パスポート紛失記 | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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Kyoto Jazz Massive 沖野修也 Official Blog


エジンバラでコロナに感染し
10日間寝た切りだった僕は
完全復活した後に
ロンドンに向かいました。

残念ながらDJギグは
なくなってしまったのですが、
Gilles Petersonさんのラジオに
急遽ブッキングして貰ったり、



BBEやLove Vinylに寄ったり、




旧友に再会したり、



話題のお店をリサーチしたり、



建築巡礼をしたり...



たった三日間の滞在でしたが、
久々の
マイ・フェイヴァリット・タウンを
満喫しました。

そして、
電車でスコットランドで戻った時に、
事件が発生します...
以下、
Facebookのドキュメンタリー投稿を
Togetter的にまとめてみましたw

01.
今、
グラスゴーに戻って来たんですが、
パスポート・ケースを
ロンドンに置いて来たようです・・・。
パスポート失くすの8回目・・・。

02.
ホテルの
セイフティー・ボックスに
パスポート・ケースを
入れた事をそもそも忘れていました
(前の日飲み過ぎ)。

03.
ホテルに電話したら、
掃除の人も開けられなかったから、
多分
セイフティー・ボックスの中にあると。
支配人が開けるので、
連絡先をメールしてと。

04.
ホテルの支配人から
メールが来て、
セイフティー・ボックスの中に
ありました!と。
フロントで預かるので
誰か取りに来るのか、
送った方がいいのか
教えて下さいと。

05.
パスポートが
ロンドンのホテルにあった
との事で一安心!

06.
そもそも、
妻の実家があるエジンバラではなく、
グラスゴーに戻ったのは、
妻の叔父さんが
セルティック戦のチケットを
急遽ゲットしてくれたからなのです。
妻と妻のお兄さんと
叔父さんと従兄弟と
いざ、セルティック・パークへ。

束の間の現実逃避w

果たしてパスポートは
手元に戻って来るんでしょうか?


07.
この時は
完全に
パスポートの事を忘れてましたw



08.
いや〜、
前田と旗手が
それぞれ1ゴール、
1アシストの大活躍!
しかも、
復帰した古橋が途中出場し、
ロングフィード
前田の胸トラップ
アバタがゴールで7点目!
日本人選手の貢献で、
セルティックが7-0の圧勝‼︎

もう、スタンドで大興奮でしたw

前回、
僕が観たセルティック戦
(中村俊介がゴール!)も
勝ったので、
チケットを手配してくれた
妻の叔父さんが、
「ユーが幸運を運んで来る」
と大喜び。
もう、
スコットランドに
移住しなさいとwww

いや〜、
グラスゴー駅で
パスポートないの気付いて、
パニック&針のムシロ
(誰に敷かれたかは
ご想像にお任せします)
という地獄から一転、
別名フットボールの楽園
とも呼ばれる
セルティック・パークで
天国へ!




妻の叔父さん、
従兄弟、
お兄さんと記念撮影。
ちなみに、
セルティックのマフラーは
隣りにいた見知らぬ人が
お土産にと差し出してくれました。

PS

この後、
パスポートを
エジンバラに送って貰えるか
妻が
ホテルに電話してくれたんですが...

09.
セルティック戦の
興奮醒めやらぬ中、
妻の実家の住所を書き、
パスポートを
着払いで送って欲しい、
いつ着くか教えて欲しい
とホテルにメールしたものの
返事がないので、
妻がホテルに
電話をかけてくれました。
電話に出たのが支配人で、
私がこの件担当してますと。
パスポートを
確保して貰ってるのは
確認出来たけれど
問題発生...。

僕、
そもそも二月上旬から
三下旬までの予定で
渡英を計画してたんです。
ところが、
パスポート紛失とは
別の問題(コロナ感染)
が発生し、
予定が大幅にずれ込む事に。
再設定した出国日は4/14。
前日までに
届けて欲しいと
支配人に伝えたら、
土日は郵便局休みで、
月曜に出しても
水曜にエジンバラに着くかなぁ?
遠いからなぁ...と。

え、
イギリスに
ヤマトや佐川みたいな
翌日に届けてくれる
運送会社ないの?

これは、
ロンドンに
取りに戻るしかないのかな?

