日時:2020年7月18日19:30~
会場:上海東方芸術中心コンサートホール
指揮:張芸
演奏:上海フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:宋思衡
曲目:
ベートーベン:ピアノ協奏曲第5番変歩長調「皇帝」(独奏:宋思衡)
ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調
感想:上海フィルの今シーズン終幕コンサート。
ただシーズン最後と言ってもコロナでの中断期間が長かっため、あまりシーズンが繋がっていた気がせず、個人的には再開後2回目といった印象。
今回はコロナ対策としては一席おきのチケット販売だったようで、そういう意味では50%の入りのはずだが、サイドの席は誰もいなかったので、販売がカットされたようだ。
で、何故かこのオケは今年になってブルックナーばかりを演奏する形になっていて、1月の1番、先月の5番に引き続き、今月は4番のロマンティック。
ブルックナー好きの私には嬉しい結果となっているが、ここまで固まってしまうのもちょっとどうかと思う面があるし、問題は演奏の中身なのである。
まあこのオケはブルックナーには悪くない相性を見せているので、さらなる良化を期待したいところ。
で、この日は前半にベートーベンの「皇帝」がカップリング。
ソリストは中国人男性ピアニストの宋思衡さん。
さて演奏だが、冒頭の出だしは音の粒に煌びやかさが欠けるものの、まあまあの滑り出し。
このピアニストはほかの中国人ピアニストに欠けがちな表現の意識をちゃんと持っており、少なくとも音楽を表現しようという姿は見えた。
まあタッチの甘さはやや感じたが、音を表現しようという姿勢が見える演奏で、音楽としてしっかりと聴けた。
ひょっとすると誰か有名なピアニストのコピーである可能性は捨てきれないが、それでも楽譜を追うだけのような演奏よりははるかにマシである。
ただ、贅沢を言うなら演奏の姿勢としてもっと優雅な雰囲気を醸し出して欲しかったのだが、本人にとっては難曲だったのか、かなり必死な演奏ぶりが目についてしまい、曲の大きさとは対照的な姿が気になってしまった。
ただ、その後のソロのアンコール(曲名は忘れた)を聴く限りにおいては、それなりにセンスと表現力をもったピアニストという印象で、今後の成長に期待したいところである。
そして満を持しての後半のブルックナー。
残念ながらこの指揮者は指揮台に立つと、会場の雑音を気にせず、早めに演奏を始めてしまう。
まずはブルックナーの開始、スコアの指示がピアニッシモになっているので当然なのかもしれないが、非常に小さく始まる。
しかし個人的好みで言えば、中低域を少しだけ厚めにとってピアニシッモっぽく聴かせたほうが、ぞわぞわする音になるという気がする。
そして、ちょっとバランス悪く大きめの音で入ってきたホルン。
音色としては綺麗に決まっていたが、弦パートとのバランスが悪く、突然の異物感がいなめなかった
そして、ユニゾンのピークに持っていく直前まで音を抑えてしまっており、内声の圧力を高めていくような演奏もなく、あっさりとピークを迎えてしまう。
まあそれでもブルックナーのリズムをこのオケはマスターしているので、フレーズは十分ブルックナーらしく聴こえる。
ただ以前から何度も指摘しているように、この指揮者の張芸さんはメトロノームのような縦で合わせる指揮ぶりばかりなので、横に対するダイナミックな動きに欠けてしまう。
ブルックーの交響曲、特にこの第4番は、波の揺らぎに似た、寄せては返す大波の小波の音とリズムの心地よさが魅力なのだが、この指揮者からはそういった音楽は生まれてこない。
ピアニッシモもフォルテッシモも指揮ぶりがほとんど変わらず、視覚的な指揮者の動きと音楽が噛み合わないのである。
そういった指揮や演奏がずっと第1楽章から第3楽章まで続いたので、演奏としてはそれほど悪くないように聴こえた演奏だったが、第3楽章まで来るとやや飽きが来てしまった。
で、このまま終わりなのかなとも思っていたが、第4楽章に来てようやく息を吹き返し、指揮者っぽい動きを多少なりみせるようになり、音楽にも少しだけ生命力が宿った状態になった。
悪く言えば帳尻を合わせたような演奏になってしまったが、ブルックナーの演奏としては何とか及第点といったところ。
ちなみにソロとしては、ホルンが冒頭以外は相当頑張って印象的だったし、フルートも良かったし、トロンボーンなども頑張っていた。
但し指揮者の影響なのか、弦パートがあまり目立った演奏にならなかったのは残念である。
かの指揮者はもうノビシロがないのか、まだあるのか分からないが、もっと殻を破って大胆な表現に挑戦していただくことを期待したい。次は6番か3番なのかだろうか?