cats&docksapplause【利き手】 | 猫さまと犬どのの読書日和

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【利き手】

黒猫猫「被害者は背後からナイフで一突きに刺されていた。鑑識によれば、刺し傷から犯人は左利きだったのではないかとのこと。ふむ、犯人は左利きか。日本人の左利きの割合は約11%と言われている。つまり、左利きの人間を探せば犯人に近づける可能性も高くなるということだな」

犬犬「あ、刑事さん、鳥村を殺した犯人は見つかりましたか?」

黒猫猫「いえまだ捜査中です」

犬犬「そうですか、一刻も早く犯人を見つけてください。このままじゃああいつも浮かばれません」

黒猫猫「そうですね。ところで同僚の鳥村さんが殺された時間、5日の午後9時頃前後ですが、犬原さんは何をされていましたか?」

犬犬「そんな、まさか私を疑っているんですか?」

黒猫猫「いえ、形式的なものですよ。お気になさらず……」

 

犬、記憶をたどるように顎に左手を当てて考える。

 

黒猫猫(左手?)

 

犬、胸ポケットからタバコを取り出し左手でタバコをもって口にくわえる。

 

黒猫猫(また左手!)

 

犬、くわえたタバコに右手でライターをつかって火をつける。

 

黒猫猫(右手!)

犬犬「ふぅー、うーんそうですねぇ、その時間は外で夕食をとって家で一人で過ごしていましたかねぇ」

 

黒猫猫「ほ、ほう! なるほど、それを証明できる人はいますか?」

犬犬「いえ、その時は私一人だったものですから……あ、りんご食べませんか? 田舎から送ってきたんですよ」

 

犬、近くにあったりんごを左手で取り上げる。

 

黒猫猫(やっぱり左手だ! 犬原さんは左利きなんだ!)

黒猫猫「犬原さん、今りんごを左手でお取りになりましたよね?」

犬犬「ええ、だって右手にタバコ持っていますし」

黒猫猫(あ、あっぶねぇ! 確かに言われてみればそうだった。右手はふさがっているんだから左手でりんごを取って当然だよな)

 

突然犬の電話が鳴る。

 

犬犬「ああ、すみません。ちょっと待っててください。……あ、もしもし? あ、はいはい……」

 

犬、電話に出ると右手で左手でペンを持ちメモを取る。

 

黒猫猫(左手でメモ取っとるー! 左手でペンを持っているってことは左利き確定だな!)

犬犬「ああ、申し訳ありません。今、りんごを切りますね」

黒猫猫(よし、左でナイフを持ったら切り出してやる。『犬原さん、あなた左利きなんですか? 被害者の鳥村さんを刺した犯人も左利きだそうですが……』ってね!)

 

犬、左手にりんご、右手にナイフを持って皮をむき始める。

 

黒猫猫「右手ぇ!」

犬犬「どうしたんですか?」

黒猫猫「あの、犬原さんはさっきタバコをくわえる時には左手でタバコを持っていましたよね? メモを書く時のペンも左でやっていました、けどナイフは右で使うんですか?」

犬犬「えっ? そうですよ? 私、ナイフは右ですけど箸は左ですし」

黒猫猫「ナイフは右で、箸は左!?」

犬犬「歯を磨く時は左手ですけど、ハサミは右で使いますし」

黒猫猫「歯磨き左の、ハサミは右!?」

犬犬「ボールを投げるのは左だけど、打つ時には右側だし」

黒猫猫「ぬああっ! どっちかにしろぉ!」

犬犬「どうしたんですか?」

黒猫猫「いえね、どうやら犯人は左利きのようなのです。なので、犬原さんが左利きだとしたら、もしかしてと思ったのですが……」

犬犬「ええ!? 犯人は左利き? それだけじゃあ犯人の特定なんて出来ませんよ」

黒猫猫「なぜですか?」

犬犬「だって、少なくともうちの部署の九割は左利きですから」

黒猫猫「どんな会社だよ! もういいわ!」