今回のギリシャ危機は、ソブリン債務危機が発生した際の基本ルールをより強化している。そのルールとは、債務国にとって重要なのは債務を返済できるかどうかではなく、返済する気があるかどうかである、というものだ。
ギリシャの新左派政権は、返済できないとして債務削減を求めている。バルファキス財務相は、同国は破産していると訴え、他のユーロ圏諸国との債務負担の削減交渉を開始させた。だが、ギリシャが3200億ユーロ(約43兆円)超に上る債務を完済できるとは誰も思っていない。
問題は、ギリシャ政府が債務返済のための課税や資産売却ができるかどうかだ。カーメン・ラインハルト、ケネズ・ロゴフの両氏は2009年に共同執筆した著書「国家は破綻する─金融危機の800年」で、国家の破産は企業の破綻とは違うと指摘している。債権者は、企業に対するように国家の資産を差し押さえる強制的な権利は持っていない。
しかしながら、「ほとんどの場合債務国は、痛みを伴うが対外債務を返済できる」と論じる。その例として、独裁者だったルーマニアのチャウシェスク元大統領を挙げる。チャウシェスク氏は、外国銀行に対する債務90億ドル(約1兆円)を返済するため、電気を止めて冬に国民を凍え上がらせ、工場を閉鎖させた。だが、同氏の末路は悲惨だった。
ギリシャの最大の債権国であるドイツなどユーロ圏諸国が、債務負担の軽減を求めるチプラス・ギリシャ首相に立腹しているのは、ギリシャは債務を返済できると思っているからだ。これに対しギリシャは、金利支払いを差し引いた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字を来年以降、対国内総生産(GDP)比4.5%にするとの財政健全化計画について、政治的に持続不可能だと主張する。
債権国側は、こうした財政健全化は異例のものではないと反論している。欧州中央銀行(ECB)は2011年6月の月次報告で、ベルギー(1993~2004年)、イタリア(1995~2000年)、アイルランド(1988~2000年)、フィンランド(1998~2003年)、さらにはギリシャ自身(1994~99年)でさえ、同様の厳しい財政健全化を実行してきたと指摘している。これら各国は、欧州通貨基金(EMS)参加の前提条件として債務削減に取り組んだ。
債権国側はさらに、既にギリシャに対し金利の引き下げや返済期限の繰り延べに応じており、同国の債務負担は過剰ではないと論じる。ギリシャ政府のデータによれば、国債利払いの対GDP比は、2011年の7.3%から昨年には4.2%に低下した。同国政府が昨年示した予測では、20年に対GDP比は2.2%まで低下する見通し。これは、他の国に比べて高いというわけではない。13年には、ポルトガル政府の国債利払い分のGDP比は5%で、イタリアは4.8%、アイルランドは4.4%だった。
しかしながら、こうした説明はギリシャが抱えるいくつかの問題を無視している。2015年と19の両年には債務返済必要額が増加し、22年にはそれまで10年間延期されてきた金利分の全額を支払わざるを得なくなる。また、1990年代に財政黒字を計上した時代には、ユーロ参加に向けて先行き明るい見通しがあった。
最後に指摘すべき要因として、大半の欧州諸国では国債の多くを自国民が保有しているが、ギリシャの場合はそうではないということがある。イタリアやベルギーの場合、債務返済を止めれば自国民が打撃を受けるため、国内要因から債務返済を求められる。これに対し、ギリシャ国債の大半は、ギリシャの選挙で投票権を持たない外国政府が保有している。
こうしてみると、ギリシャの債権者にとって状況は芳しくない。問題は、債権を全額回収できるかではなく、どのような形で債務再編が行われるかになっている。つまり、債務再編が交渉を通じて行われるか、それとも、現在もしくは将来のギリシャ政府が一方的に断行するかだ。