事務所のポストに
"中古屋"という名のレコード屋のチラシが入っていた。
この店は、
"委託販売するレコードの売り上げを100%お客様に還元!"
してくれるらしい。
但し、
中古盤はダメで
新譜のみOKとの事・・・。
僕は早速お店に出向いて詳しい話を聞く事にした。
僕を迎えてくれたのは、
赤木桜さんという29歳の女性で、彼女が店長で一人で店を切り盛りしているらしい。
Dr.スランプのアラレちゃんをそのまま大人にしたような(実際にキャップに眼鏡だった)、
漫画っぽいキャラだった。
単刀直入に僕は彼女に尋ねた。
売り上げ100%僕にくれるみたいだけど、どうやって君は稼ぐの?と。
赤「箱を買ってもらうんです。1年契約で」
僕「いくらで?」
赤「一箱4000円です」
僕「悪くないね」
赤「皆さんそうおっしゃいます」
僕「何枚入れてもいいの?」
赤「一つの箱に70枚位入りますかね?」
僕「1年で4000円?」
赤「はい。但し、一つの箱には同じアイテムしか入れちゃダメなんです」
僕「え、僕用に1箱年4000円じゃなくて?」
赤「はい。シングル1アイテムにつき1箱。アルバム1アイテムにつき1箱ですね」
僕は、具体的に今年委託販売して欲しい作品を想像してみた。
DJ KAWASAKIの新しいシングル4枚
DJ KAWASAKIの新しいアルバム1枚
ROOT SOULの新しいシングル2枚
ROOT SOULの新しいアルバム1枚
KYOTO JAZZ MASSIVEの新しいシングル1枚
KYOTO JAZZ MASSIVEの新しいアルバム1枚
KYOTO JAZZ SEXTETの新しいシングル1枚
KYOTO JAZZ SEXTETの新しいアルバム1枚
NAYUTAHの新しいシングル2枚
NAYUTAHのデビュー・アルバム1枚
僕の新しいプロジェクト、
SHUYA OKINO EXPERIMENTのシングル1枚
2019年だけで、16箱×4000円=64000円が必要となる。
赤「倉庫だと思えば安いんじゃないですか?売れたら足してもらってもいいんですよ」
僕「なるほど」
赤「完売したらいくら入りますか?」
僕「計算してみないと・・・」
赤「70枚で、シングル1800円と考えれば、1箱1回完売すれば12万6000円。箱代引いて12万2000円お支払いします」
僕「仮に、それぞれのアイテムを来年も売り続けたければ、倍、つまり12万8000円払わないといけないよね?」
赤「はい」
僕「来年、同じ数のアイテムを出すなら3倍、つまり19万2000円払わないといけないってことだよね?」
赤「はい」
僕「ちょっと考えさせて下さい・・・」
僕は、店を出て駅に戻る途中、色々と考えてみた。
完売しなくても箱代はかかる。
僕の会社のアイテム全部を1箱に入れられる(しかも売れたら追加できる)ならいいけど、
アイテムごとに1箱ってどうなんだろう?
しかも、箱代は1年毎に払わないといけない。新譜を出すと旧譜を欲しい人もいるだろうから、
箱をずーっと残しておくとなると、毎年4000円かかる。
10年で1箱に4万円だ。売れるか売れるか判らないにも関わらず・・・。
確かに売り上げの100%は僕のものだけど、なんか釈然としない・・・。
それにしても、どうして彼女は"中古屋"なんて名前の店にしたんだろう?新譜しか委託できないのに・・・。
これ、夢の話ではないです。
デジタル・ディストリビューションの喩え話です。