ホテルが
駅に近かったので
荷物をまとめて、
夕方以降の列車で
ロンドンに戻る事を決意!
で、
チケット売り場に行ったら、
今日
ロンドンに行ける列車は
もうないですと...。

速攻、
ホテルに戻り
翌朝に出て
夕方に戻る
往復チケットをネットで探すも、
お得な値段が
別々の時間で
残り一枚とか二枚とかで
かなりスリリングな状況。

条件合う列車を
探している内に、
どんどん選択肢が
少なくなる恐怖ww

何とか、
朝に現実的に乗れる時間、
(妻の妹さんの旦那さんが
グラスゴーから
エジンバラに送って頂ける)、
ホテルに行って
パスポートをピックアップし、
キングスクロスに移動して
最速で乗れる時間
(エジンバラに戻って来たら
妻のお父さんが
迎えに来てくれるとの事)
という
条件を満たすチケットを購入。
当初想定していた値段より、
若干高めだったけれど、
いち早く
パスポートを取り戻すのに
背に腹は変えられない。
間に合うか
間に合わないかが
判らない郵送を
4日も待つなんて
僕には無理。

で、
誰かが取りに行くのか、
やはり郵送して貰うのかを
支配人に伝えないと
いけなかったので、
再びホテルに電話すると、
別の女性が出て...

「そんなパスポート、
ありませんよ」と。

え、どういう事なんですか?

つづく

09.
ホテルに置き忘れ、
一旦
見つかったと
報告あったパスポートが、
失くなった??

支配人とは別の女性が、
そのパスポートを探すので
再度名前から
部屋番号から
チェックインと
チェックアウト時間までの情報を
全てをメールで送れと。

僕にもキレていたw妻が
更にキレる。

「こっちには
見つかったってメールの返信が
証拠としてあるんだから、
失くなってるとしたら
大問題になるわよ!
警察か大使館に突き出すからね」

格好いい!
でも、
超怖いい!

電話口のスタッフが狼狽し、
あ、あります、
きっとあります!と(笑)。

既に
往復チケットは
購入しているので、
後はロンドンに戻って
回収するだけ。

ホテルにあれば、
ですがw

10.
二人とも、
クタクタでしたが、
気を取り直して、
ディナーと
ナイト・クラビングに!

僕って、
アホなんだと思う。

11.
パスポート置き忘れ地獄
セルティック圧勝天国
 in Celtic Park 
aka football Paradise
ロンドンに戻る電車ない
&パスポート行方不明地獄
ディナーは、
セルティック戦の後、
ホテルに戻る道中に
現実に戻されて行く中、
車の後部座席から
窓越しに見つけた
ヒップ・スター・タイ料理店で。
再びパラダイスへ。



12.
そして
ディナーの後は
ナイト・クラビングに!




Rebecca Vasmantさんに
再会。
もう、
何回も会う約束してたのに
毎度僕の都合で延期に。
「今からロンドンに
パスポート取りに行くから、
ごめんやっぱり
今夜のギグ行けない...」
って連絡したものの、
ロンドン行きの列車が
ない事が発覚し、
結局ゲストにして貰って
(振り回し過ぎ!)
彼女が回すグラスゴーの
老舗ナイト・クラブ、
Sub Clubに
行って来ました。

エジンバラのクラブは
完全に元に戻ってますね。
もう、
激盛り上がりでしたよ。



この写真じゃ判りませんがw


Rebecca! 
ゲストで入れくれてただけじゃなく、
お酒も奢ってくれて、
新作のアナログ盤も
くれてありがとう‼︎

PS

彼女は、
DJだけでなく、
QuanticやAlice Russell、
Anusukaをリリースして来た
Tru Thoghtsからも
オリジナル作品を出す
アーティストでもあるのです。

13.
ロンドンのホテルに
置き忘れて来たパスポートを
回収する為に、
翌朝、
9時半に
エジンバラを出発する列車を
予約。
グラスゴーから
電車で移動も出来たのですが、
妻の妹さんの強い勧めで
妻の妹の旦那さんが、
車で僕を
グラスゴーから
エジンバラに
送ってくれる事になりました。

ただ、
7時45分に
迎えに来てくれるという事で
申し訳ない気持ちで一杯に。
いや、
妻、
妻の妹さんと
旦那さんと
家族総出で
僕の失敗を
サポートしてくれる事に
感謝もあったから
その両方の気持ちで
一杯でしたね。

本当は、
妻と妻の妹さんと
遅い朝食を
グラスゴーで
食べる約束していたんです。
それは残念ながらキャンセルに。
妻も一緒に
エジンバラ駅まで
来てくれる事になりました。

