【No1534】彷徨う者たちwanderers 中山七里 NHK出版(2024/01) | 朝活読書愛好家 シモマッキ―の読書感想文的なブログ~Dialogue~

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141P

「これ以上、話しても無駄だ。お前に被災した人間の痛みは分からない。俺たちの話を聞いても理解できない。」

そう言い捨てると貢はベンチから立ち上がり、蓮田に背を向ける。

蓮田の方は立ち上げることもできなかった。

貢の言い方が一方的であるのは承知している。会話を拒絶するための方便であるのも分かっている。

だがひと言も言い返せなかった。震災を機に奪われた者とそうでない者は明確に分かたれている。

喪失感と罪悪感、劣等感と被害者意識、失意と安堵。両者を分かる溝は深く、長い。

 

なぜ彼は殺されなくてはならなかったのか!

仮設住宅で発見された他殺体。この被害者は南三陸町役場勤務で仮設住民対応の担当者である掛川勇児だ。

宮城県警の笘篠誠一郎刑事と蓮田将悟刑事は仮設住民と被害者とのトラブルの可能性を想定して捜査にあたった。そこで遭遇したのは蓮田が忘れがたい過去に決別した人物たちだった。

密室で起きた殺人事件の謎を紐解きながら、被災地復興の裏側でいまだ彷徨い続けている被災者の心情を並行して描いていた。

当事者でない限り、被災者の真の苦しみを理解する事は難しい。外見だけを整えてもそれが被災者にとっての真の救いにはならないことを実感した。

被災地の登場人物たちの間で激しく揺れ動く心情と人間模様を描いたミステリー。

 

 <目次>

一  解体と復興

二  再建と利権

三  公務と私情

四  獲得と喪失

五  援護と庇護

エピローグ

 

 

1961年生まれ、岐阜県出身。『さよならドビュッシー』にて第8回「このミステリーがすごい!」大賞で大賞を受賞し、2010年に作家デビュー。著書に、『境界線』『護られなかった者たちへ』『総理にされた男』(以上、NHK出版)、『絡新婦の糸―警視庁サイバー犯罪対策課―』(新潮社)、『こちら空港警察』(KADOKAWA)、『いまこそガーシュイン』(宝島社)、『能面刑事の死闘』(光文社)、『殺戮の狂詩曲』(講談社)ほか多数。