志茂の妄想部屋。 -36ページ目

気になる存在との恋の駆け引き 2

前回の続きですッ。どうぞ読んでやってくださいッ



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大津はまだ帰ってきていないのか、教室のどこを捜しても見つからない。
喋る相手もいないから、僕は大人しく席に着くことにした。
バックからいつも読んでいる小説を出し、読むことにした。
たった一年の留年の差は意外と辛い。話す内容も合わず、ファッションの感覚も違う。
聞く分にはそんなことないとよく云われるんだけど、実際には相当の差がある。元々、人見知りをし、自分からは喋らない方だったから、人との接し方がよく分からない。

「真島、お待たせ」

フッと顔を上げると、大津が教室に戻ってきた所だった。

「結構かかったね」

時計を見ると既に二時間目が終わり三時間目に突入していた。

「あの保健医の紹介とかもあったしな。ったく、何で女じゃねぇかなー・・・」

(まだ言ってる)

心底重い溜め息を吐き出して俺の机にしなだれかかる大津。思わず苦笑してしまった。

「あ、今笑ったろ。人事だと思って!」

大津がキッと睨んで反論する。しかし、本気で怒ってなんかいないって分かっている。
大津は僕の事情を知っていて、打ち明けた後も同じ様に接してくれた。
年上だからといって敬語を使ったり、下手に同情したりせず、
ニカッと笑って手を引っ張って行ってくれるのだ。
イイ奴だなと、心から思う。こんな友達を持って自分は幸せだ。

「?・・・どした、真島。ボケッとして」
「あ、何でもない・・」

僕ってば、ついぼんやりしてしまった。

「熱でもあるんじゃないか?健康診断クリアした?」
「うん。どこも異常なしだったよ」
「マジ?俺なんか虫歯で引っかかっちまってさー」
「それは早めに治さなきゃ。後々酷くなったら大変だよ」
「うん、そだな。でも歯医者は嫌だなぁ・・」

(また子供みたいな事言ってる)

プッと笑うと、また大津がプンスカ怒ってしまった。
その時、タイミング良く先生がやって来て、三時間目の授業が開始された。

その後、順調に四時間目の授業も行われ、お昼休みに入る。
今日はお弁当を持ってこなかったから、大津と一緒に学食に行くことにした。

(何にしようかな・・・)

「真島どうする?」
「ん~カレーにしようかな。大津は決まった?」
「おうっ!ラーメン食うことにするよ。あ、あとお前席見つけとけよ。俺がお前の分も頼んどくから」
「ありがとう。じゃあ、よろくね」

食券を買い、それを大津に渡し、席を探すべく混雑した食堂に分け入った。 
席は意外と早く見つかり、場所が注文取り口から近いこともあり大津も迷わず、席につけた。

少し甘めのカレーを口に運んでいると、後ろに座っている女の子達の話し声が耳に飛び込んできた。

「ねぇねぇ、佐倉先生。あれって当たりじゃない?」
「言えてる!超カッコイイよね」
「私、今日の調理実習に怪我して保健室に行く~っ」

キャハキャハと楽しそうに話す女の子達に、目の前に座った大津が、

「最近の女子って怖ぇな・・」

と、ボソッと呟いた。噂の的は、新任の保健の先生だ。高い背丈に優しく丁寧な口調で、おまけに顔もカッコイイとなると、学校中の女の子達が黙っていない。

「でも確かにモテるのも分かるよ」
「うーん。まぁな・・」

険しい顔でラーメンを啜る大津。無論、大津だってかなりモテている。運動部に所属していて、爽やかさが売りの大津は、女の子達に人気を誇っている。

「大津だって人気あるじゃないか」
「そうかな?う~ん」

曖昧な態度のままチャーシューを食べている姿を見ていると、突如学食内が黄色の歓声に包まれた。

「キャーッ、佐倉先生よ!」
「何、食べるのかしら」
「まさか、ここでご飯食べるだなんて、ラッキー!」

ここの学校は、大きさの設備も立派で、学食も先生用と生徒用に分かれている。 たまに、先生が生徒と話をする為に来る事もあるが、ここでご飯を食べる先生は前代未聞だ。

「王子様のお出ましって訳か」
「王子様って・・」

メルヘンな呼び名だねと言おうとすると、大津のコップが空だというのに気付いた。

「お水入れて来るね」
「あぁ、サンキュ。悪いな真島」

こういうのにはもう慣れている。普段、弟妹二人の世話をしている癖で、
些細な所にも気を使ってしまう。
例えば、このお水なんていい例。でも、嫌々やっている訳じゃないし、むしろ好きでやっている事だから苦ではないんだけどね。
備え付けの機械から水を抽出し、戻ろうと振り返った時にアクシデントは起こった。
僕が振り返るのと、生徒が道を通り過ぎるのが同時で、勢いよくぶつかってしまったのだ。

  ガシャーンッッ

ガラスの割れる音と、女子が持っていたお蕎麦の容器が床に叩きつけられる音が混じって、派手な音が響く。

「――ッ!」
「だ、大丈夫ですか!」

ぶつかった拍子に、めんつゆが手にかかってしまったみたいで、ジワッと熱さと痛みが体中を駆け巡った。

「わ、私がボケッとしていたばっかりに・・・本当にごめんなさい」
「あ、こちらこそ。注意してなかったから、すみません」

アワアワとしている女性とを少しでも安心させようと、言葉を紡ぎ出す。
しかし、ジワジワと痛み出した手は、結構キツイ。

「もしかして、火傷?ち、ちょっと待ってて下さい。今、先生呼んできますから!」

大丈夫という言葉を返す暇もなく、一目散に走り去っていく後ろ姿。やがて、神妙な顔つきで、佐倉先生が駆け寄ってきた。

「君、大丈夫かい?痛みは?」
「あ、はいちょっとだけ・・」
「診せてみなさい」

言うなり、ブレザーとシャツを一気に捲り上げられる。

「ッ――」
「酷い火傷だ、痛かっただろう。今すぐ処置してあげるから、もう少し我慢できるかい?」
「あ、もちろんです」
「よし」

言うなりヒョイと軽く僕を抱き上げた。
いつの間にか出来ていたギャラリーが一斉にどよめく。

「恥ずかしいだろうが、このまま保健室まで連れて行くからね。
目でも瞑っていれば、すぐに着くから安心しなさい」
「は、はい」

間近で見る先生の顔に、心臓が飛び出しそうになる。
そう言えば以前もそうだった。健康診断の時、この綺麗な顔に目を奪われて・・・。

「さぁ。そろそろ行こうか、真島君」

(え――)

自分の名を刻む先生を仰ぎ見るが、もはや先生の視線は保健室への道のりに向けられている。
真面目そうな先生の事だ。きっと全生徒の名簿をファイリングして、
顔と名前を覚え込んだに違いない。でも、例え名簿で覚えていたとしても、まるで初対面のときを覚えていたのではないかという錯覚を起こしてしまう。
手はヒリヒリと痛みを増すばかりだけど、なぜか心は穏やかだった。
学食から保健室に行く間、僕らは注目の的になった。
それはもちろん、先生が僕をお姫様抱っこしているのと、元々、先生の存在自体が視線を集めていたので二重、三重と廊下を通るたびにどよめきが起きた。
恥ずかしかったけど、先生の言う通りに目を瞑っていたのであまり気にならなかった。




                                      -続く-