
- 開発したプレミックスをスーパーなどの関係者に発表するのも仕事の一つ。「市場調査を通じて消費者のニーズを把握することも大切です」(千葉県市川市の商品開発センターで)=林陽一撮影
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「ホットケーキミックス」や「お好み焼き粉」などは、家庭の食卓を彩る定番商品の一つだ。
あらかじめ粉や砂糖などを混ぜ合わせてあるため、「プレミックス」と呼ばれる。昭和産業(東京)商品開発センターの薄井富美子さん(51)は入社以来30年、その企画開発に携わってきた。「本物の味にいかに近付けられるか。技術の見せ所です」
開発には目標とする風味の設定が欠かせない。昨秋発売した「パンケーキミックス」は、東京都内の人気店のパンケーキを参考にした。5店回ってトッピングのないタイプを注文し、生地だけを食べるようにした。味や食感、気泡の入り具合、香りなどから人気の理由を探り、目指すべき味を定めた。
「配合割合は、長い経験から大体、見当がつきます」と話す。原料となる小麦粉は、製造工程の違いなどで100種類以上。風味や口溶けなどを基に、使う種類を決め、砂糖や塩、ベーキングパウダーなどの配合割合を変えた試作品を数パターン用意。調理して味見し、配合を再調整して再び味見。これを2度、3度と繰り返し、目指す味の配合にたどり着くという。
商品開発だけでなく、販売促進事業にも関わる。会社のホームページでは、プレミックスを使った数々のメニューを考案。例えば、天ぷら粉を使い、滑らかで透明感のある手打ちうどんを提案したことも。「自分が携わった商品をスーパーで買う人を見かけると、本当にうれしい。お金を払う価値を認めてくれたわけですから」
味の探求には貪欲だ。おいしい店があると聞けば、プライベートで遠方にも足を運ぶ。この仕事をする以上、食全般への関心が深くなければならないと考えるからだ。評判のパンを食べに京都まで出かけたことも。いつも観光は後回しだ。
家庭用プレミックスの開発では社内一のベテラン。「若い人に言っているのは、『食の歴史、本物の味を知りなさい』ということ」。後輩社員から目標にされる存在でもある。(西内高志)
【休日】携帯で奇麗な写真撮影
趣味は写真撮影。デジタルカメラやスマートフォンは使わず、携帯電話での撮影にこだわっている。最近も出張先でイルミネーションを撮った=写真=。「腕があれば、携帯でもきれいな写真が撮れることを実証したくて」と話す。元々は一眼レフカメラの愛好者。露出やシャッタースピードなどの撮影術は入門者向けの雑誌やムックなどで独学して会得した。ただ、長期の休みや週末、北海道や京都に出かけ、ラベンダーや紅葉を撮影した際、友人に「カメラがいいと、写真も違うわね」と言われたのが、残念だったという。その後、携帯のカメラ機能が充実した頃から、「これでどこまで撮れるか」と新たなチャレンジ精神が湧いてきた。「携帯でこんな写真が撮れるんだ」と言われるのが楽しみ。「仕事と同じで、探求を始めるとのめり込んでしまいます」
【道具】家庭用の調理器具で試作
試作したプレミックスを味見する際に使う調理器具は、業務用ではなく、一般的な家庭用だ。「一般家庭で作ってもらうわけですから、台所と同じ環境で作ってみて、おいしくなければいけません」 例えば、ホットケーキやお好み焼きなどの場合は、市販のホットプレート=写真=やフライパンを使う。専門店で見かけるような鉄板は使わない。 から揚げ粉や天ぷら粉を試す際にも、一定の温度を保てる業務用の揚げ物機ではなく、家庭で使う揚げ鍋を使う。エビを2、3匹入れただけで油の温度が下がるが、それでもおいしく作れる商品が目標だ。 ただし、表面温度計やストップウォッチなど、家庭にはあまりないものも使う。「配合割合の違う試作品を比較するには、温度や時間を厳格にチェックしないと。これだけは家庭らしい雰囲気がありませんね」
うすい・ふみこ 1963年、埼玉県出身。短大卒業後、84年に昭和産業入社。「お肉をやわらかくするから揚げ粉」(1992年)、「ケーキのようなホットケーキミックス」(2005年)などのヒット商品の企画開発に携わる。現在、商品開発センター家庭用グループ主任。