※ 特別機動捜査隊 まえがき

捜査担当班の詳細については、wiki特捜隊-キャストを参照、また、(本放送)とはNETでの放送、(再放送)とは東映chでの放送を指します。出演者については配役名を略していますが、本文で書くこともあります。なお、出演者をもっと知りたいときは、リスト特捜隊で検索。

また、(出演者)は、エンディングで、一列~三列で表示された男優・女優に限定しました。

1963年公開の、映画版・特別機動捜査隊全2作とは趣が異なることに注意。

 

☆・・・#738  十字架を背おう女

 

 

 

(本放送)・・・1976年1月7日

(再放送)・・・2020年1月9日

(脚本)・・・小川記正

(監督)・・・中村経美

協力)・・・無し

(協賛)・・・無し

(捜査担当・オープニング表記)・・・三船班

田中係長(山田禅二)、鑑識員(田川勝雄)、鑑識員(西郷昭二)、

関根部長刑事(伊沢一郎)、石原刑事(吉田豊明)、水木刑事(水木襄)、

田坂刑事(倉石功)、松木部長刑事(早川雄三)、三船主任(青木義朗)

 

(出演者)・・・

渚健二、むつみ愛、丹古母鬼馬二、汐見直行、木島進介、直木みつ男、最上竜二郎、

片山滉、笠原玲子、石井宏明、花岡菊子、守屋俊志、高杉玄、竜崎一郎

 

 

(あらすじ・予告篇から)

・・・ ※当時のナレーションをそのまま聞き写しています。

 

ある殺人事件を、いつものように手際良く捜査する三船たちは、

事件の確信に近づくにつれ、

とてつもなく大きな捜査の壁に阻まれてしまう。

事件は、そもそも誤認殺人であった。

実際に狙われたのは、ひとりのルポライターで、

彼のレポートしたものが、その価値2億円といわれる政財界の金脈を、

克明に記したものであった。

そのレポートを巡り、虚々実々の駆け引きが行なわれる。

そして、ついに三船たちは、

法の番人として、その黒幕の家へ乗り込む!

そこは、権力欲の虜(トリコ)となった男と、

その犠牲になる娘、

そして寄生虫たちの、

それはあたかも砂上の楼閣のような、

虚飾に満ちた虚構の家であった・・・!

次回、特捜隊、「十字架を背おう女」、御期待ください。

 

 

(備考)・・・

・正月の特捜隊は他の正月特番のため、1974年の#635 初笑い とら、とら、とら捕物帳 までのような新年情緒のある作品は放送されず、1975年の#687 オフ・リミットですよ 、1976年の当作はいずれも通常番組である。

・しかし、奇しくも特捜隊の番組終焉にあたる1977年は、特別機動捜査隊(第789回)新春…危機一髪 で、新年情緒のある作品が復活した。

・丘の上にある公園の東屋みたいな場所は、新宿中央公園にある富士見台(現在は改装されている)である。

 

 

(視聴録)・・・開始約13分前半まで

 

池袋のキャバレー・社交場トキワでは、怪しげな2人がテーブル下で何やら封筒のやりとり、受け取った相手は満足そうな顔で依頼を了解、立ち去っていった。それを見ていた、店のマネージャー・吉野一郎(木島進介)は近寄り、この軽挙妄動を戒める。この依頼者は、一郎の弟・次郎(渚健二)、了解した相手は戸樫かずお(村上幹夫)といい、気にもしていないようだった。

 

ところ変わって、政界・財界に隠然たる勢力を持つ朝田会会長・朝田正憲(竜崎一郎)は、経済研究事務所を経営しながらも総会屋が本業の新井信彦(守屋俊志)を、朝田邸に呼びつけていた。一人娘・小百合(むつみ愛)が妊娠、相手が誰かを語らないことに業を煮やし、妻(未詳)、婆や(花岡菊子)を前に手を上げ、ペンダントを取りあげるが、そのロケットには相手の男の写真があった。そこで、新井を呼びロケットを見せ、その男の殺害を命じたのだが、その他にも朝田の人脈・金脈が書かれたといわれる裏社会のレポートを、世に出さないようにする依頼もあった。朝田はこれらに5000万の報酬を提示するが、新井は2億を要求する。朝田は了解し、新井を送り出すが、腹心でもある、ヒゲ男(丹古母鬼馬二)、メガネ男(汐見直行)を呼び、「わかっているな・・・」と新井に対しての意味深な指示を出す。

