季節外れのハロウィン(後編) | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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Kyoto Jazz Massive 沖野修也 Official Blog

DJ KAWASAKIが
ダースベイダーの代役を
引き受けるのは
日程的に不可能で、
YUKARI BBに
頼むのを諦め、
プレデターを思いつくも
当日では
通販での購入は無理で、
京都で
アメトイの店を見つけるも
既に閉店・・・。

何度も
挫けそうになりながらも
ようやく
大阪難波で見つけた
プレデターのマスク。

でも、
金額は63万・・・。

心が折れない訳がない。

真剣に悩みましたよ。

ま、振り返ってみれば
そこで止めときゃ
良かったんですけどね。
えっ
しつこい?

それでも
1時間もかけてやって来て、
このまま
すごすごと帰る訳には行きません。

弟の言葉が頭をよぎりました。

「アニキが
参加するって
表明したから
もう
誰が来るか
バレてしもたやん・・・」

なんとしても
彼の落胆を回復してやりたい。

そして、
サプライズで
弟の誕生日を祝ってやりたい。

それに、
亡き父の代わりに
ヨシヒロの為に兄として何かしてやりたい・・・。

僕は
腹を括りました。

都内最大級のハコで
3000人も集客したのに
予算かけ過ぎて
一晩に500万も自腹を切った事のある
沖野修也に
63万のマスクは
安いもんです。

レジに歩み寄り、
財布をポケットから
取り出しました。

ショー・ウィンドウの中の
プレデターの生首は、
僕をあざ笑うかのように
邪悪な牙を
剥き出しにしています・・・。

「あのー、プレデターのマスクを一つ下さい」

唾液を飲み込む音が
内耳の奥に響き渡ります。

安いもんや・・・と自分に言い聞かせたものの
生体反応は正直です。

耳が熱くなり
頭皮を掻きむしりたくなる衝動に駆られました。

店員が
棚から袋に入った
在庫の
マスクをレジに運んで来ます。

その様子を不安げに目で追う
僕を
ヤツは無言で凝視しています。
凶暴な絶叫の予感を孕んだまま・・・。

そして、
店員が
その地球外知的生命体に
洗脳されているかのような
無表情で僕にこう言いました・・・。
































































8800円です。






















































はい?






































































8800円になります。

僕は耳を疑いました。
でも確かに
瞬き一つせずに彼は言ったのです。

8800円だと。

僕はクレジット・カードを取り出すと
心の中のガッツ・ポーズを悟られないよう
自己最高のポーカー・フェイスを決め
領収書の発行を彼に求めました。

店員は
マスクが大きいので不安定だから
被る際には
詰め物か何かが必要であるという
助言と共に
品物を
僕に手渡してくれました。

去り際に僕は彼に念の為に尋ねたんですよ。

「あの展示されているマスクはいくらでしたっけ?」

と。

どうやらそれは、実際の撮影で使われた
(といっても自主制作映画)マスクで
被る事のできないコレクターズ・アイテムだった
ようです。

最初から、値段聞いとけば良かったですよね。
いや、
そのコレクターズ・アイテムの値段に恐れをなして
買うの止めておけば良かったのか・・・。

とにかく、
念願のマスクを入手し、
準備は万端。
1時間かけて京都に戻り、
また1時間かけて大阪に舞い戻ったのです。

僕の考えたプランはこうです。

①まず、沖野修也として行く。

もうバレてるから、
誰も驚きませんよね。

②BRISA君のプレイ中に、
彼の背後に潜み
頭を出したり隠したりして
一部のお客さんに不安を与える。

プレデターのグロテスクなマスクには
さらに鉄製風の無機的なマスクが
もう一枚付いているので
暗闇の中ではそれが
何だか認識できないと思うんです。

③BRISA君に気付かれないようにしながらも
背後で屹立し、
お客さんに存在を完全に気付かせる。

④そしてブースに乱入。

おそらく、
何故プレデターかという事が理解できなくてrも
突然の異変に多くの人が驚いてくれる筈。

弟は
兄からのサプライズ・プレゼントにきっと喜んでくれる筈・・・。

で、
実際にどうなったか?