妻の妹さんの
旦那さんの車に乗り込むと、
「電車で飲む水とオヤツが妻から」
と袋を差し出されました。
何と優しい家族なんでしょう!
ただ、
ある意味子供の遠足状態w

車内では三人で、
昨夜のディナーやクラブの事、
コロナの事、
そして勿論、
セルティック戦の事を
話しました。
彼、
スコットランドのリーグで
広報として働いているんです。
実は僕、
セルティック戦で
日本人選手が活躍した時に、
彼に頼まれて
twitter用のコメントを
日本語に翻訳しているのですよね。

話が弾んだ事もあって、
あっという間に
エジンバラ駅に着きました。
僕が新幹線に乗る時の
ルールにしている
30前にプラットフォーム到着も
クリア出来そうです。

車が駅の前に止まり、
妻と
妻の妹さんの旦那さんに
別れを告げます。
早朝の運転を詫び、
感謝の気持ちを伝えると
「家族なんだから当たり前、
気にしないで」と。

妻が
「本当に
プラットフォームまで
行かなくていい?」
と何度も訊いてくれます。
僕が取れたチケットは
自由席しかなかったので、
妻の妹さんが、
列車に乗って
座席が確保出来るまで
お姉ちゃんが
シュウヤをケアした方がいい
と言い張っていたそうです。
でも、
列車が来るまで
二人を待たせるのも悪いし、
子供じゃないんだから、
一人で大丈夫!
と二人に
早く帰るように伝えました。
遠足wのオヤツの入った袋を
握りしめながら...。

車が遠ざかるのを見送り、
僕は駅に向かいました。
この時、
妻の妹さんの助言が
どれだけ重要だったかと言う事を、
僕はまだ認識していませんでした...。

つづく

14.
エジンバラ駅で
僕はロンドン行きの列車を待っていた。
出発まで丁度30分。

前回のロンドン行きの列車は、
プラット・フォームが
なかなか掲示されず、
待合所で待っていた多くの人が、
その番号が知らされるや否や
突然全員で
猛ダッシュを始めたので
とても驚かされた。

だが、今回は
予めプラット・フォームの番号が
列車のスケジュールが現れる
電光掲示板に明記されていたので、
僕は慌てる事なく
プラット・フォームに
辿り着く事が出来ていた。

恐らく、
妻の妹さんが心配していたのは
この事だったのだろう。
僕のチケットが
自由席だったから、
座れないと困るので
(ロンドンまで4時間半!)、
僕の妻に
僕が席を確保出来るまで
サポートしろと
言っていたに違いない。
問題は、
自由席のある"C"車両が
どのあたりに停まるのかが
判らなかった事。
それでも、
30分前のプラット・フォームは
まだ人がまばらで、
僕は、
駅のカフェで買った
ラテを持って
ベンチに腰を下ろした。

アーモンド・クロワッサンを
齧りながら、
僕は
グラスゴーで会った人々の事を
思い出していた。

翌日、
早朝に旅立ち、
メキシコで
休暇を過ごすというのに、
セルティック戦に
付き合ってくれた
妻のお兄さん。
妻の従兄弟は
車で僕と妻を
ホテルに迎えに来てくれて、
試合の後
ホテルまで送り届けてくれた。
そして、
僕がまだ
スコットランドにいるならと
急遽セルティック戦の
チケットを手配してくれた
妻の叔父さん。
日本人選手の活躍を
心から喜んでくれてたなぁ。
しかも
見知らぬ人が
僕にセルティックのマフラーを
くれたりもした。

DJのRebeccaは
僕と妻を
ゲストにしてくれただけでなく、
お酒を奢ってくれて、
新譜のアナログをくれた。

妻の妹さんは、
列車で飲む水とおやつwを
旦那さんに預けてくれたし、
その旦那さんは
僕をグラスゴーから
エジンバラに送ってくれた。

忘れてはいけないのが、
妻の存在。
最初は
僕がパスポートを忘れた事に
マジギレwしていたけれど、
ホテルに連絡を取り、
パスポートの無事を確認し、
引き継ぎが
出来ていないスタッフに
電話で詰め寄るなど、
献身的に僕を支えてくれた。

ドジで間抜けな僕に、
誰もが
「気にするな、何とかなる」
責める事なく接してくれる。
皆、
僕に優しく接してくれた上に、
助けてくれる人もいた。

スコットランドの人達は
何て素晴らしいんだろう・・・。

乗客が徐々に増えて来た。
出発時刻の10分前。
列車は
まだ
到着していなかったけれど、
自由席は
座席の取り合いになるだろうから、
僕はベンチから立ち上がり、
前から3両目に該当する
"C"車両場所を推測し、
移動し始めた。

その時だ!
けたたましいアナウンスが
駅の構内に響き渡った。

「緊急事態発生!!
全ての乗客は
直ちに駅から脱出して下さい!!
最寄りの出口から!!
エレベーターは使わないで!!」

え、
事故?
火災?
爆発??