 

ロケットの男は次郎だと一瞥してわかった新井は、喫茶店で次郎と会う。新井は、次郎の持つレポートを総合雑誌・文芸日本で発表できる段取り、小百合とのいきさつから次郎の首に1億かかっている旨を伝える。次郎は、新井が朝田と会ったことに驚くが、新井は続けて、今夜10時に自分のマンションで雑誌関係者も交え最終的な打合せを提案する。冒頭での、次郎、戸樫の会合は、この席に代理で行ってもらうことにあった。そして午後10時になり、マンションの前に車を止めた次郎は、戸樫にトランクを持たせ、新井の部屋に向かわせるのだが。。。

 

翌朝、池袋の資材置場で発見された死体を三船班が捜査。死亡推定時刻は昨晩11時前後、死因は後頭部頭蓋骨骨折と断定、田坂は争った跡が無く犯行現場は別と進言したことで、自動車での運搬を考えた三船主任は松木・水木にタイヤ跡を捜査を指示。また、石原が新井の名刺入れを発見。死体は新井と判断した三船主任は、石原・田坂に新井の自宅を当たるよう指示を出す。

 

石原・田坂は、新井のマンション管理人(直木みつ男)同席のもと新井宅を捜索、新井は3か月前に離婚したことを聞き出すが、室内は酷く荒らされていた。そして、血痕跡を見つけた田坂は、石原と計らい鑑識を手配。

一方、三船主任・松木は新井の事務所を訪れ、社員(最上竜二郎?)に死体の写真を見せ確認をとるが、社員は新井ではないと証言する(註・視聴者はここで死体が戸樫だとわかる)。そして昨日、朝田から新井に電話が入り、午後2時に朝田邸を訪問、その後は帰ってきていないことを聞き出す。

 

三船主任・松木は、新井のマンションで石原・田坂と情報交換後、朝田邸へと向かう。しかし、親衛隊隊員2人(影新之助・堀礼文?)から訪問を拒否、隊長・桐原(高杉玄)が駆けつけても官・姓名・職務を尋ねられるなど高飛車な態度をされる。さらには朝田が裏から手を回し、三船主任たちは追い返されてしまうのだった・・・。

 

 

ストーリーはその後、次郎と新井が再度会いますが、次郎は「二匹の番犬」(朝田の腹心のヒゲ男、メガネ男)の監視に気づいたことで新井を信用せず、戸樫に頼んだことがわかります。新井はレポートの価値(金額)を諦めきれず、連絡先のメモを渡すものの、次郎は独自に動くことを宣言して立ち去ります。

 

一方、石原・水木はマンションの半地下駐車場で管理人に聞きこみ、この場所からは管理人室前を通らず出入りできることを掴みます。また、住人(片山滉)から、昨晩10-11時ごろに車で帰ってくると、自分の駐停車枠に2人の男(註・回想場面でヒゲ男・メガネ男とわかります)が車を止めていたことを証言、その車の登録番号も判明します。

そして独自に動く次郎は、ホステスでもある新井の前妻(笠原玲子)に接近、店を訪れ、新井に会ってきたと伝えます。が、前妻は冷静に受け答えしているところから、世間では死んだことになっているのに驚かないのかと揺さぶりをかけます。そこに、松木・田原が前妻に聞きこみに来店、2人の席に座り訊問が始まるのですが、次郎の存在をどう扱うのかを前半のピークとして、後半に話を繋げることになります。

 

 

【第4回再放送】となって、

#685 暗黒街ひとりぼっち (監督・山崎大助)

#698 欲望という河 (監督・今村農夫也)

#714 死霊の影 (監督・中村経美)

#722 ある恐怖の体験 (監督・天野利彦)

に続く、小川記正脚本作品が当作です。監督・中村経美については、以前

>小川記正脚本を縦横無尽に応用できる吉川一義、己の力量を踏まえ脚本をその

>ままに演出できる中村経美、そして新鋭ながらも必死に脚本を具現化しようと

>する山崎大助、この3監督が小川記正ワールドを描写するのに相性がいいと考

>えます。

と評価しており、演出力云々は別にして(失礼<(_ _)>)、当作は中村経美監督作品、どのような小川記正ワールドが展開されるか、期待をもって観賞していました。

 

