最後まで読み応えがありました。
読み終わって振り返ると背筋がぞっとするようなミステリー短編集です。
ジャンルが違う6つのお話をこんなに綺麗にまとめられるなんてすごいぞ!と感心しています。
それぞれの物語の視点が面白く、米沢さんは、相当の力量を持っている作家さんだと思います。
米沢さんのこれからに期待しています。
<目次>
夜警 5-55
死人宿 57-97
柘榴 99-138
万灯 139-221
関守 223-280
満願 281-330
◎1978年岐阜県生まれ。2001年、『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。
2011年、『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞
101P
佐原成海とは大学のゼミで出会った。彼は美男子ではなく、着ているものも上等ではなかった。けれど言葉を交わせば、耳に心地よい声の響きや気を逸らさぬ話しぶりが妙に異性を魅了する。誰もが彼を好きにならずにはいられない。私もまた、彼の言葉の不思議な抑揚にからめ捕られた。
ゼミでは彼を巡って暗闘が繰り返された。噂話と陰口が敵を蹴落とす手段で、誰もが抜け駆けと誘惑を狙っている。敗者は貶められ、神経を病んで大学を去った子さえいた。研究室の雰囲気はぎすぎすして、関係のない男たちには気の毒なぐらいだった。
192P
ジープが止まる。少し待って、言う。
「……すみません、森下さん。確かめてきてもらえませんか」
「えっ」
「手がハンドルから離れないんです。確かに死んだか、見てきてください」
そして私は、隣に座る森下を見た。
彼の顔からは血の気が引いていた。血の気だけでなく、理性も意志も何もかも吹き飛んだ、ひどい顔をしていた。
背中を冷たいものが伝う。
この男は駄目だ。とても信じるに値しない。とんでもない男と大事を共にしてしまった。この刹那の森下の泣き顔は、それほどに幼かったのである。
