2012年の10月に行われたNHK音楽祭での収録が先日放送されましたので、
ご覧になった方もおられるかと思います。

指揮者ティーレマンはここ数年、スター指揮者が相次いで故人となる中で、その存在感が際立ってきましたね。
そんな中、シュターツカペレ・ドレスデンとのコンサート放送で接したR.ストラウスの演奏や、ここでも記した、ポリーニを迎えてのブラームス ピアノ協奏曲第一番は非常に好感のもてる演奏でありました。
そういう背景もあって、今回のブラームスの交響曲第一番と第三番の放送は、私自身の期待を確信にかえる上で放送前から非常に関心がありました。

その中身なのですが、結論から言えば、「ちょっと困ったぞ」というのが本音です。
テンポを急激に落としたかと思えば、一瞬のタメを作って、今度は一気呵成に加速する。ちょっとアクが強すぎるかな・・・。

テンポを落としてホールの響きを活かつつ、曲の構造をつまびらかにする試みも悪いとは思いません。これは当日の演奏をホールで聴いた方だけの特権でしょうね・・・テレビで鑑賞している私は一向に聴こえないホールトーンを追い求めてボリュームを上げるが、すぐに下げざるを得なくなる。そんな繰り返しでした。

しかし、オケにとっては結構ハードでしょうね。極端に遅いテンポの中で、ティーレマンはメインの楽器の美音を更に際立たせるためか、頻繁にコンマスに対し左手で抑制を促します。メインの楽器もそうですが、弱音をサステインさせて支える側も本当に大変そうで、観ているこちらも冷や冷やもんです。

ある意味、指揮者が絶対的な権力を振り回していた前時代的な演奏に聴こえなくもありませんが、この時代に、こんな演奏に触れることができることも楽しい事ではないでしょうか?
明らかに「好悪を分かつ」演奏であり、放送前のインタビューでティーレマンが「指揮者によってタイプの異なる演奏を聴くことは楽しい事でしょう?」
と言っていたのも、賛否両論を巻き起こすことを意識してのことだったのでしょう。

放送日に聴いたときには、「何じゃい、このアザトイ演奏は」と思ったのですが、体調が悪かったこともあり、復帰後に、録画を改めて聴き直して、「うーん」となり、あくる日には朝からもう一度聴きたくなった。
総じて言えば「面白い」
どこかで聴いた演奏のかき集めのようにも聴こえなくはありませんが、それはラトルがベルリン・フィルに着任した際にも言われたことであり、ティーレマンを否定する理由にはなり得ませんね。

ただ、好き嫌いを決めるのは聴く側に与えられた権利ですので、ご自分の耳で判断してほしいですね・・・出来ればコンサートに足を運んで。

昨年、久しぶりにショスタコーヴィッチを聴き直していたのですが、4番だけは手つかずに終わり、新年に伸ばしてしまいました。
こんなことを言うと、ショスタコーヴィッチ・ファンの方に笑われてしまうでしょうが、この第4番、私にとっては、一曲を聴きとおすのに相当の気合いと覚悟が必要だからです。それを怠ると、第一楽章の破裂に近い轟音や音の歪だけで体力を奪われてしまい、第二楽章に入る前に小休止を入れざるを得ない状態へと追い込まれてしまいます。
年末の忙しい最中に、4番だけはどうしても聴けなかった、というのはそういったことが背景にあります。

しかし、弩級スケールの曲でありながらも、この曲には作曲者の才覚と天衣無縫ぶりが濃縮されていて、宝箱のような楽しさが随所で味わえます。どういう意図があったのかは分りませんが、ウィキペディアにも見られるように、マーラーの交響曲第一番の葬送行進曲のモチーフが使われていたり、同じく第三番のモチーフが使われているところなどは、後々のPink Floydの「原子心母」をも彷彿とさせてくれ、個人的には大いに興味を引かれるところです。
もちろん、現代音楽的な音階を展開したりと、西欧文化の影響とはいえ、若くしてその手腕はすこぶる冴えており、これらがスターリン体制にとっては粛清の対象になると作曲者自身が判断したのか、ショスタコーヴィッチはこの作品を人目から遠ざけ、ソヴィエト共産主義お気に入りの国威発揚音楽、交響曲第5番を完成させたのは周知の通りです。

交響曲第7番以降のショスタコーヴィッチは、メッセージ的な意味合いを含めて聴いてしまいますが、この4番は、そうした政治的カラーからも遠いところで、ひたすら己の能力の限界に挑んだ作品として一段と輝いていますね。


いよいよ晦日も押し迫ってまいりました。
こんなときに是非とも聴いておきたい曲というのがありまして・・・・

いえいえ、ベートーヴェンの「第九」は普段から聴いているもので、特にこの時期というものではありません。

まあ、大晦日のさる番組と重なってしまうのですが、
1.<<威風堂々>> エルガー作曲
2.<<木星>>    ホルスト作曲 組曲「惑星」より
3.<<モルダウ>> スメタナ作曲 交響詩「わが祖国」より
4.<<遠き山に日は落ちて>> ドヴォルザーク作曲 交響曲第9番「新世界より」 第二楽章

というとこで、「なんじゃい!ベタやんけ」と言われそうではあります。

1.はイギリス人指揮者のボールトとロンドンフィル
2.は切れのあるレヴァイン指揮のシカゴ交響楽団
3と4は安心して聴ける80年代のカラヤン指揮ウィーンフィルによる演奏で聴きました。

さあ、聴き終えたところで大掃除の再開といきますか!