※ 特別機動捜査隊 まえがき

捜査担当班の詳細については、wiki特捜隊-キャストを参照、また、(本放送)とはNETでの放送、(再放送)とは東映chでの放送を指します。出演者については配役名を略していますが、本文で書くこともあります。なお、出演者をもっと知りたいときは、リスト特捜隊で検索。

また、(出演者)は、エンディングで、一列~三列で表示された男優・女優に限定しました。

1963年公開の、映画版・特別機動捜査隊全2作とは趣が異なることに注意。

 

☆・・・#779  むらさき小唄 雪之丞

 

 

 

(本放送)・・・1976年10月27日

(再放送)・・・2020年6月4日

(脚本)・・・西沢治

(監督)・・・天野利彦

協力)・・・無し

(協賛)・・・無し

(捜査担当・オープニング表記)・・・日高班

関根部長刑事(伊沢一郎)、御木本刑事(森哲夫)、木塚刑事(藤山律子)、

田代刑事(日高晤郎)、田坂刑事(倉石功)、日高主任(葉山良二)

 

(出演者)・・・

中村雪之丞、玉井ゆみ、辻しげる、岩城力也、原田雅子、三田桃基子、長島隆一、

有馬昌彦、若杉英二、中村竜三郎、南利明、竜崎一郎、島宇志夫

 

 

(あらすじ・予告篇から)

・・・ ※当時のナレーションをそのまま聞き写しています。

 

財界で悪名高き大河内善市の変死体が、社長室で発見された!

左利きの大河内の右手に、凶器のナイフが・・・!

他殺か!?

自殺か!?

癌であることを知っていた大河内。

クラブのマダム・沢村雪路を巡り、

大河内の妻・郁子と娘・志麻の女の闘いが・・・!

交錯した性の世界。

歪んだ現代の縮図。

雪路が必死で求めている、大河内の日記とは?

そして、その秘密とは!?

次回、特捜隊、「むらさき小唄」、御期待ください。

 

 

(備考)・・・

・御木本刑事(森哲夫)が初登場の回だが、特に紹介はされていない。

・劇中の間奏曲は「むらさき小唄」で、戦前の長谷川一夫主演「雪之丞変化(ユキノジョウヘンゲ)」(1935-1936年・三部作・歌・東海林太郎)でも使用された。

・劇中では、大河内善市の娘の名は詳らかにされないが、予告篇紹介から、以下本文では「志麻」として表記する。

・舞台となる雪路の店は、港区赤坂の丸ノ内線・赤坂見附周辺と思われる。

・差別用語の区別が難しいため、劇中のある言葉を、LGBT酒場、と言い換える(後述)。

 

 

(視聴録)・・・開始約15分後半まで

 

新世界産業社長・大河内善市(竜崎一郎)の急死により、邸宅では妻・郁子(三田桃基子)、娘・志麻(玉井ゆみ)のもと通夜が営まれていた。とそこに、タクシーで訪れたのは、クラブ黒の微笑のマダム・沢村雪路(中村雪之丞)であり、受付したのは日高班の関根・御木本であった。関根は内輪だけでの通夜なので引き取りを願うが、雪路は郁子に会いたい旨だけを主張、その理由を明らかにしなかった。そして渋々ながらも、面談を了承する。。。

 

大河内の通夜に日高班が関わったのは、本日の昼休み社長室で、大河内が胸からの出血多量で死亡していたことが原因だった。問題は、大河内が左利きであるのに、ナイフが右手に握られていたことで、日高班は自殺に偽装した殺人事件として捜査していたのであった。また、日高主任は霊安室で解剖医(渡辺岩)・郁子と会ったとき、解剖医の遺体は胃癌で肺にも転移して末期症状との所見に、郁子は主治医・仁科(長島隆一)から大河内に教えないよう言われたこと、会社の3人の腹心重役(岩城力也・若杉英二・中村竜三郎)にも話していないことから、一時は自殺の線も考えたが、上記のことから他殺に的を絞っていた。

 

そして、関根から、怪しげな女性・雪路の来訪報告を受けた日高主任は、郁子とどのような話をするか監視するよう指示、関根・御木本は面談の居間の外で聞き耳を立てる。すると、雪路は郁子に、ある品物を貸してくれるよう今までにも要請しているようであり、郁子は何か思惑があり返答を曖昧にしているようであった。しかし、今回ばかりは雪路の熱心さもあり、郁子は承諾するが、通夜もあり明日の午後1時に「いつもの場所」で品物を渡すと約束する。

 

