短編は、書き手の力量が如実に現れますね。
池井戸さんお得意の銀行がからむ小説です。
読んでいる時には、ここにだけ夢中にさせてくれます。
一読してよくわからない難解な部分があります。
でも、それは銀行関係者なら簡単にわかることだろう。
銀行が営利を目的として企業活動を行っており、その結果として強引な融資をしているとか、倫理や道徳、法律に反するような活動をしていることが、あたかもそうあるかのように書かれてあって面白い。
<目次>
金庫室の死体
現金その場かぎり
口座相違
銀行狐
ローンカウンター
◎1963年、岐阜県生まれ。慶応義塾大学文学部・法学部卒。1988年、三菱銀行(当時)に入行。1995年、同行を退職。1998年、『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞を受賞
153―154P
萬田は、柳井の言葉を遮った。
「横川社長は今までさんざん東都銀行渋谷支店のために尽くしてくれたと君は言った。その誠意に対して当行はどんなお返しをしただろうか。いいか、これは銀行員としてではなく、一個人の意見として横川社長の気持ちになって言わせてもらう。業務運動があればまっ先に協力し、懇親会の幹事も務め、気を遣って差し入れまでする。そこまで尽くしてきたのは、いざというとき助けてもらえるという気持ちがあったからだろう。ところが、当行は横川プラスチックを管理先に移し、新規融資を断った。もらうものだけもらい、与えるものは何も与えない。いろんなことに担ぎ出し、さんざん協力を頼んできたくせに、いざとなったらすべて引き上げようとする。これが裏切りじゃなくてなんだ。
銀行を裏切ったのではなく、銀行に裏切られた。横川社長にすればそれが正直な思いなんじゃないか。横川社長は生き残るための選択をしたんだ」
しばらく、柳井は何も言えず、俯いたまま黙っていた。