ここからは
一字一句綴るのに酷く抵抗があり
続ける事が苦痛でもあるのですが、
ここまでお付き合い頂いた皆さんの為にも
一部始終を収録したいと思います。

僕の計画が見事に裏目に出る様というか
外し具合は
悲劇的な喜劇でもありました・・・。

案の定、
僕の到着に驚く人は誰もいませんでした。

来て当然・・・みたいな空気が漂っています。
勿論、僕の事を知ってくれている人は
挨拶に来てくれたりしてましたが。

何よりも
僕が驚いたのは
もう一人のサプライズ・ゲストだった筈の
SOIL&"PIMP"SESSIONSの社長が
既にそこに居た事でした。

あれ、
俺たちサプライズでもなんでもないやん。

振り返ってみれば
この時点でも
止められたんですよね。
悔やまれます。

でも、
3時間かけて1往復半して
マスクを用意して
ここへ辿り着いた僕に
決行しない
という選択肢はなくなっていたのです。

ちなみに
社長がその時
面白い事を言ったんですよね。

「あれ、シューヤさん、普通に来たの?
僕何かすると思ってましたよ」

そうなんです、
その日のFacebookやツィッターでの
僕の思わせぶりな
コメントを
彼は何かのフリであると
感づいてたんですよねー。

流石です。

勿論
その場では何も明かさずに
苦笑でお茶を濁しておきました。

いよいよ
BRISA君がDJを始める時間です。

ヨシヒロが
BRISA君を紹介する為に
ブースの中でスタンバっています。
彼は
僕が到着しているのを知っていましたが、
着替えの時に鉢合わせにならないように
彼がブースから出て来るのを
僕はじっと待っていました。

ヨシヒロへの
誕生日プレゼントを偽装した
大きな紙袋は
僕のレコード・バックと共に
既に楽屋に搬送されています。
ヒョウ柄のスカーフで
カバーされていたので
誰も紙袋の中身が
プレデターのマスクだとは
気付いていない筈です。

BRISA君のプレイがスタートし、
ヨシヒロがブースから出てきました。

彼はBARの方へ歩いて行きます。
僕は大きくフロアーを迂回し
彼の視界を避けるようにして
ブースの脇にある入り口を通って
楽屋に向かいました。

変装の準備の開始です。

プレデターのマスクは大きいので
まずニット・キャップを着用し
一つ目のグロテスクなマスクを被ります。
この時点で
ほとんど視界は遮られてしまいます。
さらにその上から鉄仮面を被るのですが
これも目の部分が
黒いメッシュになっているので
着装すると
暗闇の中では
何も見えなくなってしまいます。

僕は、
DJプースの後ろにある
もう一つのDJブースの中に身を忍ばせました
(その日は
特設のDJブースが
フロアー内に設置されていたのです)。

呼吸を整え
ゆっくりと
上下運動を繰り返します。

果たして、
お客さんは
僕に気付くのでしょうか?

音が大きいので
彼等の反応は
聞こえてきません。

その時です。
閃光が
僕の殆どない視界に
飛び込んで来ました。
その数が瞬く間に
増えて行きます。

携帯やカメラで
写真を撮られているのです。
そして
フラッシュが焚かれる度に
ブース前に
人が集まっているのが確認できました。

僕は
暫く仁王立ちし、
光のシャワーを浴び続けました。

気分は銀幕のスターです。

全然そんな事なかったんですがw、
思い込みが激し過ぎて
「俺、やったったかもー」
状態だったんですよね、
この時点ではww。

はっきり言って
アホです。

自分の置かれている状況を
全く把握していない僕は
手探りで楽屋の通路を徘徊し
なんとか
DJブースに入り込む事ができました。

ところが
ブース内で僕は異変に気づきます。
写真を撮って
「何何これー!」
みたいに反応してくれている人が
いない訳ではなかったんですが、
決して騒がれてはいないし、
時折フラッシュの効果で
見えるフロアーの様子は
クールな音楽に身を任せて
人々が揺れている
だけなんですよね・・・。

大体にして
BRISA君、
回すのに真剣で
ひょっとしてまだ気付いてない?