約束をとりつけた雪路は、自分の店があるビルに帰るが、木塚・御木本がマーク。同じ階の隣のクラブ・ベラ・ジュテームに聞きこむ。客の三津田商事社長・三津田(有馬昌彦)の話から、ママ・浪江(南利明)が男で、この店はいわゆるLGBT酒場であることに、木塚は赤面、御木本は仰天する。ただ、浪江の証言、三津田が雪路との大人のつきあいを浪江に依頼していることから、雪路は女性であることは明らかであった。特捜隊本部では、以上の情報をすり合わせ、雪路の借りたい品物の問題もさながら、関根の所感から、日高主任は雪路と大河内との間に何かがあると確信する。

 

そして翌日、日高主任は新世界産業で先行聞きこみの関根・田代と合流、昨日の昼休みに雪路らしい女性が訪れた形跡は無く、志麻は大河内が捨てた先妻の娘ということも判明した。どうやら、大河内は名うての成り上がりで、糟糠の妻より身分ある華族出の郁子を選んだようであった。さらに、3人の腹心重役の話でも、大河内に女出入は無く、雪路という名は聞いたことがないこと、女・酒・煙草は金がかかるからやらないと言っていたこと、さらには長生きして金をもうけたい、金で日本を買う、自分のためだけに会社をつくった、などと豪語していたことも明らかになった。話を聞き終えた関根は、警官とは、大河内のような人間でも、殺されれば苦心して犯人を捜さなけれなならない因果な商売だと、ふと日高主任にこぼすのだった・・・。

 

註)下線部の理由について、納得しずらいが、劇中発言・表現通りに表記した。

 

 

当作は(備考)で「雪之丞変化」のことに触れていますが、明らかにこの作品を下敷きに制作されたものです。「雪之丞変化」とは、いわゆる仇討譚ですが、歌舞伎の女形から映画へと軸を移した長谷川一夫を起用(1935-1936年・三部作)、女形の個性を生かした1人3役が「変化」に相応しい内容の時代劇作品です。上記の長谷川一夫三部作は、戦後に編集・再公開、言葉は悪いですがフィルムブッタ斬りの「雪之丞変化・総集篇」(1952年)の形でしか残っておらず、その総合的な魅力は知る由もありません。その後、東千代之介、大川橋蔵、さらには長谷川一夫の再登場とリメイクされ、テレビでも丸山明宏(現・美輪明宏)主演で製作されたことがあります。それでいくと、当作は雪之丞変化・現代版といえるでしょう。

 

自分は、雪之丞変化・総集篇(1952年)、長谷川一夫・再登場版(1963年)しか観ていないのですが、配役を「上記の雪之丞変化→当作」に当てはめると

・中村雪之丞→沢村雪路

・中村菊之丞→浪江

・土部三斎→大河内善市

・お初→郁子

・浪路→志麻

・廣海屋、長崎屋→新世界産業の腹心重役3人

となります。キーマンである、闇太郎、門倉平馬、雪之丞の両親は当作では登場しませんが、ツボを絞った現代篇に仕上げています。

 

ポイントは仇討譚には違いないものの、問題解決を因果応報、自業自得の形にしていること、枝葉の部分を切り捨て、さらには雪路と大河内との直接的な邂逅を避けた描写でストーリーを盛り上げる趣向にあります。この点では、#776 地獄舞

 

 

で脱力感ある作品をつくった天野利彦監督とは思えないほどの凝り方で、細部を観れば首をかしげる流れ(たとえば、雪路を怪しいと思う根拠が脆弱なこと)もあるのですが、全体的には興味をひかれます。

ただ、これは自分が、雪之丞変化・総集篇(1952年)、長谷川一夫・再登場版(1963年)を観賞しているからいえることで、未見の方でしたら「ミエミエのストーリー」として、興趣を抱くのが難しいとも推察します。あるいは、雪路を中村雪之丞なる歌舞伎俳優(?)にやらせるより、この頃ならピーター(池畑慎之介)にやらせたほうがよかった、松原留美子はあと5年したら登場するので、早すぎた作品だったとか考える人もいるかもしれません。

 

この点、(備考)のLGBT酒場の表現とも関連するのですが、昭和の特捜隊の頃は、いかに言葉に寛容だったかと感じることがあります。現代は「言葉狩り」といわれるように、こちらはそんな意図は無いのに、誤読・誤解されて差別的表現と指摘されるケースも見受けられます、

拙ブログは、当時の表現ならば劇中表現通り書いてもOKという立場ですが、それ以外にも#776 地獄舞

 

 

のように前例・確証が複数あればと考え、本文ではLGBT酒場と現代言葉で書き替えています。

特捜隊での表現指摘は#597 愛の屈折 銀座

 

 

が発端であり、その後は現場の創意工夫や暗黙の了解にすべくの打合せなどで調整してきたと思われますが、だんだんと規制優先の世の中、悪く言えば臭いものには蓋をするようになってきました。それでも、#779 の時点でオープンな表現を使用したということは、もしかして、この時期すでに特捜隊番組終了(#801 が最終回)が上層部から打診されていたのかもしれません。。。