特別機動捜査隊に関連する作品、映画・Vシネ・テレビドラマ・動画に限定せず、あるいは脚本・監督にこだわらず、主観的に関連性がありそうと判断したものを取りあげました。

 

 

【江戸の牙・・・#25  瓦版・醜聞を追え!】

 

 

(公開日・本放送日)

1980年3月18日・テレビ朝日で本放送(制作・テレビ朝日、三船プロダクション)

2012年2月17日・時代劇専門chで再放送(2012年8月DVD発売)

(脚本)中村勝行

(監督)池広一夫

(出演者)オープニング

天知茂、若林豪、坂上二郎、藤村俊二、白都真理、吉田正志、鹿野新太郎、

三船敏郎

 

(出演者)エンディング   ※配役名表記の俳優のみ列記

朝比奈雪(竹下景子)、菊之丞(大出俊)、おせい(二宮さよ子)、

源次(稲吉靖司)、山岡(藤山浩二)、藤右衛門(福山象三)、

勘左衛門(野口元夫)、鎌吉(三夏伸)、銀蔵(早川研吉)、

近江屋(冨田浩太郎)、辰三(武内文平)、美濃屋(中島元)、

寺岡祥風(青木義朗)、お咲(山村葉子)

 

 

(特捜隊関連事項)

三船主任を演じた青木義朗が、里見浩太朗(高倉主任)主演「長七郎天下ご免!・#001   日本晴れ大江戸囃子」にゲスト出演した(1979年10月25日・テレビ朝日で本放送、内容は後述)少しあとの作品。

 

 

(備考)

・直参旗本・大番頭・朝比奈軍兵衛(三船敏郎)は世情を憂い、町奉行所の目の届かないところへの捜査機関として、本所方に剣精四郎(天知茂)を任命。剣のもと大熊伝十郎(若林豪)、金丸半兵衛(坂上二郎)、間兵助(藤村俊二)、橘志乃(白都真理)が集まる。さらに、その実態を知らない若手同心、中山純之進(ジュン・京本政樹、註・#17で殉職)、磯貝三一郎(サブ・古田正志)、矢追源之助(ゲン・鹿野新太郎)を配下に、江戸八百八町を取り締まる。

※配役名は、HP・チャンバラ狂時代から引用。

・雪を演じる竹下景子、お咲を演じる山村葉子は準レギュラー。

 

 

(オープニング・ナレーション)    

※ナレーター=黒沢良

 

あなた、剣精四郎を知ってますか!?

大熊伝十郎を知ってますか!?

金丸半兵衛を知ってますか!?

間兵助を知ってますか!?

橘志乃を知ってますか!?

朝比奈軍兵衛を知ってますか!?

あなた、江戸の牙を知ってますか・・・!?

 

西暦1837年、当時の江戸の人口は1,284,815人、

ロンドンを凌ぐ世界一の過密都市であった。

この大都市の治安維持にあたる町奉行所の陣容は、

南北両町奉行、与力、同心併せて、わずか296名・・・。

現在の警察機構とは比較にならぬ、お粗末な治安体制であった・・・。

にもかかわらず、そのわずかな陣容で

世界最大の都市・江戸八百八町の平和と安全が保たれていたのは、

町奉行支配の裏に影の捜査機関が暗躍していたからである!

幕閣中枢が秘かに組織した特命捜査班、江戸の牙!

だが、その存在はいかなる記録にも残っていない・・・!!

 

 

(あらすじ・開始21分半ばまで)

 

瓦版発行元の天保堂、そこで采配を振るう寺岡祥風は真実を追及する顔とは別に、当人が表沙汰にできない秘密をネタに、金品を強請りとる顔も持っていた。何も手を出せない状態に怒ったサブ、ゲンは、本所方の上司たちを突き上げる。

 

同業の瓦版発行元・都堂を訪れた精四郎は、親方・辰三から祥風の人となりを聞き出す。祥風は戯作者崩れの瓦版書きであり、祥風に限らず江戸中の瓦版書きが追っかけているネタは「菊と牙」、つまり、「中村座の菊之丞」と「江戸の牙」だという。

その菊之丞は、半兵衛と小料理屋で酒を酌み交わしていた。5年前、まだ芸事未熟の菊之丞は水茶屋の女・秀駒(註・二宮さよ子)と語らっていたところ、秀駒の常連客・銀蔵が乱入、方々に管を巻くのに怒った菊之丞は銀蔵に飛びかかる。短刀を抜く銀蔵だったが、入り乱れるうちに自分が刺され絶命する事件があった。そして菊之丞、秀駒は出頭、事情を話し減刑を申し出るも、立ち会った半兵衛は、刃傷沙汰である以上そうもいかないことを諭す。しかし秀駒の自己犠牲の気持ちにうたれた半兵衛は、2人がもう会わないことを条件に、菊之丞を釈放、秀駒が身代わりに刑に服すという処置をとる。2人には、こんな秘密があったのである。

 

それからしばらく経ち、雪を目にした祥風は、一目で朝比奈軍兵衛の娘だと見破る。ひとりで本所界隈を歩く姿に訳ありと睨み声をかけるが、その対応に深い秘密を感じるのだった。

 

また、情報屋・源次から、菊之丞が駆け出しのころ水茶屋で女を巡り男を刺したネタを聞き、女の行方を探るよう命じる。そして、祥風は中村座に出向き菊之丞と面談、まだネタの全容は明らかでは無いものの、「刃傷沙汰」と称した草稿を見せ揺さぶりをかけ、100両を要求する。毅然とした態度で断る菊之丞であったが、座頭・勘左衛門は一座の体面を考え、100両を払い表沙汰にしないことで草稿を買い取る。

