大野和士指揮 東京都交響楽団 第1007回定期演奏会(A定期) | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

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日時:2024年9月4日(水)19:00~

会場:東京文化会館大ホール

指揮:大野和士

演奏:東京都交響楽団

独奏:ポール・ルイス(Pf )

曲目

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37

ブルックナー:交響曲第7番二短調(ノヴァーク版)WAB107

感想:

 秋シーズンの幕開けとして、7月に続いて東京都交響楽団の定期演奏会を訪れた。

この日はこのオケの音楽監督大野和士さんの指揮で、ブルックナーの第7番が取り上げられるので、もちろんプログラム目当てである。

今年はブルックナーの生誕200年ということで、あちこちでブルックナーが取り上げられるが、どうも曲目が第7番に偏っている印象ではある。

この日はAシリーズの定期なので東京文化会館であり、訪れたのは20年ぶりくらいであろうか。

いい意味で古い趣きを備えつつ今も健在で稼働していることがとても嬉しく、個人的には朝比奈隆さん指揮の天覧演奏が懐かしく思い出される。(あの時は第5番だった)

このホールは公共ホールであるためか聴衆層も、何だか役所の窓口にいそうな雰囲気の服の人たちが多いような印象で、東京の山の手側のホールとは少し雰囲気が違う。

 

この日にカップリングされた前半の曲はベートーヴェンの第3番のコンチェルトで、ソリストはポール・ルイスさん。

イギリス生まれのピアニストで、若くは見えるが既に52歳でベテランと呼ばれる年齢で、国際的に活動してはいるものの、基本的にはイギリス国内のオケとの共演が多いようだ。

 さて、この曲はソリストが入ってくるまで比較的に長めにオケの演奏が続くが、オケの響きが、ホールの影響もあるのか非常に古典的な懐かしさを携えて届く。

 ソリストの演奏がスタートすると、非常に美しいタッチで軽やかに響く。

 ただやや力強さに欠け、ベートーヴェンの協奏曲にしては軽やか過ぎる印象だ。

 5つのピアノコンチェルトの中で唯一短調の調性のこの曲であるが、もう少し重心の低い演奏が欲しかったところ。

 音運びは滑らかであるが、逆にその分だけ無骨さが弱まってしまった気がする。

 支えるオケは安定した演奏を繰り広げ、ここは流石オペラで歌手を立ててきたマエストロの手腕といったところだが、フレーズの処理はややあっさり気味な印象。

 第2楽章では、その音色の美しさが存分に発揮され、ゆったりとした表現ができたように思う。

 オケも安定感があり、あくまで主役のソリストを立て、引き立て役に徹していたように思う。

 そしてそのまま第3楽章に。

 ややリズムが強調されたメロディ運びではあったが、華麗なピアノの音色がフィナーレまで鳴り響き、演奏終了。

 最後まで音の軽さが気にはなったが概ね悪くない演奏だったように思う。

 アンコールは、シューベルトのピアノソナタ第21番D.960より第3楽章が演奏され、有名なメロディがやはり軽いタッチのテンポの速い音で響いた。

 

後半はブルックナーの第7番。

振り返ると前回の別のオケの同曲から一か月も経っていない(笑)

コンサートマスターは前半同様に矢部達哉さん。

冒頭のトレモロからしっかりした芯を持った音を聴かせるが、何となくテンポの取り方がやや前のめりの印象で、テンポを崩して歌うことなく曲は前に進んでしまう。

オケのバランスそのものは申し分ないがあまり余韻がなく前に進んでしまう感じだった。

これはひょっとすると舞台上と客席での残響の聴こえ方の違いかもしれず、長い残響が収まる前に次の音が始まってしまうような印象だった。

クライマックスの盛り上げも、リミッターを回避してか安全な範囲で収まってしまった感じでそういった意味では全体的に深くも強くもなりきれない印象だった

 第2楽章のアダージョはゆったりとしたメロディが展開され、音色そのものは美しいがやや単調に流れてしまって言った印象。

 前回別の演奏会の時も書いたが、このマエストロはオペラ畑の指揮者という印象で、実際経歴もそうなのだが、音楽を整えて雰囲気を整えるといった意味では秀逸なのだが、音楽そのもので訴えかけるような主張が弱いような印象である。

 それにより、音楽がクライマックスに達したときには非常に美しいメロディを聴かせるが、メッセージとして伝わるものが弱い音楽になってしまう。

 例えば私はこの楽章の後半のクライマックス前の第1ヴァイオリンのえぐり上げるような音の繰り返しが好きなのだが、今回もここが弱く感情的な煽りがすくないなという印象だったのである。

 このような演奏でクライマックスもそこそこに終わり、楽章が閉じられたため、最後のコーダも印象が弱かった。

 第3楽章のスケルツォはリズミカルな分だけ、オケの安定性が際立つが、やはり安全運転な印象で、リズムがより強調はされていたが、歌いの要素はやはりあまりなかった気がする。

 そして第4楽章、メロディの流れはしっかり整えられてはいるので安心しては聴けるが、振り切って吠えるような演奏ではないため訴えるものが弱く、心には刺さって来ない。

 ただ美しく整えたブルックナーを聞かされたかのような印象である。

 結局、そのまま音楽は閉じられるが、感動の印象の薄い演奏に終わってしまった。

 どうもオペラ指揮者のオーケストラコンサートは求めるものが違うのかな、そんなことを感じた演奏会だった。