最後の「星の随(まにま)に」がよかった。
夫婦の離婚やいざこざは、なにかしら子どもに影響を与えるものだ。
こどもは、表情とは違って心のなかの平静を保てないものだと思う。
東京大空襲を経験したご近所の婦人佐喜子さんが少年想くんに関わってくる。
「あの夜は、東京大空襲の夜は星座が見えたんですか?」
と聞く想くんに対して、
「火の上にはきっと星座が光っていたんでしょうけど」
「炎の熱と熱さで星座もほどけてしまったんじゃないかしら。こんなふうに」
と佐喜子さんは答えた。
佐喜子さんは、暗い夜空、B29から落とされる焼夷弾、燃えさかる町、溶けてしまった星座を、施設に入る前に思い残すことなく描いた。
佐喜子さんが想くんに語った、おわりのこのことばが印象に残った。
214P
「約束してくれる?どんなにつらくても途中で生きることをあきらめては駄目よ。つらい思いをするのはいつも子どもだけれどね。それでも、生きていれば、きっといいことがある。……私はあなたにこのマンションで出会えて良かった。いつか忘れてしまうかもしれないけれど、なるべくあなたのことは忘れないようにするね」
世代を超えこころ通わせるピュアな友情のようなものを感じた。
ぼくが、想くんならばどう感じるだろうか?
ずっとこころに留めて、大人になっても忘れないだろう。
自分が受けた悲しみやつらさを次には体験させたくない。
佐喜子さんのような御年になったとしたならば、大人になってさらに分かった意味を含めて、次の世代に大切な思いを繋いでいきたいと。
かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。
<目次>
真夜中のアボカド
銀紙色のアンタレス
真珠星スピカ
湿りの海
星の随に
1965年東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で女による女のためのR‐18文学賞大賞を受賞。受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位、2011年本屋大賞第2位に選ばれる。また同年、同書で山本周五郎賞を受賞。12年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞、19年『トリニティ』で織田作之助賞を受賞。第167回直木賞受賞作。心の揺らぎが輝きを放つ傑作。
