五月の旅⑤ | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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こんな時
頼りになるのは
BYRON。

早速
携帯に電話をかけてみる。

「やぁ、シューヤ、大丈夫かい?」

全然大丈夫じゃないよ・・・。

「ホテルに着いたんだけど、予約に名前がないんだ」

彼は
慌てる事なくこう答えた。

「多分、ホテルが違ってるんだな。我々は3つの異なるホテルを
フェスティバルの為に用意しているんだ。今、調べるけど、事前に
送った旅程表に名前が書いてなかったかな・・・」

僕は、
自分の不注意を後悔した。
そうだ、そこにホテルの名前が書いてあった。
それをドライバーに確認して告げるべきだった。

夥しい数の出演者がいるのだから、
どのターミナルで、どこのホテルなのかを
間違える事もあるだろう。
そこは自己防衛しないと・・・。

海外では
自分が正しい行き先を運転手に伝えないと、
シベリアの牢獄にさえ送られてしまいかねない。

「そこから、5分もかからない筈だ。フロントで行き方を
確認するように。また、何か問題があったら電話して」

やはり
彼は使える。
そりゃ、46回もやってるフェスティバルの
プロモーターなんだから、
それが普通と言えば普通なんだけど・・・。

例の
笑顔が最高に素敵な
金髪のスタッフに
ホテルの場所を尋ねてみる。

全然美人じゃないんだけど、
彼女の笑顔は
人の気分を揚げる力を秘めている。

真夏の太陽の下で
背伸びする向日葵のような。

「ここから歩いて行けるわね。
ホテルを出て右。
一つ目の角を左。
次の大きな交差点の右に曲がれば見えるわ」

右、左、右。
簡単じゃないか。

「ありがとう。ここに泊まれなくて残念だよ」

僕は彼女に礼を言うと
旅程表を革ジャンの胸ポケットにしまった。
レコード・バッグを担いで
スーツ・ケースを引っ張って
エレベーターで一階に向かう。

ホテルを出て
まず、
右。

一つ目の角まで1分もかからない。
右手、遠くにビーチが見えた。
博物館に展示された巨大な恐竜の白骨のような橋の向こうに
一面、砂浜が広がっている。

そこを左に曲がる。
100メートル程、
観光客相手の土産物屋、
カフェ、洋服店が行儀良く並んでいる。
決してひなびてはいないのだけれど、
繁華街と呼ぶには元気がない。

夕方の4時を回っているというのに、
通りを歩く人の姿はまばらだ。

そして、
次の交差点を右に。

おそらく
この街でも大きな通りとして分類されるだろう。
書店にレストラン、高級時計店にブティックが立ち並んでいた。

ホテル、ホテル、
ホテルが見える筈・・・。

あれ?
ホテルなんかないよ。


とにかく歩き続けてみる。
ホテルらしきものは
道の両側のどちらにもないが・・・。

彼女の笑顔がフラッシュ・バックする。

それは、作りものではなかったか?
まんまと騙された自分の人の見る目のなさに落胆する。

プロだ。
完璧な笑顔で
僕の
警戒心を解除するとは・・・。

地図をもらって
そのホテルの場所を確認すべきだった。



右。

そのシンプルな3語の反芻に
自分の歩調を合せていた自分が恥ずかしい(苦笑)。
それに、
何の疑いもなく、
自分が直ぐに正しいホテル到着できると思い込みながら
観光気分を味わっていた自分が。

マンチェスター空港に着いてから
既に4時間以上経過していた。

僕はまだ
ホテルにも辿り着いていない。

(つづく)