しかし祥風は、手を変え品を変え、「菊と牙」の追及を続けていく・・・。

 

 

(視聴録)

これは奇妙な符号。1977年3月30日に「特別機動捜査隊」の番組終了、その翌31日には「非情のライセンス・第2シリーズ」が終了。前者は毎週水曜日、後者は毎週木曜日、いずれも午後10時の刑事ドラマであります。その中心的役割を果たしてきた三船主任(青木義朗)、会田刑事(天知茂)が、火曜日の午後9時の番組で3年の時を経て巡り会ったわけですから、当時としては関心が無くとも、現在では目を見張ります。あるいは、天知茂にとっては、当作放送から1カ月強経ってから復活・再開される「非情のライセンス・第3シリーズ」への狼煙のように思えたのかもしれません。個人的には、制作が三船プロダクションであり、特捜隊で捜査主任を「三船」と命名した理由が、三船敏郎のような強い男をイメージしたという裏話が連想され、偶然とはいえけっこうツボでした。

 

さて、(特捜隊関連事項)で触れましたとおり、当作から半年以上前に、青木義朗は里見浩太朗主演「長七郎天下ご免!・#001   日本晴れ大江戸囃子」にゲスト出演していました。自分もこれをDVD録画、再見しており、当初はこれを特捜隊関連作品で挙げようと思ったのですが、これが残念ながら面白くないのです。高倉主任を演じた里見浩太朗に目を向ければそれなりには見れますが、青木義朗は脚本もあるでしょうが、気持ちの入らない悪役設定なのです。気に入らないと斬る、台詞も少ない、ラストの剣戟ではあっさりと斬られるなど、東映京都制作だから仕方無いとはいえ(特捜隊は東映東京制作)、ひねりも何もない勧善懲悪ものでした。

作品的にも、これが結束信二脚本、河野寿一監督の作品かと首をかしげる出来で、「燃えよ剣」から10年、これも時代の流れかと感じたのが実感です。

 

ところが、当作では青木義朗演じる祥風が、開始21分半ば以降も悪事の限りを尽くしており、その手は「菊と牙」にじわじわと伸びていきます。特捜隊でいうなら、#508 狂った夏での、市村俊幸演じる週刊誌編集長・正木を見ているような、悪役ぶりを演じます。正木も事実を面白おかしく脚色、購読者に提供する姿勢は変わりませんが、さすがに祥風のように金品、肉体を提供ようなことはしていません。それを考えると、祥風の悪党ぶりはそれ以上のものです。

 

さらに、祥風の

>やれ世直しだの、義賊だのもてはやされてはいるが、所詮奴らは、

>ただの人殺しだ。俺は、まがい物って奴が大嫌いな性質(タチ)でね、

>そのうち必ず正体を暴いてやる

>瓦版は天下の木鐸(ボクタク)、我々瓦版書きは取材の自由と、知る権利

>ってのがある

>役者の人気を支えてるのは世間だ、その世間を動かしているのは、

>俺たち瓦版書きだということを忘れちゃ困るぜ

という台詞も、真実を追及する建前でありながらも、強調することで悪党ぶりを際立たせる効果を生み出しています。

特に、特捜隊・三船主任と対をなす役柄、#508 狂った夏での三船主任の

「おまえ(編集長・正木)は腐肉(フニク)を喰らう禿鷹だ!」(要旨)

と叫んだ台詞はどこに・・・、と感情移入してしまうのも、面白さのひとつでした。

 

そして、精四郎のいう

>(祥風の追いかける)江戸の牙がただの人殺しなら、お前さんたちは

>ただのゴロツキだ

台詞だけで、祥風を一蹴させる場面(開始26分過ぎ)も、なかなか面白い。建前論も、特命捜査班たる江戸の牙には通用しないわけです。

祥風、精四郎の対峙は、茶店、水車小屋、そしてラストの大団円と計3回ありますが、いずれも俳優・青木義朗 VS 天知茂、あるいは三船主任 VS 会田刑事の様相を醸し出しています。青木義朗は日活の悪役、天地茂にしても新東宝で悪役をやっていたわけですので、台詞、顔つき、所作がそれぞれ板についているのです。

 

そして、ラストの逆転劇、あの祥風の目つきは三船主任そのもの、

>江戸の牙の正体が、俺の筆で書けなかったのは残念だぜ。

>だがな、てめえらの正体は、必ずバレるときがくる・・・!

という台詞も、次回作の#26  死斗・男たちの挽歌(最終回)へと繋がることを考えると興味深いことでもあります。また、このときの音楽も、(多分意図的だと思うのですが)スピーカーが割れた音響にしているのは、フィルム劣化ではなく、祥風の闇の心を描写したようにも見え、これまたテレビ時代劇とも思えない気の配り方とも思いました。まとめると、当作は青木義朗、天知茂の両横綱ががっぷり組んだ作品であったと感じます。

 

あと、江戸の牙は、特捜隊四天王監督のひとり、吉川一義が26作中6作を演出しています。その中のひとつには、特捜隊を思わせる出来になっている作品があったと記憶にあります。記憶にありますというのは、6年前に時代劇専門ch再放送時の記憶だけであり、再見はまだしていないからでもあります。

たぶん、吉川一義監督作品だったと思うのですが、特捜隊再放送を見ているとき、「あれ、この場面は江戸の牙と似ている」と感じたことがありました。時間があったら、当作以外にも「江戸の牙」のチェックをして確認してみたいと考えています。