阪哲郎指揮 山形交響楽団特別演奏会さくらんぼコンサート2024東京公演 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

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日時:2024年6月20日(木)19:00~

会場:東京オペラシティタケミツメモリアルホール

指揮:阪哲朗

演奏:山形交響楽団

コンサートマスター:高橋和貴

独奏:辻彩奈(VL)、上野通明(VC)

老田裕子(S)、在原泉(A)

鏡貴之(T)、井上雅人(B)

合唱:山響アマデウスコア(合唱指揮: 佐々木正利)

 

曲目:モーツァルト:歌劇「魔笛」K.620 序曲

モーツァルト:ミサ曲ハ長調「戴冠式ミサ」K.317

アルトゥール・ニキシュ:ファンタジー

(V.E.ネッスラー作曲のオペラ「ゼッキンゲンのトランペット吹き」のモチーフによる)

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調 作品102

感想:

 山形交響楽団(以下「山響」)の東京公演を訪れてきた。

 会場は東京オペラシティのコンサートホールで、今回ギリギリでチケットを買ったら非常に前の方の端っこの席となった。

 指揮者はこのオケの常任指揮者の阪哲朗さんで、ブザンソン国際指揮者コンクールに優勝した輝かしい経歴を持つが私にとっては初お目見えだ。

  どうやら毎年この時期に東京公演をやっているようで、「さくらんぼコンサート」の副題がつけられていて、会場に着くとその意味がすぐ分かった。

 ロビーが道の駅のような物産展のような状態になっていて、開演前のお客さんが列をなして山形の特産品を買い求めている。

 その盛況ぶりからはどちらが主なのか分からないほどで、物産フェアの客寄せにオーケストラが呼ばれているのではないかと思うほどである。

 山響は1972年創立の東北初のプロオケであり、数ある地方オケの中でも結構老舗であり、パンフレットを見る限り、地元から熱い支援を受け大事にされてきた印象である。

 演奏前に法被を来た指揮者のプレトークが行われ、ますます物産フェアの色が濃くなる。(笑)

 さて入場してきたメンバーを見ると、やや平均年齢は高そうで、日本国民の人口分布をそのまま投影したようなバランスに見える。

 一曲目はモーツァルトの魔笛序曲でそれほど軽やかさはないものの、質の良い模範的な演奏を聴かせてくれる。

 長い伝統の練度の高さを感じさせてくれる安定感があった。

 続いて「戴冠式ミサ」で合唱団と声楽のソリストたちが入場する。

 合唱団は山響アマデウスコアという団体で山響の専属合唱団ということで、2008年に結成されたとのこと。

 プロアマの記載はないが恐らく単独採算は難しいであろうと思われ、常時雇用ではなく、出演時にギャラが発生する準プロ的団体なのではないかと推測する。

 さて合唱曲のあまり得意ではない私だが、しっかりとしたまとまりの歌声を聴くことが出来、結成16年の積み重ねの熟練を感じることは出来た。

まあソリストともに音のキレや迫力、発声の明瞭性という面ではやや物足りなさもあるが、出来栄えとしては十分であった気がする。

 

そして後半の最初はアルトゥール・ニキシュ(1855-1922)という指揮者として有名な方が作曲した「ファンタジー」という曲。

ニキシュは19世紀末から20世紀前半に活躍した指揮者で、ベルリンやボストン、ライプツィヒなど名だたるオケを指揮し、ブルックナーの交響曲第7番を世界初演するなど、当時の音楽界の中心的存在の人物である。

私はこの曲を聴いたことが無かったが、山響がどうやらこの曲の日本初演をしたようで、このオケにとってはゆかりのある曲らしい。

デュカスの魔法使いの杖を思い出すような明るいリズムで歌い出したと思えば、トランペットによる牧歌的歌い上げが素晴らしく響き、山形の景色を思い出すかのような素敵な曲であった。

 

そして最後にブラームスの二重協奏曲。

ソリストが2人必要になるため、演奏機会は多くないはずだが、私にとってはラジオなど沢山聴いている印象で、何となく耳馴染がある曲である。

 ソリストはヴァイオリンが辻彩奈さん、チェロが上野通明さんである。

 オーケストラから曲は華々しく始まり、続いてチェロが歌い出す。

 チェロの厚みのある音は良いなぁとは思ったが、ちょっと深みには欠けるかなという印象を持った。

 続いて入ってくるヴァイオリンは、情熱的に歌われており、チェロとはやや差があった。

 またそれを支えるオケは綺麗に整ってはいるが、整い過ぎているというのか、やはり深みの面ではちょっと物足りない。

 もちろん演奏としては完成しており、しっかりとしたものではあるが、音楽的表現という意味ではもう1枚上乗せしてほしい部分を感じる。

 マエストロの指揮姿も理性的すぎるというか、学校の先生が学生を導いて指揮しているような雰囲気であり、音楽を体現して引き出すような姿は見られない。

 音も整理されており、ソリストとのアンサンブルも出来ているが、音楽として情熱的な歌いができているかというとちょっと微妙なのである。

 故に音楽も何となく理性的に聴こえてしまい、感情を揺さぶるような巻き込みにはならないのである。

 第2楽章のアンダンテは、牧歌的な香りがする緩徐楽章で、オーボエやフルートのゆったりとした歌いが心地よく、ソリストのヴァイオリンの歌いも美しい。

 ただやはり相対的にチェロの歌いが弱く聴こえてしまい、ソリスト間のバランスが取れていない印象だ。

 第3楽章でテンポアップするも結局相対的にヴァイオリンの華やかさが目立つ演奏となる。

 チェロ自体も悪いわけではないが、ヴァイオリンに比べると軽く感じてしまうのである。

 オケもしっかり整っているが、やはり印象は弱めというか、もう少し強く存在感を主張できたのではないかという印象で、ウエルメイドな演奏に終始していた。

 まあ演奏会としては成功なのような気もするが、やはりイマイチモヤっとしたものが残ったまま演奏が終わってしまったのである。