夏休みのバタバタで途切れていましたが、ISUグローバルセミナー動画の聞き取り訳を再開します。今回はパフォーマンス。では早速。
PE、すなわちパフォーマンスも、「その日」選手が見せたパフォーマンスの質を評価するものだ。
演技の流れがひどく中断したり転倒があった場合、影響するコンポーネンツ*としてまず思い浮かぶのがこの項目。
(訳者注*19/20シーズンより、一つ重大なエラー/転倒があった場合、シングルのPE上限は9.50、複数の重大エラー/転倒があった場合は8.75)
なぜか。その理由は評価基準を読めば自明だ。
評価基準
・身体的/感情的/知的な関わり
演技が、心からのもので、信じられるものか。スケーターは自分のしていることを理解しているか。自分が心から信じて理解しているものを我々に見せているのか、それとも与えられたものを演じているだけなのか。スケーターはそのレベルを問わず、指示通りに動いているだけのように見えることが多い。演技を見ていて、「誰がこの音楽を選んだ?誰がこのプログラムを選んだ?選手自身とは思えない…」と、考えてしまうこともある。与えられたステップ、コレオグラフィーが選手の理解力を超えている、あるいは、理解しようと努力しなかったという場合がある。理解していたとしても、我々が見て、選手が身体・感情・知的に100パーセント関わっていると感じられるよう表現されなければならない。
・投影
投影は「それと分かるように外向きで大きく映えるもの、大げさに表されるもの」の場合もあるし「静かで内向き、デリケートで私的なもの、こちらがプライベートな空間をシェアして覗かせてもらっていると感じられるもの、ジャッジとして見ていて肉体的・感情的に揺り動かされるもの」もあり、タイプは違っても、どちらも同等に重要であり評価されなければならない。
・身のこなしとムーブメントの明瞭さ
「持続的か」「意図的か」「正しいか」「疲れやミスの影響でクオリティが落ちていないか」を見分けなければならない。
もしクラシカルな曲を選び、クラシカルバレエ的なムーブメントを意図的に選んだとしたら、それが維持されていなければならない。
一方、コンテンポラリーな音楽にはまた別種の身のこなしやムーブメントが要求される。ヒップホップなど、それが意図的なものだとはっきりしていれば、3〜40年前に求められていたようなステレオタイプのクラシカルバレエ姿勢に該当しなくても、このコンポーネンツの一部として評価しなければならない。
・ムーブメントの多様性と対照性、エネルギー
強弱、大小、高低、形と角度の多様性を期待する。特にシングルではこれらはステップシークエンスでしか見られないことがある。従って我々は、これらがプログラムを通じて評価できるものか、それとも部分的に隔離されているだけかどうかを見なければならない。
・個性/パーソナリティ
これらを見られる演技であれば素晴らしい(例として挙げられている写真がなんとプル様とジョニー!)
以上。なお、シングルに該当する項目だけを取り上げています。
言うまでもありませんが、今の現役選手中、羽生くんほど一つ目の項目をクリアするにふさわしい選手はいないのでは。選曲編曲振り付けに積極的に関わり、プログラムに自分のアイデアをはっきりと打ち出し、堂々とオリジナルタイトルの下に披露する。五輪2連覇の王者にふさわしい自信と貫禄の現れでもあり、そこに胡座をかかない理想主義の発露でもあります。本当に素晴らしいですよね。その他の項目についても文句ない…ですが、1点、影響を受けやすいものがあるとすれば身のこなしやムーブメントの明瞭さかな、と思います。特に彼のプログラムのようにトランジションが緻密でハードであればあるほどこの項目を文句なくクリアするのが困難になるでしょう。これは特にOriginで感じていたことで…もしOrigin再演の可能性があるとすれば、TRに手を入れてもらえればなあと思います。今日の高山真さんのコラムでもTRを取り上げていらして、お!と思ったのですが、高山さんは羽生くんの新シーズンについてジャンプの高難度化を予測、それに従い足元が薄くなる可能性を指摘し、その分進化した上半身の動きでカバーする戦略を取るのでは、というご考察なのですよね。Originにせよ全くの新プロにせよ、新しく獲得した自由でドラマチックな動きを見せつけ、それと同時に曲想を強調するような上半身が見られれば、と期待が膨らみます!