毛虫 | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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昨日、

かつて住んでいた京都の家

(祖母が弟に遺した町家)に行った。

 

例年椿に繁殖する

毛虫の駆除をする為に。

 

ついでに部屋の掃除もした。

衣類や本、レコードなどの荷物は

置きっ放しにしてあるからだ。

 

お隣りのおっちゃんに

久しぶりにお会いしたら、

 

「晩ご飯食べていかへんか?」

 

と誘われた。

 

子供の頃から彼を知っているが、

染色業を営む前は、

料亭で働いていた事を昨日初めて知った。

大柄で、

眼鏡の奥の細い目は、

柔和な中にも鋭さが宿っている。

口を開けば飛び出す辛口な政治評論は

往年の大橋巨泉を彷彿とさせた

(眼鏡のフレームは巨泉ほど太くなかったけれど)。

 

こういうご近所さんが

僕の人格形成に影響を与えたのかもしれない。

何でも遊びに来る筈だった娘さん夫婦が

急用で来れなくなり、

用意してあった食材が勿体ないので

声をかけてくれたみたいだ。

僕と妻の話し声を耳にしたのだろう。

 

12畳はある広い和室に通された。

 

「一応ソーシャルディスタンスやから

二人離れて座って貰うからな」

 

と冗談っぽい口調でおっちゃんは言ったけど、

実際に僕と妻は可能な限り離れて座らされた。

端と端にお膳と座布団。

 

「一緒に住んでるのにね」

 

と妻が最大ボリュームの''小声''で、

僕に伝えた。

 

「おっちゃんとおばちゃんは

食べへんの?」

 

と尋ねると

 

「わしらはもう食べたから

どーぞどーぞ、

美味しないかもしれんで〜」

 

と京都っぽい返しが来た。

 

9品のコース料理はどれも絶品で、

芍薬やつつじが盛り付けに使われ、

味覚だけでなく

視覚も楽しませて貰った。

 

しかし、

最後に出て来たデザートで

問題が発生する。

 

妻が悲鳴を上げ、

お膳をひっくり返してしまったのだ!

 

僕は、自分の皿を凝視した。

皿の上には桐の葉が載せてあり、

二匹の毛虫が

重なりあっているではないか!!

 

妻の反応に驚いて

駆け付けたおっちゃんは、

口を開けて笑っている。

 

「それ、

アンコをチューブ状の絞り器から出して、

揚げた素麺を砕いて刺してあるだけやで、

あんたら毛虫の駆除に来たん知ってたから、

おっちゃんのジョークや」

 

よく出来た偽物だった。

極上コース和食からの、

イケズな締め。

これこそ、

上げて落とす京都の文化じゃないか!

 

お礼を言って立ち去る際も、

妻はまだ不機嫌そうだった。

スコットランド人の妻には

理解出来ない仕打ち。

 

妻の顔を見て、

おっちゃんはまだニヤニヤしていた(笑)。

 

ところが、

僕が、別れの挨拶を口にした途端、

おっちゃんの頬に涙が溢れ落ちた。

 

「今、''おやすみやす''ってゆうたんか?

''おやすみやす''なんて、

きょうび誰も使わんようになったなぁ。

もう、昔の京都はないんや。

そんなんゆうてもうて、

わし感激したわ」

 

妻が優しい眼差しで

おっちゃんを見つめている。

 

結局、

僕達はおばちゃんには会わなかった。

玄関の引き戸を開けると

外はまだ明るかった。

 

不思議に思ったその時、

砂混じりの突風が吹き付け、

僕はきつく目を閉じた。

そして、

目を開いて飛び込んで来た光景に驚いた。

 

眼前に広大な砂漠が広がっている。

おっちゃんの家の前は、

小学校のグランドじゃなかったっけ?

京都にこんな砂漠あったっけ?

 

見上げると

巨大な太陽が燦々と輝いている。

その眩しさと熱さに、

僕は気を失った...。

 

どの位時間が経っただろうか?

動物に顔を舐められているのに

気が付いた。

 

ラクダ?

 

いや、

それは僕の愛犬だった。

散歩に連れて行けと

催促している。

 

Casioのデジタル腕時計は

5:30を表示していた。

 

PS

 

おっちゃんは数年前に

お亡くなりになりました。

おばちゃんもあとを追うように

すぐに亡くなりました。

次回京都に行ったら

お線香をあげに行こうと思います。

 

Btw my friend has pointed out that the automatic English translation on fb has translated older gentleman as boobs.

Actually the English translation makes little sense so maybe the story you piece together will be just as interesting.

Stupid fb!

 

(2020/5/20)