列車を待つ乗客が
騒然としている。
妻が
プラット・フォームまで
来てくれていたら!

ロンドンに
パスポートを
取りに行かなければならないのに、
一体何が起こったというのだ。
僕は、
駅を出るべきなのか?
それとも・・・。

再びアナウンスが、
同じ警告を繰り返していた。

つづく

15.
ホテルに置き忘れて来た
パスポートの回収に
ロンドンへトンボ帰り決定。

往復チケットを押さえ、
30分前に駅に到着し、
後は列車が来るのを待つだけ...
と思いきや!

突然の
緊急事態発生のアナウンス‼︎
今すぐ
全員脱出しろ⁇⁇

果たして
その緊急事態とは何なのか?
列車の事故?
駅の火災?
爆破予告?
テロ?
もしくは
通り魔??

またチケットを
取り直すとかあり得ない。
いや、
ロンドンに
行けなくなったらどうしよう?

話作ってませんからね!

速攻で、
駅まで送り届けてくれた
妻の妹の旦那さんに
電話(Messangerで)。
でも繋がらず...
そうだよね。
運転中だもんね。
すかさず、
ネットに繋がっていない妻に
電話
(国際通話になるから二番手)。

事情を伝える。
僕を
遮るように妻が言う。

「周りの人の様子はどう?
駅のスタッフが来て、
シュウヤに逃げろと
直接言うまでそこにいるのよ。
とにかく列車を待って、
来たら乗るべき」

と。

アナウンスが止み、
驚くべき光景が!

騒然としていた乗客が
落ち着きを取り戻し、
列車を待っている。

え、
誰も逃げないの???

5分前に
列車が構内に入って来た。
僕はどうやら
''C''車両の入り口付近に
狙い通りにいたみたいで、
プラットフォームには
多くの人が滞留していたが、
目の前には、
女性が二人しかいなかった。
これは座れる!

案の定、
列車に乗ると
自由席はガラガラ。
二人掛けの
窓側に腰を下ろす。

妻に電話をした。
列車が着いた。
席に座れた!と。
妻の妹さんからも
メッセージが届いていたので、
返信する。
乗れたよ!
今からおやつ食べるね!
と。

列車が動き出した。
一体、
あのアナウンスは
何だったんだろうか(笑)。

いざ、ロンドンへ。
果たしてパスポートは、
無事回収出来るのか?

次回、
感動の最終回‼️

の筈。

16.
エジンバラから
ロンドンへの再旅行。

今回、
2月上旬に日本を出国し、
3月下旬に戻る筈の予定が、
出発が3月中旬に遅れ、
帰国が4月中旬に延期になった
''別の大問題(コロナ感染)''ブログの
下書きにその殆どを費やし、
4時間半という時間は、
あっと言う間に経過した。

キングス・クロス駅で
地下鉄に乗り換え、
トテナム・コート・ロード駅で
下車。

歩いて3分もしない所にある
ブルータリズム建築が、
僕の目指すホテルだった。

本当に
僕のパスポートを
確保してくれているのか?

もし、
紛失していたら
警察か大使館に連絡しなさい
と妻に言われていた。
こっちには、
無事に見つけたと
明記された
支配人からのメールという
証拠があるのだ。

レセプションで
名前を告げる。
確かに
パスポートを保管してある
と言うではないか!
女性スタッフが、
支配人しか触れないので、
座ってお待ち下さいと
僕に丁寧に促す。

待つ事5分。
70年代の
ビル・エバンスを
彷彿とさせる風貌で、
髭を整え、
知的な眼鏡をかけた
若い男が
僕に近付いて来た。
手には
青い手袋をはめている。

「私が、
支配人の●●です。
貴方のパスポートを
お預かりしておりました。
さぁ、どうぞ。
中身もご確認下さい」
劇的な
シーンでもあるのに関わらず、
実に物静かな語り口で、
彼は勿体ぶるように
僕にビニール袋を
差し出した。

中には、
ぼ、僕の
パスポート・ケースが!

