
野口悠紀雄さん
1940年、東京に生まれる。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専攻は日本経済論。近著に『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社、岡倉天心賞)ほか多数
