ガラス細工と羽生君のロステレ | siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

羽生結弦選手の現役時代をリアルタイムで体験できる幸運に心から感謝しつつ、彼のスケートのここが好きあそこが好きと書き連ね、ついでにフィギュアにも詳しくなろうと頑張る欧州住まいのブログ主です。

羽生君、ファイナル欠場が決定しました。

 

ファンの間では「よく思い切ってくれた」という声が多いようですが、負傷当時の状況からして、彼自身が決断に悩むまでもなく医学上選択肢は一つしかなかったのではないでしょうか。

 

あの日の早朝練習、サルコウとループでそれぞれ1本ずつ、エッジのかかとを引っかけて転倒するという珍しい光景を見てかなり驚き…少なからず不安を覚えたのを思い出します。

 

あの転倒が起きたのはほぼ目の前でした。すぐさま起き上がれない様子に「ああ普通ではない」と感じました。会場は静まり返っていました。あたりが静かなパニックに覆われていく様のリアルさは、まるで手で触れることができるかのようでした。メディアと会場が彼1人を注視する中、彼は、慌てず騒がず、視野狭窄や思考停止を起こすことなく、コーチに助けを求めることもなく、その場で素早く構成を組み直す作業に移っていました。…言葉がありません。なんという自立した精神、なんという冴え冴えとした知能の持ち主なんでしょう。ミーシン教授が彼を形容するのに用いた「phenomenon(理解を超えた現象・奇才)」という言葉が思わず脳裏をよぎりました。

 

棄権するかもしれないと思っていたフリーで冒頭に見せた、こちらの不安を笑い飛ばすかのような2本の完璧なクワド。足に感覚がなくても長年叩き込んだ正しい技術は裏切りませんでした。五輪2連覇の偉業は、やはり偶然や運、精神力のみで為し得ることではなかったと改めて思い知らされました。羽生結弦を超える?…そのためには、健康体の時に圧倒的に勝つのはもちろん、負の条件を山ほど背負った中でも揺るがない技術力を養成しないことには無理。そう実感させられました。

 

クリケの練習でオーサーが見たという素晴らしいOrigin。2週間足らずの間に欧州→北米→欧州を移動するという厳しいスケジュールの中そこまで仕上げられていたからこそ、急場しのぎの未知の構成でもこの高難度プログラムは崩壊することがありませんでした。棄権を勧められる状況、その上日本はおろか世界中のファンの期待を一身に背負う中でこんなことをやってのけられる選手…。彼のような存在は後にも先にも現れないでしょう。

 

「ちょっとでも回転が足りなくて横にパタッて折れちゃうと、すぐに靭帯であったり、骨であったり、もう本当に切れる靭帯も無いくらいなので。無理したところの靭帯がすぐに切れちゃったりする。弱いっていうか、もろいっていうか。それも羽生結弦です。すみません」(アエラより抜粋)

 

ふう、なんて重い。もうどれだけ前からこんな境地に達していたのかな。もうずっとギリギリのところでやっていたんですね。「もろい」といえば、やはり膝の故障で棄権も考えた去年のオータム。「いい時と悪い時の差はあるけれど」、「もろいからこそ、積み上がったときにすごくきれいなものになるというのも僕の特徴」と語っていましたね。こういう発言にも思うんですよ。彼がどれだけリアリスティックに客観的に自分を把握しているか。そしてその上で何をして何をしないかを自分で決定するというアマチュアアスリートの権利を行使しているか。いろんな信号をキャッチする繊細さを持ちながらも、長いものに巻かれず夢を貫き通すという芯の強さとオリジナリティを持ち合わせた彼に対し、凡人になんのアドバイスができるでしょう?

 

CBC解説者でアイスダンスコーチのキャロル・レーンさんが言ってましたっけ。「いいスケーターがいて、偉大なスケーターがいて、そして羽生結弦がいる」って。羽生結弦はまさにphenomenon。今回のロステレSP後、NBCオリンピックチャンネル解説のライアン・ブラッドリーは「羽生結弦のような人がピークにいるその時にフィギュアスケートファンでいられるのはなんと素晴らしいことか」と言いました。私が常日頃思っていることはこれに尽きるし、また、世界のフィギュア界の総意でもあるようです。再び精巧なガラス細工で世界を感動させるその日まで、ゆっくり待っています。ロステレで見せてくれた珠玉のオトナルと入魂のオリジン、そして松葉杖で来てくれた表彰式を本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

(撮影:自分)