彼が手袋をしていたのは、
コロナ対策もあるけれど、
パスポート・ケースに
指一本触れていない事の
証明なのかもしれない。
セーフティー・ボックスの中から
救出した僕のパスポートケースに、
誰の指紋も付けないように。

僕は、家族に連絡した。
妻に電話を。
妻のお母さんと
妻のお父さんと
妻の妹さんと
妹さんの旦那さんと
妻のお兄さんと
妻の叔父さんに!

僕のパスポートを
無事回収しましたと‼️
中身もちゃんとありましたと‼️



清々しい気持ちで
ホテルを出る。
帰りの列車のまでは
3時間以上あった。
それでも、僕は、
何処にも行かなかったし、
誰にも会わなかった。

実は
往復チケットを予約した時に、
ポロッと、
時間があるから
前回のロンドン滞在で
会えなかった友達と
約束を入れようかな?
と妻に話しかけたら、
烈火の如く
叱られたからだwww

「パスポートもあるかないか
まだ判らないのに、
友達に連絡するって正気?
貴方はどうして
普通の人と同じように
常識的な行動が取れないの?」

と。

えーっと、
僕、沖野修也だから、
それは無理な注文かと...。

それでも
ちゃんと
妻の忠告を聞き入れw、
レコ屋にも
美術館にも寄り道せずに、
キングス・クロス駅に
ホテルから直行。
近くにある、
話題のデザイン・ホテル、
スタンダードで
遅目の昼食を
ゆっくりと堪能した。

今回の渡英では
訳あって実現しなかったけれど、
Kyoto Jazz Massiveの
リリース・パーティーを
やる筈だった会場が、
キングス・クロス駅の
近くにあったので、
本当は
スタンダードに泊まる
予定をしていたのだ。
でも、
イベントがなくなり、
活動し易い
ショーデージのホテルに二泊。
三泊目を
グラスゴーに戻る列車が出る
ユーストン駅に近い
トテナム・コート・ロードのホテルに
移動する事にしたのだった。

もし、
リリパがあって、
ここに泊まっていたら、
このネタは入手出来なかったなw

僕は、
スタンダードで、
デザートの
バナナ・ケーキを食べながら、
トラブルが
解決したからこそ許される
不謹慎な発想で
自分を正当化しようとしていた。

スタンダードを出て、
キングス・クロス駅に向かう。
僕は安全と危険、
不運と幸運について
思いを巡らせていた。
セイフティー・ボックスに
パスポートを入れたからこそ
発生した危機。
パスポート紛失
という不運からの、
セルティックに所属する
日本人選手達が
大活躍を生で目撃出来た幸運。

人生とは、
何と摩訶不思議な
コントラストによって
構成されているのだろう?

行きの列車とは違って、
プラット・フォームの番号が
掲示板には未表示だったけれど、
僕はダッシュする必要もなく、
席の心配をする事もなかった。
パスポートを回収する事を前提に
エジンバラに戻る列車は、
自分への褒美?として
倍の値段もする
ファースト・クラスの
指定席を予約していたからだ。

30分前に駅に着いたけれど、
15分も経たない内に、
列車が構内に到着し、
乗車が可能になった
(キングス・クロス駅が始発)。

僕が予約した''B''車両は、
進行方向の
先頭から数えて二両目。
改札から
結構な距離はあったものの、
ファースト・クラスでの
旅への期待感で、
僕の足取りは軽かった。

車内に乗り込む。

え?
行きと同じ、
座席間が
超狭い車両だった。
こ、
これは
ファースト・クラスじゃない!

しかも、
僕の座席は
エジンバラ方面を背にしている。
逆向きの移動が苦手な僕は、
進行方向で、
テーブルのある広い席を選んだ筈。

サイトのブッキング・ミスか?
それとも、
普通車両の残席を
高い値段で買わされたか?

いずれにせよ、
僕はこの列車で
エジンバラに
戻らないといけない。
妻のお父さんが
到着時間に
駅まで
迎えに来てくれる事に
なっていたからだ。

優雅な旅を想像していた
僕の喉の奥の方に、
不吉な胸騒ぎが込み上げて来た。

列車が動き出した時に、
僕の悪い予感が、
的中する。

つづく

17.
パスポート紛失記、
遂に最終回です。
皆さん、
ありがとうございました。

===== ===== ===== ===== =====

エジンバラ行きの列車が
発車するや否や、
騒がしい三人組の若者が
僕のすぐ後ろの席に
乗り込んで来た。
まさか、
彼らと4時間半も一緒?

