張潔敏指揮上海交響楽団「白鳥を焼く男」 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

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日時:2020年11月22日(日)20:00~

会場:上海交響楽団音楽庁

指揮:張潔敏

演奏:上海交響楽団

ヴィオラ:巴桐

曲目:

ヒンデミット:「白鳥を焼く男」(ヴィオラ協奏曲)

ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60

 

 

感想:上海交響楽団の演奏会。

 本来は、バッハのG線上のアリアがプログラムの最初に組まれていたが、当日会場についてみると取消になっていた。

 恐らく、ステージ運営上の都合であまりにも曲間の対応が大変なので、時間的に難しいと判断したのではないかと思われる。

 

 そのカギとなるのが、2曲目に配置されていたヒンデミット作曲の「白鳥を焼く男」であろう。

 この曲は実質ヴィオラ協奏曲なのであるが、作曲家の配慮でオケとヴァイオリンとヴィオラが排除されてしまうので、オーケストラの編成が特殊なのである。

 

 その反動というか、ヴァイオリン群を活躍させる穴埋めとして「G線上のアリア」を用意したのだと思われるが、その編成の差の大きさ故、実際に本番で運用するのは無理があるということになり、曲そのものを諦めてしまったのだろう。

 プログラムを組んだ音楽監督の配慮が浅かったということになるだろうか?

 

 

 さてヴィオラのソリストは中国人の巴桐さんである。

 冒頭から非常に妖艶な音色を響かせ引き込まれる。

 この曲そのものは聴いたことが無かったが、そのヴィオラの響きにとても引き込まれる。

 ヴィオラ協奏曲自体が比較的少ない演奏だが、ヴァイオリンとは違った響きの深さが非常に魅力的だ。

 上述のように、オケに高音のストリング群がいないので、ソリストを支えるチェロとコントラバス、そして管楽器群との音響バランスがなんとも不思議な響きをもたらす。

 

 但し、オケ全体を見ると、指揮者の引っ張り方が悪いのか、表現力がイマイチで、ヴィオラを支える音の雰囲気を作り切れない。

 まあ初めて聴いた曲なので何が正解は分からないが、あのヴィオラの魅力に釣り合うオケの響きは聞こえなかったのである。

 

 さて、後半はベートーヴェンの交響曲第4番で、つい先月杭州のオケで聴いたばかりである。

 前半とは打って変わって、ずらっとフルオーケストラのメンバが揃う。

 曲の出だしは、拍子抜けするほどあっさりとスタートし、そのまま滑って行ってしまう。

 

 こちらは、もっと溜めを作って力を溜めるような抑圧的な出足を期待していたのだが、この指揮者はどんどん先へ行ってしまう。

 メロディを味わいながら楽しむというより、楽譜に沿って直滑降で、滑りぬけてしまうような印象である。

 

 そしてリズムが爆発するように展開する段になっても、スピード感はかのクライバー顔負けであるが、音楽的な溜めがなくどんどん前に行ってしまうため、各フレーズが印象に残らない。

 スピード感があるため、オケ自体はノリノリで前へ進むし、音もそろうのだが、肝心の音が音楽として響かず印象に残らないのである。

 

  第2楽章以降も同様に、音としては揃っているのだが、やはり心に残らない。

 タメがなく音楽としてのメリハリがないというか音がどんどん流れていくだけの状態である。

 続く第3楽章、第4楽章も同様で、オケのメンバーはやはりノリノリの勢いでビュンビュン音を振りまわすのだが、歌っているような感覚がなく音楽を味あわせてくれない。

 

 本来なら私はこの第4楽章は好きなメロディなはずなのだが、どうも好きになれない演奏なのである。

 

 パート毎の掛け合いのような部分も、それぞれの音が呼応して連動しているわけではなく、ただ順番に鳴らしているだけで楽しさがない。

 まあ迫力だけはあったので終演後の拍手は大きかったが、私自身はあまり拍手する気にもなれず、お義理程度の拍手をしてすぐに席を立った。

 ただオケのメンバー自身も不出来を感じていたのか、カーテンコールも少なめにあっという間にお開きとなったようである。

 音を鳴らすことと音楽を奏でることには大きな差があることを改めて知ったこの夜の演奏会である。