ギャラ飲み志願の女、親友をひそかに裏切りつづけた作家、大切な手紙を失くした高校生、寝たきりの老女。感染症が爆発的流行を起こす直前の東京の男女6人の体験を描く。
心の内を垣間見られ、人の腹黒い部分が描かれていたように思えます。
現実では心の声が思わず外に漏れてしまいそうになるけれども、この物語のなかでは決して表には出さないようにしていたいと思えるような短編集でした。
違うぞ。「顔じゃない。心に向き合え」と言いたい。
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そして何より、
<心じゃない。顔と向きあえ>
モエシャンのアカウントのプロフィール欄にただひとこと書かれてあったその文句に、トヨは痺れた。
この関係の雰囲気や意味がよくわかります。特に問題がないからそれ以上に進まなくてもよいという気持ちになります。他の人から告られるとか何かしらの二人の間に変化がない限り、このまま時間が過ぎていきます。
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僕らが学校の外でたまに会ったり、ときどき電話で話すようになってから、一年が過ぎていた。僕は彼女のことが好きだった。彼女のほうも僕に好意を抱いてくれているという感覚があったけれど、でもそれがどんな種類の好意なのかまではわからなかったし、今の雰囲気を壊してしまうかもしれない可能性があると思うと、そうまでしてそれを確かめようといく気にはならなかった。もちろん彼女に触ったこともない。僕らはいつもただなんとなく話をしているだけで、話しているのはいつも他愛のない話で、
「いずれ何者かになる」という気持ちは、若者の特権だ。将来きっとなにかには必ずなれます。何になれるのかは自分次第だ。
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その年頃の多くの自意識過剰な若者がそうであるように、わたしたちも自分たちが将来について期待したり夢を持ったりしているという自覚もないくらいに、わりに自然なこととして、いずれ何者かになるのではないかと漫然と思っているところがあった。
混乱、戸惑いの表現方法について、例えがうまいと思いました。
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うん、とも、そう、ともつかない声を出してわたしは反射的に返事をしたけれど、さっきの見砂の言葉の真意がつかめず、あるいはつかもうとして、わたしは混乱していた。まるで足元に散らばった細かな何かをかき集めなければならないのに、でも最初にどれに手を伸ばせばすべてを正しく拾えるのかがわからず動けない、それはそんなような戸惑いだった。
幸せに思う尺度は、ひとそれぞれです。
当たり前の毎日で一つひとつしあわせを積み重ねていくことができれば、トータルとして幸せな人生となります。
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「何がしあわせかわからないけど」ネコさんは言った。「自分が何をしあわせに思うかに気づくのが、大事だと思うわ」