僕はもう一度
チケットを確認した。
日帰り
18時
キングス・クロス駅発、
エジンバラ行き、
B号車の座席81。

間違いない。
でも、
何かが間違っている。

彼らの騒がしさは
話し声だけではなかった。
能天気なテクノを携帯で鳴らし、
大興奮しているのだ!
しかも、
キングス・クロス駅から!!

中でも
長身でオカッパ頭に
鼻の長い(高いじゃない)男は、
酔っているのか、
別の何かで
ハイになっているのか
異様にテンションが高く、
トラブルが起こる
予感しかなかった。

絶対にこれは
ファースト・クラスじゃない...

しかも、
驚く事に
誰も注意しないと言うか、
誰も気にしていないのだ。
車掌すら、
彼らを無視していた。
僕も
揉め事を起こしたくなくて
黙っていたから、
他の乗客を
批判出来ないけれど、
車内文化が違うというか、
慣れているのか、
いらいらした様子を
見せる人は見当たらなかった。
自由?
寛容?
それとも...

それでもさすがに、
一度だけ、
僕と通路を挟んで
反対側の席の
窓側に座っていた
金髪でショートカットの老女が、
眼鏡のフレームに指を添え、
座席の隙間から
若者達に注文を付けた。

「貴方達、
オペラかけてよ。
オペラは持ってないの?」
と。

彼らは
少しボリュームを下げたものの、
クスクスと笑うだけで
彼女のリクエストには
応えなかった。

僕は防衛策として
イヤフォンを耳に差し込み、
iTuneで最近入手した曲を
順番に聴く事にした。
そして目を閉じ、
音に浸る事にした...

どれくらい
時間が経ったのだろう?
激しい揺れで
僕は目を覚ました!

しかし、
それは、
列車の衝突でも
脱線でもなかった。

いつの間にか、
オカッパ頭の
ノッポ野郎が
通路を挟んだ
僕の隣の席に座っていて、
通路越しに腕を伸ばして、
僕の肩を掴んで
揺らしていたのだ!

老女がいた席には
彼の友達が座っていた。
オカッパが
必死に口を動かしている。
僕はイヤフォンを外した。

ただでさえ
僕にとっては
理解するのが難しい
スコットランド英語。
その上、
彼は酔っているのか
キメているのか
判らないけれど
まるで呂律が回っていない。
視線が長い鼻の両側で
左右に大きく離れている。
馬のように舌を回したり、
巻いたりして、
僕に何かを伝えようとしている
口の動きを凝視し、
その意味を掴みとった!

「お前〜何聴いてんだよ〜???」

彼は
テクノで盛り上がる自分の横で、
音楽を聴きながら
熟睡する僕が
気になって
しょうがなかったのだろう。

普段は寝起きのいい僕も、
突然叩き(揺すり?)起こされ、
あまり気持ちの良くないものを
見せられ
(自分から進んで見つめたのだけれど)、
不機嫌さを隠せなかった。
しかし、
思わぬ横槍?に
僕は正気を取り戻す。

僕は
左の頬に視線を感じていた。
僕の席から見て、
二席先
(進行方向を向いた席だから
厳密には二席後ろか?)、
通路を挟んで
反対の席通路側にいる髪
を引っ詰めた若い女性が、
僕を憐れむ表情で見つめ、
明らかに同情してくれている。
無関心な乗客の中に、
頭のおかしい若者に
絡まれて困惑する僕を、
心配してくれる人がいるとは!
しかも、彼女は、
妻の妹さんの自宅の
冷蔵庫に貼られた
若かりし頃の妻にそっくりだったのだ。
これは夢ではないのか...