相変わらずの膨大な材料を駆使した内容ではありますが、脚本を上手く消化した「コンテ→演出」の手順をしくじると、せっかくの撮影フィルムを編集で大幅カットしての時間調整となります。そして、最終的には、話が噛み合わなかったり、矛盾点が出て来るという弊害が生まれてしまうのが、小川記正脚本作品で陥りやすい傾向です。

中村経美監督のパターンとしては、場面の簡略化で対応、できるだけ脚本通り撮りあげるようにしており、これが「己の力量を踏まえ脚本をなすがままに演出」していることになります。この点が(脚本をいじられたくないのが脚本家の心情でしょうから)、戦前からの大御所脚本家・小川記正に買われて、コンビを組むことが多いのではと思います。

 

ところが当作は、このコンビ作にしては珍しく(というか久しぶりに)カットしたと思われる場面が多く(簡略化とは異なります)、カットはしていないのでしょうが辻褄が合わない場面が頻出しているなど、首を捻ることが多く感じました。【第3回再放送】の初期のコンビ作のような、不釣り合い、不整合なところが目立つのです。

完全ネタバレだと興趣が失われるので、2つだけ挙げますと、上記本文での「朝田の腹心、ヒゲ男・メガネ男」の点。この2人はホテルフロント(梶山公彦)の証言から、「おおはら」「のなか」とわかりますが、三船主任は偽名と推測、田中係長は逮捕状を取るには偽名ではなく本名が必要と言う場面があります。ところが、本名を突き止める場面が無く、松木・石原・田坂がこうりゅう会会長・桝川(石井宏明)への面会場面で、初めて2人の本名、ヒゲ男=中野、メガネ男=大林を松木が発言します。

そしてその後の取調室での場面、三船主任・松木・石原が新井を訊問している場面で、中野・大原を追及する場面もあるのですが、この「こうりゅう会→取調室」の場面は逆であり、本来は「取調室→こうりゅう会」の流れだったのではないか。新井の取り調べに同席した松木・石原が、2人の名前を知り、こうりゅう会へと出向いた方が自然でありましょう。

このような、「場面の前後入れ違い」というのが、他の場面でも見受けられるのですが、今までの「己の力量を踏まえ脚本をそのままに演出」する中村経美の作風からは異なります。

 

また、小百合の婆やへの発言

>私、お父様の十字架を、一生背負って生きていく決心をしているの。

>その証に、お腹の子は産むわ。

>そして、お父様に対して、一生無言の抵抗をしてやるの。

という場面でも、果たしてこれがラストと整合性がとれているかといえば?がつきます。これでは「十字架を背おう女」とは何だったのか、という点に帰結してしまう危惧もあります。

そして、ラストで「人物A」の「人物B」に向けた行動が、「人物Bが小百合に仕掛けたもの」か、「人物Bが人物Aに仕掛けたもの」か、どちらに原因があるのか不明瞭なものになっています。これも、今までの中村経美の作風からは異なる印象です。

 

それらを鑑みると、当作では脚本の小川記正のほうに、構成に歪をきたす原因があるようで、勢いよくラスト近くまで至るものの、個々の部分に歪みをきたしており、思い起こすと?がつく作品といえると思います。そのきっかけは、上記のラストの?から始まっており、それが遡って「そういえば・・・」という感想に繋がったのでしょう。そして、朝田がレポートの主を次郎と知った場面も無く、新井がご注進した場面も無いのに、次郎に目をつけるというのも「大幅カット」というより、もともと脚本自体に無かったとも思えます。作品自体は、あれよあれよという間に終わり流れる印象でしたが、何か腑に落ちない感慨というのが、これなのかとも。。。

個人的には、ストーリー自体の勢いのある流れを(註・この点は長所といえますが)、個々の箇所で分断されている印象で、小川記正に何かあったのかと思わずにはいられない出来であります。

特捜隊の終焉作、特別機動捜査隊(最終回(第801回))浮気の報酬 まではまだ間があり、小川記正脚本作品があれば、何とか立て直してほしいと思います。