お客さんは
仕方ないとしましょう。
何故プレデターなのか
判らないんだから。
Facebook内の
閉じられたグループの人しか
BRISA君と
プレデターが比較されている事を
知らないんですから。

でも、
BRISA君には判ってもらわないと、
この兄弟愛に満ちた
一世一代のパフォーマンスを
やった意味がなくなる・・・。

彼の顔を覗き込んでみました。
全然反応がありません・・・。

しょうがないから、
マスクから生えている
触覚で
CDJのジョグ・ダイアルを操作し
スクラッチをしてみました・・・。

BRISA君が
もの凄い怪訝そうな顔をしています。

しかし、
彼の軽蔑に怯んではいけません。

誰かが弟を呼びに行ってくれる為には
僕が彼に
襲いかかる位でないといけないでしょう。

僕はおもむろにBRISA君の首を締め
頭を何度も揺さぶりました・・・。

その時です、
僕は重大な事実を思い出しました。
BRISA君はどうせなら
プレデターよりピグモンに似てると言われた方がいいと
スレッドで言っていた事を。

でも
これ冗談って判ってくれてるよね・・・?

ひょっとして怒ってる?

僕は動揺のあまり
完全に自分の立ち居振る舞いを
どうすれば良いのか
判らなくなってしまいました。

おそらく
ブース内で困惑し
途方に暮れる
不気味な生き物の姿は
弟の誕生日には全くふさわしくなく
人々を呆れさせてただけでなく
不快にすらしてしまっていたに違いません。

かろうじでマスクの隙間から
随分遅れて
弟がブースにやってくるのが見えました。

開口一番、
耳元でこう言われました。
「メッチャすべってるで」

そして、彼はブースの近くにいた人達に
大声でこう言いました。

「はいはい、
ここで
お約束で
つまみ出さなアカんねんな」


穴があったら入りたいと言いますよね?
いや、
僕は既に闇の中にいたので
穴は必要なかったのです。
黒く大きな闇は
恥という穴蔵でもありましたから・・・。

弟に
楽屋に連れていかれました。

「アカンて。
ハズしまくってるって」


僕は
弟の折角のバースデー・パーティーを
台無しにしてしまった事を
激しく後悔しました。

SOIL&"PIMP"SESSIONSの社長も
苦笑いしているのが聞こえます。

僕は終始無言でした。

「それわざわざ買って来たん?」

と弟が僕に聞いてきます・

それでも
僕は無言を貫きました。

呆れたように弟は言いました。

「喋ってもらわれへんわw」

それは申し訳ない事をした
という思いによってもたらされた
沈黙でもありました。
しかし、
同時に
起死回生を狙った
最後の抵抗でもあったのです。


実は、
僕は
自分のDJの順番が回って来たら、
中身を入れ替え、
「プレデターってアニキじゃなかったの?」
と弟に思わせる
所までストーリーを書いていたのです。

だから
そこで喋ってしまうと
僕のプランが台無しになってしまうから
決して口を割る事は出来なかったのです。

弟を社長が楽屋からいなくなったのを確認して
マスクを脱ぎました。

そして、
僕が着ていた
黒いセーターとレザー・ジャケットを脱いで
Tシャツ一枚になりました。

沖野修也に戻った僕は
何食わぬ顔をして
フロアーに出たんですが、
誰にも歓迎される事なく
誰にも賞賛される事なく
できるだけ自分の存在感を消して
聴衆に紛れ込みました。

そう言えば、
数少ないプレデターに反応してくれていた
女の子を見つけたので
こう質問してみたのです。
彼女はひょっとして
僕の真意を読み取っていたかもしれないからです。

僕「大丈夫やった・・・?」
その子「うん、面白かった。
前の方は盛り上がってたよ」
僕「えっ、そうなの?
あれ、何か判ってくれたん・・・?」
その子










































































































「ダース・ベイダーの
別ヴァージョンかなんか?」


正直、
DJせずに帰りたくなりました。
唯一の理解者と思えた人がこの調子です。

そして、
社長と替わった
BRISA君にも詫びをいれました。

僕「ごめんね、乱入して」
BRISA君「僕、最初プレデターって判らなかったんですよ・・・」
僕「まじ(汗)?」
BRISA君「僕、シューヤさんって知らなかったんですよ」
僕「えっ・・・」
BRISA君












































