「だから、何聴いてんだよ〜?」

しつこく
オカッパが
僕に訊いて来る。
曲は、
8/6にリリースされる
クニモンド瀧口さんが
Remixを手掛けた
NAYUTAHの'君のポラロイド'に
差し掛かっていた。

「日本の音楽だけど、聴くか?」

僕は彼に静かに尋ねた。
僕の声が小さ過ぎたのか、
それとも
英語の発音が悪かったのか、
不思議そうな顔をして
口を丸く開けている。
僕はもう一度
同じ問いを繰り返した。

彼はソッポを向き、
彼の右隣りで
寝ていた友達を起こし、
時折僕の方をチラ見して、
彼に何やら話しかけている。

再び、
オカッパが
僕に
スコットランド訛りの英語で
話しかけて来たが、
今度は全く聴き取れない。
僕が肩をすくめると、
彼は持っていた携帯を
僕の方にかざし、
彼のお気に入りの音楽を
聴かせようとする。
僕は手を振って拒絶し、
再びイヤフォンを
耳に差し込んだ。
若かりし頃の妻に似た女性が、
彼女の隣りに座っていた
女性の友人に声をかけ、
二人で僕達のやり取りを
まるで
惨事の目撃者であるかよのように
寄り添って
眺めていたのが視界に入った。

僕に相手にされなかったのと、
再び友達が
目を閉じた事に絶望したのか、
そのオカッパは、
携帯の音楽を止め、
前の座席に付いていた
小さなテーブルを倒し、
腕で輪を作ると
顔を埋めるようにして
塞ぎ込んだ。

それまでの喧騒が
嘘のように思える
不気味な静寂が訪れる。
僕は思い出したかのように
トイレに向かった。
席に戻る時に、
恐らくトイレに向かうであろう
妻の若かりし頃に似た女性と
すれ違った。

恐る恐る席に着く。
彼に気付かれないように。
しかし、
束の間の沈黙は、
奇妙な音で破壊された!

グェー、
ゲブォー、
グワップ‼︎
オカッパが
奇声と共に顔を上げる。

ウガーッ、
ゴワーッ、
ゴボッ、
ゴボッ‼︎

吐く、
こいつは絶対吐く!
僕は確信した。

ウギャー‼︎
と叫び声を上げ、
オカッパが
Tシャツを脱ぎ捨て、
上半身裸になる。
そして、
突然立ち上がると、
通路に飛び出し、
直立不動になり、
そのまま後ろ向けにぶっ倒れたwww

僕も席を立ち、
後ろの席の方にノビてしまった
彼の顔に目をやった。
白目を剥いている。
彼の友達も目を覚まし、
驚いている。
後ろの席に座っていた
もう一人の友達は
恐怖におののいていた。

「こいつ大丈夫なんか?
お前ら何とかしろ!」

僕は英語で
彼らにオカッパのケアを命じ、
荷物をまとめて、
空いている席に移動した。
気を失っているだけならいいけれど、
真横で死なれたりしたら堪らない。
僕はこれ以上耐えられなかった。
ここは、
絶対の絶対に、
ファーストクラスじゃない‼️

進行方向の席に座ったので、
うずくまって
友達二人が
オカッパに話しかけているのが見えた。
死んでいなければいいけれど...

トイレから
例の若い女性が戻って来た。
彼女もその光景に
ショックを受けている。
ただ、
彼女が取った行動は
僕とは全く違っていた。

オカッパを跨いで席に戻ると、
彼女はペットボトルを手に取り、
彼に水を飲ませ始めたのだ。

ゲボッ!
という汚らしい音と共に、
オカッパは飛び起き、
再び直立不動?に。
これ、
ギャグか?
コメディーか?
それとも
ドッキリ・テレビか
何かか???

若かりし頃の妻に似た女性は、
自分の席をスルーし、
僕の横を通り過ぎて
別の車両に移動した。
彼女が戻って来た時に、
再び目が合ったので、
彼女に声をかけた。

「君はなんて親切なんだ!」

彼女は、
手にした飲み物
(水がなくなったので
買いに行ったのだ)を
少しだけ掲げると、
恥ずかしそうな笑顔を見せた。

エジンバラ駅に近づいて来たのか、
乗客達が立ち上がり始める。
オカッパも無事なようで網棚?の
荷物に手を伸ばしている。

まさかの珍事件。
ある意味、
パスポートの回収を
忘れさせるインパクトがあった。

それにしても、
スコットランドの人は優しいな。
おおらかで面倒見がいい。
一部の
頭のおかしな人間を
除いてw

プラットフォームに
列車が吸い込まれて行く。
僕も
手荷物の確認をしないと。

パスポート、
勿論ある。
妻の妹さんの
お子さんの為に
スタンダード・ホテルで買った
お土産、ある。
携帯、ある。
携帯の充電器、ある。
財布、あれ?
パンツの
右後ろポケットに
入れた筈の財布が!
ない...

おわり