「珈琲とミステリー小説は、似合ってるよ」
小説を読む楽しみの一つに、自分の知らない世界を知ることが含まれます。
喫茶店には、珈琲を飲みに行くがそこで働かない限り、その業界の諸々を知ることは難しいもの。
軽快で小気味良い話しの進み方が美星の性格にあっていると思います。
推理とエピソードがうまい具合にブレンドされていて、甘酸っぱさを醸し出しています。
<目次>
午後三時までの退屈な風景 7
パリェッタの恋 43
消えたプレゼント・ダーツ 123
可視化するアール・ブリュット 171
純喫茶タレーランの庭で 223
リリース/リリーフ 253
◎1986年、福岡県生まれ。京都大学法学部卒業。第10回『このミステリーがすごい!』大賞隠し玉として、『珈琲店タレーランの事件簿また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』(宝島社)でデビュー。同書は、2013年第1回京都本大賞に選ばれた。
115P
「よう見たら、容姿は別に全然似ていないねんけどな。ただ意志の強さいうか、これと決めたら障害をものともせず突き進もうとするところなんか、やっぱり似てると思うんや。まあなんやそういう空気みたいなんを、あの日道ばたでへばってるあんたから感じ取ったんやろな。自分でもようわからんけど、たぶんそんなこっちゃろうと思うねん」
168P
そのときになってオレは、やっと思い知らされたのだ。ダーツでも、知恵でも、そして女との関係に対する挑戦においても、初めからオレは何ひとつ、彼に勝ってなどいなかったことに。
「だって、言えるわけないじゃないですか―あなたにもらった大事なダーツをなくしてしまいました、だなんて」
265P
シャルルがわたしの首元に頭をすりつける。その目が再びこちらを見上げても、わたしは自分の意志で逸らさなかった。その線をなぞるように降り始めた雫を、毛が吸ったぶんだけ重みの増した猫を抱くとき、わたしはこの両腕の感触を生涯忘れまい、と心に誓った。
