今回も当ブログへお越しいただき、ありがとうございます。
私ぐらいの年になると、自身の「介護」が気になってきます。
まあ、まだ介護されるほどの年にはなっていないのですが、私ほどの年だと要介護予備軍として「フレイル」なるものが問題になってきます。
フレイルって何?と、気になるでしょう。
要は、歳とって身体機能が衰えてきて、生活に支障をきたして要介護などの問題が発生しやすくなる体の状態、ということらしいです。もっと進行すれば「ロコモティブシンドローム」(いわゆる「ロコモ」)にもなるというヤツです。
でも私、およそそんなこととは縁遠いと思っています。なぜなら、“文化財巡りを趣味としているから!”
もう、山城や古墳のような、足場が悪い複雑な地形の場所ばかり歩いていれば、自然と体が鍛えられますよ!
で、なんでこんな話をするかというと、今回から富士山とその周辺の文化財を数か所、紹介したいからです。
富士山も世界文化遺産に登録されて昨年(令和5年)で10周年となりました。
自然遺産にはなれませんでしたが、富士山から噴出した溶岩は特徴的で、それが織りなす様々な自然の造形は世界的にも富士山麓とあと一、二か所だけでしか見られない、なんてものも多いのです。
それだけに、溶岩が冷え固まってできた地形はとても複雑、足場が悪いところが多いのです。富士山の麓を巡れば足腰が鍛えられる!フレイルともおさらば!
今回はそんな文化財の一つ、鳴沢溶岩樹型を訪ねてみました。
溶岩樹型とは、立木が溶岩流に呑まれたとき、その立木の形を残したまま木だけ燃えてしまい、冷えた溶岩の中にその痕跡が残ったものです。
日本ではここ富士山麓と、群馬の浅間山のものがよく知られ、いずれも特別天然記念物に指定されています。特に鳴沢では様々な形態の溶岩樹型が発見されていて、そのうち規模の大きなものを指定しているそうです。
いわば、天然記念物の国宝ですよ。では、行ってみましょう。
溶岩樹型は山梨県鳴沢村役場に程近い所にあります。標識もあるのでわかりやすい。駐車場がないので注意です。
鳴沢付近の国道139号(富士吉田方面から、右へ入る道が鳴沢溶岩樹型の入口 )
この日は晴天で、富士山が雲に隠れず、その美しい姿を眺めることができました。初冠雪からも間もない時で、頂上に雪を被った姿がまた一段と富士山らしく、キレイでした。
標識に従って村道に入ると、やがて雑木林に囲まれた場所に出ます。この左右の雑木林の中に溶岩樹型が点在していました。
雑木林に踏み込むと、溶岩流の上であることがよくわかりました。
林の中は決して平坦ではなく、下の写真のような激しい起伏が広がっていました。
ここは有史以降に記録された富士山の噴火の中でも、有数の規模だったとされる「貞観の噴火」の際に噴出した青木ヶ原溶岩流の上です。
樹海で有名な「青木ヶ原樹海」も、林床はこんな感じの地形が続いていました。まるで天然のアスレチック施設です。
溶岩樹型は1番から12番の番号が付けられ、標識が建てられていました。12ヶ所の溶岩樹型をすべて紹介しても、まあ穴なのであまり代わり映えしません。特徴的な一部の穴だけ紹介します。
まずは道の左側、1~3番の樹型がある林へ入ってみました。
林の奥に樹型がありました。
これが、自然の造形でできた森林の痕跡なんです。そう思うと、不思議じゃありませんか。条件が揃わないとこんな穴はできない。
溶岩が固まる前に木が燃え尽きたらできなかったわけです。富士山の溶岩は絶妙な塊具合で立ち木を蒸し焼きにのです。他の火山ではそのような条件が合わないので、このような痕跡は残らない。そう考えると自然の驚異です。
4番以降は道の反対側、広い林の方に点在しています。比較的狭い範囲なのに、とてもアップダウンが多くて歩きづらいのが印象に残っています。
5番は、きれいな円筒形をした垂直な穴で、樹型らしさをいちばん感じられました。
ここに立派な立木があったんだな、と実感できる穴でした。
6番はおそらく若木か、太い枝の跡だったんだろうと思われる穴です。
なんせ小さすぎて、初めはどこに樹型があるのか見つけられませんでした。
他の樹型のように落下防止柵がある大きな穴と認識していたので、標識があったにもかかわらず20分近く同じ場所を行ったり来たりしたのですから。
8番と9番は隣接した、というか上部でつながった穴で“複合樹型”といわれるものだと思います。2本の立木が倒れてもたれ掛ったまま溶岩に呑みこまれものです。
ちなみに10番樹型は民家の敷地内にあるので見学できません。
そして、最近の研究では鳴沢溶岩樹型の一部は「溶岩スパイラクル」といわれる噴気孔の跡だとわかってきました。
その一つが11番樹型です。これは村道から4番~9番までの入り口とは別にルートがあるので、村道まで一旦戻る必要がありました。
11番は大きな樹型なので、厳重に鎖で囲まれていました。
この穴が溶岩スパイラクルであるとわかったのは大月短期大学教授の調査によってでした。
溶岩スパイラクルとは、湿地帯や水溜り、池などに熱い溶岩流が流れ込み、水が水蒸気となって溶岩の下で圧力が高まり、最終的に溶岩を突き抜けて噴出した痕跡です。水分の供給源が樹木だと、溶岩樹型型溶岩蒸気噴気孔(樹型型スパイラクル)ともいわれます。
ここのものはこの樹型型だともいわれています。
確かに他の樹型と違い、側壁が荒れています。これが水蒸気が上がってきた場合のものと同じということのようです。
荒い礫のような岩も積もっています。これが水蒸気噴出の根拠なんでしょうね。
11番の近くには12番樹型がありました。神社のすぐ裏手です。
田中教授の調査の際に新たに発見された溶岩スパイラクル、というものも探してみました。
解説板の分布図、樹型群の南西側にある黄色い点で示されたものです。天然記念物には指定されていませんが、貴重なものです。
指定域外だからなのか、不法投棄が目立ちました。
それらしい穴を見つけました。側壁の様子が11番と似ています。
状態は良好なようなのですが…
ゴミ穴扱いされているようで、底にはごみが溜まっていました。
この穴も早急に保護する必要性があるんじゃないでしょうか。
これで鳴沢溶岩樹型の探索を終えました。
風穴や樹型など、こうした溶岩生成物が多いのは富士山の特徴です。日本国内でも有数の場所。そういうこと、もっと皆さんに知ってもらいたい。
だから、知り合いには“文化財巡りダイエット”と称して、「付き合わない?おもしろいものが見られるし、確実に痩せられるよ。」なんて声掛けしているんですが、誰も付き合ってくれません。妻や息子までも。普段から痩せたい、ダイエットしなきゃ、ってこぼすくせに。
楽しく痩せられるのにねぇ…まあ、楽しいのは私だけでしょうけど。
--------
鳴沢溶岩樹型(昭和27年3月・特別天然記念物 山梨県南都留郡鳴沢村鳴沢)
鳴沢溶岩樹型は、富士山の北麓、貞観の噴火で噴出した青木ヶ原溶岩流上にあり、鳴沢村役場から西へ行ったところにあります。現在の青木ヶ原樹海のような森林に溶岩が流れ込み、溶岩が冷え固まるまで立木の状態で留まったために溶岩中に型が残ったものです。
鳴沢には多数の樹型がありますが、特に立木の状態で形成された径が約1.3m前後、深さ2~3mのもの12個が特別天然記念物に指定されています。