2,一驚・壱 | 螺久我記

螺久我記

創作小説、螺久我記(らくがき)を書いております。
名前の通り落書きのようなものですので、軽く読んでもらえれば嬉しいです。

随時、加筆目論見中。


「え、なに、古沼、登校日間違えたんだ?めずらしいね」
目の前の席に座っている男子がこちらへ体を捻り、話しかけてくる。さら、と揺れる黒髪を持つその男子は口に笑みをたたえている。
「英もだって。あいつも間違えたんだよ」
少しでも自分への揶揄いを他に向けようとしただけだったのだが、目の前の男子は、何か勘違いしたらしい。目を細めて、ふ、と笑う。
「仲のよろしいことで」
古沼の言葉をどういう意味合いで受け取ったのか、古沼には分かりかねたが、自分の意図とは全く別のベクトルに捉えられた、と感じるに十分の返答ではあった。
「違…もういい、疲れた」
否定したところで、こういう勘違いは悪化していくのが関の山である。実際、何か返してくれば揶揄うつもりだったのだろう、目の前の小柄な(といっても、古沼と比べれば誰だって小さくなるのだが)男子は、残念そうな表情を浮かべている。ように、古沼には見えた。どうだ、まいったか。

まあ、仲がいいことは別に悪くないけどさ、と言いながら、目前の男子は急に小声で言葉を続ける。
「でもさ、気を付けなよ」
「は?何に?」
何故、今までの会話の流れから、急に気を付けるなどというワードが出てくるのだろうか?
えっ、という顔で、謎の警告を発した男子は、古沼の顔を見た。
「古沼のとこには、まだ話いってなかったんだ…。意外っていうか…まあ、当然っちゃ当然か」
古沼は、うんうん、と一人で勝手に納得している男子を見ながら、次の言葉を待つ。思い当たる節がないので、反応するにもしようがない。
そうして、ひとしきり納得し終えた男子は、古沼の目をちらりと見て、言葉を濁す。
「これは、あくまでも噂だからさ、僕だって信じてないし、ていうか信じたくもないし、冗談半分で聞いて欲しいっていうか」

「まわりくどいんだけど」
そんなに言いづらい噂なんだろうか。1年の頃をざっと思い返してみるが、なかんずく、噂の対象になるようなことはしていないはずだ。
とはいえ、噂、というのは、その当人の主観とは関係なしに育っていくのが原則である。勿論、原則があれば例外もあるのだが。
とにかく、噂の原因が羨望であれ、私怨であれ、気紛れであれ、良い影響をもたらすことが限りなくゼロに近いことだけは断言できるだろう。

しかし、古沼から言ってみれば、噂の内容自体はどうでも良いことであった。特に、今この時間においては、の話ではあるが。
古沼としては、今過ごしている休み時間が後どれだけ残っているのか、ということの方が問題であった。
次の授業は、委員会決めなのである。



ーーーーー続く