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「東京に来て、人と交われたか?」
「そんなに多くはないけど、何人かとは」
「そうか、それはよかった。でな」
「うん」
「瞬一は、頼る側じゃなく、頼られる側でいろ、いつも頼ってたおれみたいな人間じゃなく、おれに頼られてた摂司みたいな人間になれ。お前を頼った人は、お前をたすけてもくれるから。たすけてはくれなくても、お前を貶めはしないから」
「わかった」
「人は大事にな」
「うん」
じいちゃんはあまりそういうことを言わない。だからこそ、言われると響く。
言葉は宝もの。
じいちゃんと瞬一との会話は力強くストレートに心に響いてくる。
目からはテンポよく涙があふれ出てくるように。
心に沁みる。ほっこりとするじいちゃんの言葉。
主人公の瞬一は、縁がある人、周りの人に恵まれている。
バイト先の人たち。大家さんやアパートの隣のシングルマザーの住人などの関わった人たち。
優しくて温かくて、こんな人たちと一緒に過ごしていけたら幸せだ。
家に蛾が飛んできたりゴキブリが出たりしたら、自分が退治にしていくようなお節介気味の繋がりやふれ合いが大事。
ウォーキングやランニングなどで体を動かすことが好きな何気ない瞬一の日常。
人とのふれあいがただひたすらテンポよく紡がれていく心地良さがあった。
人として生きていく上で大切なことのひとつ、誠実さ。
それを素直にすくい取って生き方に繋げている青年から、さりげない当たり前の毎日が幸せだなと気づかせてくれた。
千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞、08年「ROCKER」でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞し、単行本デビュー。『ひと』(祥伝社刊)が2019年本屋大賞第2位となりベストセラーになる。