「だからなんで
僕が
首締められなきゃ
いけないのかなーと
思ってたんです」


どうりで反応が悪い筈です。

もう踏んだり蹴ったりです。

なんでプレデターなのか判らない人はどん引きだし、
喜んでくれた人も
プレデターの意味を判ってた訳じゃないし、
BRISA君に至っては
反感すら感じていたという・・・。

それでも、
僕は起死回生に賭ける事を
諦めてはいませんでした。

弟にしつこくスベッただの
ハズしただの言われ続けても
最後にもう一回だけ
彼を驚かせる機会は
あると考えていたからです。

僕が替え玉に指名したのは、
弟をいつもサポートしている
DJの藤井幹久君。

実は、
僕が
2度大阪に行くのは
効率が悪いと思い、
彼に
難波の店に
マスクを買いに行ってくれるように
日中に
頼んでいたのですが、
仕事が八時までに終るかどうか
判らないと言われ
強要しなかったんです。

ただ
既に
僕の企みを知っていたので
ついでに
道連れにする事にしたんです。

プレデターがブースに乱入し、
弟がもし気付かなかったら
呼びに行って欲しいとも
伝えてありました。

社長のDJも最高潮に達し
僕のタイムまで10分を切った所で
僕は
藤井君を連れて楽屋に向かいました。

マスクの装着を指導し、
少ない視界を
どうやって確保するか
説明しなければいけません。
そして
僕のセーターと革ジャンも
着てもらわないといけないからです。

このすり替えが成功すれば
僕の努力も多少は報われる・・・。

そう思う事が僕にとってのせめてもの
救いになる筈でした。

あーあ、アニキ滑りよったな、
と思い込んでいる
弟の裏をかく秘策を
成功させる事で
僕は一矢を報いないと
この場違いで
勘違いで
季節も違ってしまっている仮装は
美談に書き換える機会を
一生失ってしまいます。

そして、
楽屋で
藤井君に
まさにマスクを
被せようとしているその時でした!
































































































































「あ、今度は藤井にやらせるんや」

こともあろうにヨシヒロが
楽屋になんの前触れもなく現れ
完全に素の状態で
捨て台詞を吐いたのでした。

こうして
僕の画策は
見事に破綻しました・・・。


============================


その後、
やけくそになったのか
仮面を被って人格が変わってしまったのか
藤井君が
プレデターのマスクを被って素晴らしい動きをみせ
僕よりは随分聴衆を盛り上げてくれました。

ああいうのは
迷いがあってはいけないんですよね。
なりきらないと。

僕のDJ中にプレデターが現れ、
「あれなんで?シューヤさんじゃなかったの?」
という人もいなかった訳ではなかったので
彼の登場は無意味ではなかったのです。

ブースから出たりもしてたから
ボトムと靴が違ってたのをすぐ
気付いた人もいましたけどw。

それにしても
弟の落胆の仕方は半端なかったですね・・・。

翌日もFacebookやTwitterで
僕の失態を
しっかり告知してくれてましたしw。

今回、
僕が学んだ事は、
なんだと思います?

物事には布石というか兆しがあって
失敗を回避する事ができるとか・・・。

そうですよね、
止めるチャンス何度もありましたからね。

でも
違うんです。

失敗は止めてしまうから失敗なんです。

DJ KAWSAKIや
YUKARI BBに頼めなくても、
通販で当日配送が無理でも、
京都の店が閉店していても、
マスクが63万しても(結果違いましたが)
社長も普通に来てたので
シークレット・ゲストじゃない事は
全然問題なかったとしても
やり抜いた事で
あの場に
プレデターが降臨する事ができた・・・。

えっ、
目論見
失敗したやんって?

お客さんのどん引きは覚悟してましたよ。
BRISA君の反応が悪かったのと
楽屋のすり替えが
見事にバレたのは痛かったですけど。

実は
まだ
終ってないんです。

これ、
布石なんです。

I WILL BE BACK!

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(おわり)