読んでみたらわかる。
「狂気-彼は狂っているんじゃないのか!」
興味本位で読み進めてはいけないくらいに重苦しい流れが続く。
「正常と異常の境目はどこにあるのか!」
異常が正常だという風に逆に見えてしまうくらい息苦しい展開が続く。
終盤の犯人の手記から、自分の謎を解決したくて圧倒されるくらいもう一気読みをさせられる。
ストーリーがかなり入れ込んでいてなかなか複雑、奇妙でありスリリングな展開が続く。
よくよく深く練られ考えられ作られたよい作品だとぼくは思う。
<目次>
第一部
第二部
第三部
◎1977年愛知県生まれ。福島大学卒業。「銃」で新潮新人賞を受賞しデビュー。「土の中の子供」で芥川賞、「掏摸」で大江健三郎賞受賞。日本人で初めて米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。
210P
科原を見送った後、禁煙していた煙草を吸いたくなる。離婚して以来、特定の女性と付き合ったことがなかった。三年前、一年の結婚生活でお互いに疲労し、慰謝料も何もない形で別れた。他人を自分の中に引き入れることにも、自分を他人の人生に関わらせることにも、もう僕は臆病になっている。
「ずっと私に遠慮してたね」
離婚した時、妻だった彼女は寂しげにそう言った。
「でもそれは私への優しさじゃなくて、あなたがつくったる壁なんだよ」
僕は彼女が離婚を告げた時、少しの抵抗もしようとしなかった。
「私は人生をやり直したい。やり直す、という言葉にあなたは傷つくかもしれないけど……。新しい男性は、あなたより魅力がなくて優しくもない。でもあなたよりシンプルなの」
彼女はあの時泣いた。
「私はその人のそばで平凡な主婦になるつもり」