※ 特別機動捜査隊 まえがき
捜査担当班の詳細については、wiki特捜隊-キャストを参照、また、(本放送)とはNETでの放送、(再放送)とは東映chでの放送を指します。出演者については配役名を略していますが、本文で書くこともあります。なお、出演者をもっと知りたいときは、リスト特捜隊で検索。
また(出演者)は、エンディングで、一列~三列で表示された男優・女優に限定しました。
【#545 汚れた太陽】
(本放送)1972年4月12日
(再放送)2016年2月25日
(脚本)元持栄美
(監督)吉川一義
(協力)無し
(協賛)無し
(捜査担当)三船班
田中係長(山田禅二)、鑑察医(仲原新二)、鑑識課員(田川恒夫)、
鑑識課員(西郷昭二)、関根部長刑事(伊沢一郎)、石原刑事(吉田豊明)、
白石刑事(白石鈴雄)、水木刑事(水木襄)、畑野刑事(宗方勝巳)、
三船主任(青木義朗)
(出演者)
池田秀一、藤山律子、木村豊幸、美弥たか子、野口元夫、菅原チネコ、宮川洋一、
日高ゆりえ、田浦正巳、浜田ゆう子
(あらすじ・予告篇から)
※当時のナレーション(=青木義朗)をそのまま聞き写しています
あてもない生活の果て、できた子供の始末を頼む若い夫婦。
その2人を激しく叱責する看護婦。
しかし、彼女の脳裏に横切るものは、
一生子供の生めない身体となった、1人の女の暗い過去があった。
すばらしい生命の誕生をよそに、
闇から闇へと消されていく胎児の運命とは・・・!?
女の悲劇の谷間に蠢(ウゴメ)く偽医者たち!
抑圧された生活環境が生み出す変質者!
そして、厳しい住宅難から、前途に希望を失う恋人たち・・・。
その周りに、ドス黒い血のにおいが漂う・・・。
次回、特捜隊、「汚れた太陽」に御期待ください。
(備考)
・掻把(ソウハ)とは、人工妊娠中絶の一方法。母体への危険度は吸引法よりも高いとされる。
・劇中主題歌は、瑞紗マリヱ「刑法第212条」(1971.10発売)で、「生れそこねた子供」から改題したようです(掲示板特捜隊 5 からの情報です)。
(視聴録)
城崎総合病院では、医師・加賀田(宮川洋一)、看護婦・しのざき優子(浜田ゆう子)が1人の新しい生命を取り出していたが、その直後、救急患者が運び込まれてくる。それは、数日前に掻把を行ない出血が止まらなくなった2人の子を持つ母親であり、優子は唖然とするばかりであった。さらに優子の妹・光恵(藤山律子)が来訪、恋人・しん(池田秀一)との子を宿し、経済的困窮から中絶の相談だったが、この状況では言うべき言葉も見つからなかった。
その翌日、線路脇の丘・東小山台で女性の絞殺死体が発見された。死亡推定時刻は前日の午後9時ごろ、下着が引きちぎられ暴行の跡があり、ウィスキーの瓶が遺留品として残されてあった。また、テレビの報道を見て、被害者は優子だと申し出た看護婦(菅原チネコ)に会うため、城崎総合病院に出向いた三船班は、前日の午後3時半ごろ屋上で優子と妹の恋人・しんとが言い争っていたこと、優子は医師・加賀田の求婚を断り続けていたこと、見習い看護婦の7年前に掻把で子の生めない身体になっていたことなどを聞き出した。さらに、加賀田が優子の部屋から、東亜医科大学・同窓会名簿を持ち出し破棄する現場に出くわす。
そして、現場での捨て子の親探しに張りこんでいた水木刑事、白石刑事は母親(山口千枝)を発見・連行するとともに、不審な変質者・宮川五郎(木村豊幸)を逮捕するが、なぜか東亜医科大学・同窓会名簿を所持していた。五郎の父親(野口元夫)の証言、握力の問題も気になる中、名簿に赤くマーキングされた早川誠(田浦正巳)にもあたったところ、個人医院を経営しながらもアルコール中毒者で、母親(日高ゆりえ)共々近所から奇異な目で見られていた・・・。
当作は、いろいろなテーマが織り込まれた作品で、なかなか興味深い。というのは、理由はともかくとして、中絶は現在のほうが多いと思いきや、実は昭和のころが多かったのではということです。内閣府男女共同参画局・年齢階級別人工妊娠中絶の推移が一番新しい資料のようですが、その他の資料では未確認とはいえ(厚生労働省らしいのですが)、昭和30~40年代には年間100万以上あったようです。その分現在は、生んでからの虐待死が増加の一途をたどっているというのも悲しいものがあります。
さらに、当作では、その理由を経済的要因に求め描いていますが、こんな困窮状態では子供を生んでも育てられないというのが根底にあります。しかし、現在では、同じ経済的要因でも仕事に差し支えるから子供を生みたくないというふうに意識が変わっています。そういうことを比較するだけでも、深く考えるものがあります。
そして、優子の死には複数の人物が関連しているのですが、いわゆる「小平事件」を想起させるものがあります。妊娠中絶に最も反対していた人間が、過去~現在に至るまで詐欺・凌辱を受け、最後の最後が「小平事件」とは、なかなかエグい脚本ですね。しかし、さすがに吉川一義監督も、「その部分」は映像にせず、文章的になるところもサラリと流しています。それゆえ、エログロさは表に出にくいのですが、五郎のキャラは・・・ねえ。
考えれば考えるほど、この優子という女性には薄幸のイメージまとわりつきます。個人的には、浜田ゆう子という気の強さが見える女優さんより、硬軟演じ分けられる高野ひろみあたりが適役だったと思っています。なお、女優といえば、特捜隊常連女優の美弥たか子が出ていたようですが見当たらず、たぶん五郎の実家の兄嫁2人のどちらかだったような気がします。
「#490 春雷の女」で強烈な守銭奴老婆を演じた日高ゆりえが、当作では早川誠の母親役で出演しています。登場場面は少ないながらも、やはりインパクトは強烈。ラストでもパトカーを追いかける姿、顔は映っていませんので、もしパトカーの中から撮影していたら、松竹映画「陸軍」の田中絹代と好対照的なのですが、印象的な場面に仕上がっていたでしょうね。
当作は、ストーリー的にも、キャスト的にも、さらに三船班目当ての方も、面白く見れる佳作だと感じましたので、再々放送でご覧になることをお勧めしたいですね。
(追加)
そして、全体的にみると「対比」または「共通」の考え方が当作を貫いています。若い二人と五郎一家との比較では経済的困窮が共通、二人の医者にしても資格の有無や人望の有無からすれば二人ともニセものにすぎない、二人の姉妹にしても劇中で語り合う姿はなく姉妹愛が皆無、むしろ寿司屋の主人(直木みつ男)としんとの関係に師弟愛が見られるところ(さらに師弟愛によって新たな犯罪を防いだこと)、などいろいろあります。これを元持栄美脚本が緻密に考えたかどうかは不明ですが、当作の面白さの一要因であることは間違いないでしょう。
(2017年12月18日 全面追加)