5月の旅① | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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そこは到着ロビーと言うよりも
空港の端によくある何の目的もない
スペースに似ていた。

名前を書いた
紙を不機嫌そうに
持っている
タクシーの運転手とおぼしき男が3人。

ひなびたレストランには
人っ子一人見当たらない。

こうして
異国の地に踏み入れた時
僕は
そこでは
誰も自分の事を気にかけてはくれていない
という事を自覚しなければならない。

たとえ僕が
日本から招待されてその国にやって来た
スターDJ(苦笑)であったとしてもだ。

5月のマンチェスターは予想以上に寒く、
僕は手荷物から濃いグレーのセーターを
取り出すと
穴蔵に潜り込む
小動物のように素早くそれを身に付けた。

まだ
車に乗れるまで
随分時間がかかる筈だ。

僕が
そう判断するのは直感からではない、
経験から身につけた常識のようなものだ。

空港に迎えが来ていない事は
別に不思議でもなんでもない。

日本じゃ当たり前の事が
外国じゃ通用しないのだ。

僕の諦めを
あざ笑うかのように
どこからともなく
凍てついた風が吹き込んで来る。

DJを20年もやって来て
この扱いはないよなと思いつつも、
一方で早く現実を受け入れる為に
僕は何かで気を紛らわせようとした。

遅れているだけで
来ない訳ではないのだ。

こんな時は
人間観察に限る。

見知らぬ人達を
密かに凝視し
彼等の生活やそれまでの人生を
推測する。

これは
僕が待ちぼうけを食らった時に
必ずやる暇つぶしのゲーム。

その土地に
馴染む為のウォーミング・アップで
あるかもしれない。

勝手に
知り合いを増やして行くようなものだから。

まずは例の
タクシーの運転手に始まり、
母と息子を連れて主人を迎えに来た女性、
顔は違うのに同じような服を来ていたので
勝手に双子に認定したバック・パッカー、
東ヨーロッパから来たに違いない
(彼女はブルーのベロアのセット・アップを着ていた)
金髪の美女、
まるで
映画に出て来る木こりのような巨漢

しげしげと眺めながら
妄想に勤しんだ。

だが、
流石に
30分も経つと
誰かに連絡を入れた方がいい。

一応、その時間を
僕は一つの目安にしている。

今回、
ヨーロッパでも屈指の音楽フェスティバルの一つ
SOUTHPORT WEEKENDERに出演する為にイギリスにやって来た。
参加するのはこれが2度目。
前回は、PHIL ASHERに彼の自宅から
サウスポートまで送り届けてもらったので
マンチェスターがサウスポートからどれ位離れているかが判らない。
近ければ自分でタクシーで行くという選択肢もあるのだが。

僕は
旅程表を
トート・バッグから取り出し、
フェスティバルの主催者、ALEXに電話をかけてみた。
彼が直々にフライトの情報をメールしてくれていたし
(彼が取った訳じゃないだろうが)、
事前に彼がドライバーを空港に行かせると言ってくれていたからだ。

留守番電話。

ちなみに彼から最後にもらったメールには
「フェスの3日間は、電話が繋がりにくくなるので悪しからず」
と書いてあった。

緊急事態が起こったらどうするんだろう?
現に僕はあまり良くない状況に立たされている。

次に
そもそも
僕をこのフェスにブッキングしてくれたBYRONに連絡を取ってみた。
ファースト・オファーは、KYOTO JAZZ MASSIVEをバンドで招聘する事だったのだが、
渡航費の負担が大きいという事で断念。
逆にDJでの出演を僕が提案した所、快諾してくれた男だ。

留守番電話。

一体どうすればいいんだろう。

ま、
初日だからバタバタしているに違いない。

それにしても、旅の始まりがこうだと
流石に僕もヘコんでしまう。

それでも僕は、
人から酷い扱いを受けた時、
自分はその程度のもんなんだあぁと思い知る事ができるし、
人にそんな事をしてはいけないと2度も学べると
自分に言い聞かせた。

(つづく)