☆紙の月 角田光代 角川春樹事務所(2012/03)☆ | 朝活読書愛好家 シモマッキ―の読書感想文的なブログ~Dialogue~

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読書とは――著者や主人公、偉人、歴史、そして自分自身との、非日常の中で交わす対話。
出会えた著者を応援し、
本の楽しさ・面白さ・大切さを伝えていきたい。
一冊とのご縁が、人生を照らす光になる。
そんな奇跡を信じて、ページをめくり続けています。



日常に潜む狂気!



嘘に嘘が塗りたくられる。


嘘×嘘=真にはならない。


あくまで嘘のまま。



自転車操業時のような犯罪に犯罪が重なり続ける。


それを抱え切羽詰まっていき、誰にも相談できずにのめり込んでいく女の心情がひしひしとぼくに迫ってきます。




わかば銀行の契約社員、梅澤梨花(41歳)は、とても可哀相な人間だ。


あの時期には理性や倫理観がなかったのだろうか!


自分だけで世の中を生きているわけじゃない。


罪が軽いうちに誰か信用できる人に相談することはできなかったのか!


早い段階で気づくことができなかったのか!


家族、親戚、友人、知り合いにも、いつか将来迷惑がかかるとは思わなかったのか!


周りを客観的に見ることができなかった。


もし途中でわかったとしても、どうしてよいかと悩んでしまうかもしれないが。




彼女の「万能感」― ぼくはそれが気になってしょうがないのです。



読んでいた途中、彼女に「もうやめてくれ!」って心の中で叫んでしまうくらい、入れ込んでしまった。



彼女には、第三者的な視点や思考が必要だったと。




彼女の横領は、顧客から預かった5万円から始まりました。



ほんのささいな気持ちから。


小さなことのように思われるその事件から始まって犯罪が積み重なっていく。



だんだんと大きくなって、雪のように降り重ね積もっていく。



もう戻れない状況になって「もし……」そうでなければと考えても遅いのです。



ああやって誤魔化しても、後戻りできない。



歯車が狂ってしまったのです。




「説明のつかない万能感の心地よさ」や「得体の知れない万能感」が事件のきっかけ。



彼女は、精神的におかしくなって、こころが壊れていたことがよくわかります。



そうわかるけれども、ぼくには彼女の行動の一部がいまだに理解できない。




誰にでも起こるような事例だと思います。


サークル、町内会、親睦会などでみんなのお金を扱うときにそう思います。



1億円という金額の横領は大金ですが、ほんのわずかな金額であっても大同小異か。




他山の石として、肝に銘じて生きていきたい!


道を踏み外してしまわないように、自分を戒めていきたい!






 <目次>


プロローグ

第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

第6章



◎神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。

「対岸の彼女」で直木賞、「ロック母」で川端康成文学賞を受賞。




12P

あでやかな美しさではなく、おろしたての石鹸のような美しさを持つ子だと、中学生のころから木綿子は梨花について思っていた。








135P

駅のホームはひとけがなく、梨花はベンチに座って電車を待った。薄青い空に白い月が残っていた。唐突に、梨花は指の先まで満たされた気分になっていくのを感じた。満足感というよりは万能感に近かった。いこうと思った場所へどこへでもいくことができる、やろと思ったことをどのようにでもやることができる。

自由というものをはじめて手にしたかのような気分だった。梨花は罪悪感も不安もいっさい感じることなく、自分でも説明のつなかないその万能感の心地よさに、ひとけのないホームでひとり浸っていた。







265-266P

「花火の向こうに月がある」ぽつりと光太が言った。たしかに切った爪のように細い月がかかっていた。花火があがるとそれは隠され、花火の光が吸いこまれるように消えるとそろそろと姿をあらわした。






307P

ほとんどものの入っていない手提げ袋のなかで、手がパスポートに触れる。さらりと乾いたその感触を指の腹で数秒味わい、梨花はパスポートを取り出し男に渡した。そうして自分の声がすがるようにつぶやくのを、聞く。かつて愛した男が言ったのとおなじ言葉を。

「私をここから連れだしてください」と。