日時:2021年2月28日20:30~
会場:上海交響楽団音楽庁コンサートホール
指揮:呂嘉
演奏:上海フィルハーモニー管弦楽団
曲目:
ブルックナー:交響曲ヘ短調
ブルックナー:交響曲第3番ニ短調
感想:
上海フィルによるブルックナーシリーズの演奏会で今回は第3番とへ短調交響曲。
シリーズ最初の頃の演奏を聴いていないので詳しくは分からないが、どうやら最終盤の順番のようである。
昨年は5番と4番が行われていて、あとは6番が残っているような情報を目にした。
さてこの日の指揮者は前回のマカオ管との合同演奏で8番を聴き、非常に良かったのを覚えている。
この指揮者、北京大劇院の音楽監督の任にあり、いわば中国ではトップクラスの地位にある指揮者ということになる。
また個人の事情として先月末から春節(旧正月)を挟んで音楽を聴く機会がなかったため、一か月振りのコンサートで生の音に飢えていたため、結構期待が高ぶってコンサートに臨んだ。
まず前半はヘ短調交響曲。
ブルックナーにとっては習作扱いということもあって、番号が振られていない交響曲である。
演奏されること自体が非常に珍しく、実はこれまで一回も聴いたことがなかったので、慌てて数日前にYOUTUBEで一回耳を通した程度で演奏に臨んだ。
演奏が始まってみると、なるほど習作と言われるだけあって、モチーフがいろんな形で実験的に散りばめられているが、全体としての統一感や流れにあまり意義を見出せない曲である。
なんとなく音楽にはなっているのだが、つかみどころがないというか、音楽的表現をどんどん実験しているような感じでまとまりがない。
指揮者とオケの出来も演奏そのものが耳慣れないので善し悪しが掴みづらいが、なかなかしっかり整った音を鳴らしてはいた印象である。
第2楽章のアダージョも、一生懸命にメロディを組み立てている感じだが、その後のブルックナーの交響曲の組み立ての片鱗は見てとれた。
ところが不思議なことにこの曲は楽章を進めるにつれ、音楽が徐々に整っていくのが分かった。
第3楽章あたりになると、8番の交響曲あたりで見せるパワフルな音の構成が見られるようになり、音楽としての成熟がみられるようになってきたのである。
まだまだ未完成な感は否めないが音楽としては存在感のある曲になってきた。
そして終楽章、あまりフィナーレっぽくない音楽だがさらにこなれて音楽の形が見えてきたところで終了となった。
さて後半は第三番。
この曲は、いわゆるブルックナーの始まりと言われるピアニッシモからではなく、クレッシェンド的にじわじわと弦とトランペットが遠くから聞こえてくるような演出で始まる曲なのであるが、いずれにしても小さな音からスタートして、耳をそばだてていた。
と思ったらいきなり正面客席の後方で雑音が入った。
どうやら前半の曲を録音だか録画していた慣習が、再生ボタンを押してしまったような音である。
録音がマナー違反なら、演奏中にスマホをいじるとはとんでもなく、マナーのない聴衆のようである。
それに集中力を切られたのか、指揮者もオーケストラも第一楽章は精彩を欠いていた。
冒頭のクレッシェンドもやや長く引っ張りすぎたような演奏になり、心の動揺を抑えようとしていたのではないか。
その後も、音楽としては壊れてはいないけれど、フォルテッシモ的な引き上げがやや強引になり、音に乱れが生じていたような印象だ。
全体の音を支える弦も、いまいち乗り切らず、ボウイングもやや乱れていて、音に厚みを欠く。
主役のホルン群は、音はきれいに整っていたが、膨らみの面でボリューム不足で柔らかな世界観が整えられない。
どうも冒頭の雑音の動揺を引きずっているようだ。
第2楽章のアダージョはきれいに演奏されていたが、うねりがスムーズではなくどこか落ち着きを欠く。
指揮者はペースを取り戻すのに必死なように映る。
ようやく本調子にもどってきたのかなと思えるのが第3楽章で、テンポの良いリズムにオケ全体が乗り始めた。
この指揮者は各パートへの気配りかというか指示が行き届いており、表現にぬけがなく、安心して聴いてられる。
そして終楽章、まあ前回の8番ほどの出来ではなかったが、全体によくまとまったいう印象。
オケ全体の個々のプレーヤーの問題もあり、弦の厚みとかはそれほどではないが、及第点の演奏ではなかったかと思う。
冒頭の雑音さえなかったらどうだったか?それを思うととっても悔やまれる演奏会である。