五月の旅② | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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到着ロビーに
次々と人が現れ、
そして
去って行く。

僕は
例のゲームをとっくに投げ出して
自分が取るべき行動を
選択肢として
列挙し始めていた。

①そのままずっと待つ
②タクシーでサウスポートに向かう
③電車かバスを使う
④他の出演者に連絡する
④インターネットに接続する

確か、
JAZZTRONIKも同じ日にロンドンから
サウスポートに到着する事になっていた筈。

それに、
BYRONがメールで送ってくれていた関係各位の電話番号リストの中に
空港送迎のドライバーの電話番号もあったような。
あれ、プリント・アウトしてなかったっけ・・・。

その時、
僕が握りしめていたi-phoneがぶるぶると震え出し
季節外れの鈴虫の羽音にも似た黒電話の呼び鈴が鳴った。

「ヘーイ、シューヤ、元気かい?バイロンです!」

全く悪びれた様子がない。
既に時間は1時間が経過しようとしていた。

「バイロン!実は、迎えが来てないんだ。ALEXにも電話したんだけど・・・」

てっきり彼は僕がホテルに到着したとでも思っていたのだろうか
慌てて僕を遮ると適切な判断を下した。

「済まない。直ぐにドライバーに連絡を取る。今、いるのはどこだ?
そこを動かないで。すぐに折り返す」

僕が返事をする直前に、
受話器の向こうから無邪気な子供の声が聞こえて来た。
彼は、家族とでも一緒にいるのだろうか?
父親に甘えて仕事を邪魔するかのような
場違いな声は僕をひどく混乱させた。

「そうしてくれると助かる。凄く寒いんだよ、ここ」

僕は
その折り返しの連絡ですら時間がかかる事を予測していた。
決して悲観的なのではなく、
それ位の心持ちでいないと不必要な期待が自分を傷つけてしまうからだ。
とにかく待つ事にしよう。
事態はすこしづつ改善されつつある。

5分も経たない内にBYRONが電話をかけて来た。
彼は、信用してもいいようだ。

「既に向かってるらしいんだが、高速道路で事故があったらしく
遅れているようなんだ。申し訳ないがもう少し待ってくれないか?
ドライバーの電話番号は持ってるよね?」

僕は、旅程表を再び取り出し、連絡先のリストを見つけ出した。
もっと早くその存在に気付くべきだったのだ。

事故なら仕方がない。
僕は、腰を据えてドライバーを待つ事にした。
そして、カフェを見付け紅茶を注文した。
到着ロビーに戻り、
ベンチに腰掛け、
火傷しそうな位熱いその甘く苦い液体を
注意深く啜り始めた。

そう、
どんなに遅れてもいいんだ。
連絡が取れて
自分が何をすればいいのかさえ判っていれば。

どこからともなく
眉毛が繋がったトルコ人風の
男が近づいて来て、
トイレに行きたいから
荷物を見ていてくれないかと頼まれた。

娘への土産だろうか
派手なパッケージにつつまれたデカイままごとセットが
カートの上にスーツ・ケースと共に無造作に積まれている。

僕は二つ返事で了承し、
冷める事のない紅茶を絶え間なく口の中に送り込んでいた。

それから
30分。
僕は再び、不安に苛まれ始める事になる。

ドライバーが来ない。
そして、
男が戻って来ない。

まさか、
これ、
爆弾とかじゃないよね(苦笑)。

(つづく)