「舟を編む」― 言葉の重要性を発見するために効果的な1冊。
辞書を作るという地味な作業に陽を当てたのは素晴らしい視点。
一月後に、二度読みしました。
ぼくも目標を掲げてやり遂げてきたことがあったからこそ、終わった後の達成感、満足感は共感しやすかったです。
「愛情」と「編纂」
手元に辞書を置いてわからない言葉を思わずくりたくなりました。
辞書を作るって、こんなにたくさんの時間と労力がかかるとは知らなかったな。
主人公の彼らといっしょになって自分も辞書を作っているような感覚を覚えるほど、この中に引きこまれたのです。
これでもう終わってしまったのか!と思うくらい、読み終わってからすこし寂しい気持ちがしています。
辞書の編纂にかける気持ちが熱く伝わってくる素晴らしい小説でした。
映画にもなっているのでそれもぜひ見てみたい。
読むのとまた違った感動を映像でも味わいたい。
☆1976年東京都生まれ。2000年「格闘する者に○」でデビュー。06年「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞受賞。ほかの著書に「風が強く吹いている」など
27P
「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」
魂の根幹を吐露する思いで、荒木は告げた。「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かび上がる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために、もし辞書がなかったら、俺たちは茫然とした大海原をたたずむほかないだろう」
「海を渡るにふさわしい舟を編む」
松本先生が静かに言った。「その思いをこめて、荒木君とわたしとで名づけました」
きみに託す。声にはしなかった言葉を聞き取ったのか、馬締は円卓から両手を下ろし、姿勢を正した。
186P
たくさんの言葉を、可能なかぎり正確に集めることは、歪みの少ない鏡を手に入れることだ。
歪みが少なければ少ないほど、そこに心を映して相手に差しだしたとき、気持ちや考えが深くはっきりと伝わる。
一緒に鏡を覗きこんで、笑ったり泣いたり怒ったりできる。
辞書を作るって、案外楽しくて大事な仕事なのかもしれない。
258P
めでたい晩にも、『大渡海』のこのさきを考えている。さすが荒木さんだ。松本先生の魂の伴走者だ。
辞書の編纂に終わりはない。希望を乗せ、大海原をゆく舟の航路に果てはない。
馬締は笑ってうなずき、
「では、今夜ばかりはせいぜい飲むとしましょう」
泡があふれぬよう注意しながら、荒木のコップにビールをついだ。
