主人公の音海星吾は、美術サークルに属する大学生。
中学時代に不良たちに絡まれた星吾は、彼を助けようとして身代わりに刺された大学生を見捨てて逃げてしまった。警察にも消防にも通報せずに、助けられる生命であった大学生を死なせてしまった。そんな彼が自己の弱さにもがき苦しみ贖罪を願う悲哀のミステリーだった。
厳密に言うと星吾は事件の加害者ではない。人を放置したことは許されることではないが、14歳の少年がその場に居合わせた時にそんな冷静な判断ができるのだろうか。
星吾は、自分を救ってくれた人を死なせてしまったことをずっと後悔し他人と心が交わらない人生を選んでいた。
どこからどこまでが加害者側になのかと線引きが難しい立場から、どう世間の眼に映るのかと正義感を模索させられた。
SNSの匿名で安全な場所から他人を酷く激しく叩きのめすように批判できる理由のひとつとして、セロトニンが分泌され正義中毒のエクスタシーを感じるからと中野信子さんの本に書かれてあったことを思い出す。
法的にはグレーゾーンのような報道やSNSでの誹謗中傷といった現在進行形の問題もあって、自分だったらと置き換えて考えさせられる話であった。
人間は完璧ではない。時には間違いも犯すものだ。
自分を赦し許されるために、時間がかかってもどのように考えて、どういう行動をとるのか、どう生きていくのかが贖罪ではないかと思った。
1976年長野県生まれ。2006年伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞で審査員奨励賞、スタッフ賞を受賞。08年第1回富士山・河口湖映画祭シナリオコンクールで審査委員長賞を受賞。11年「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞。16年「サイレン」が第69回日本推理作家協会賞短編部門の候補作に選ばれ、連作短編集『ジャッジメント』でデビュー
