翻訳記事【リンチ版「デューン」に登場するスペーシング・ギルドの謎】 | 映画復元師シュウさんのブログ

翻訳記事【リンチ版「デューン」に登場するスペーシング・ギルドの謎】

リンチ版「デューン」が、40年の時を超え、今日本では4Kリマスターが公開されている。

そこで、リンチ版の魅力を掘り下げた記事を紹介する。

 

この記事は、世界的なデューン研究家にして、情報豊かなサイト「duneinfo」を運営している管理者、マーク氏の記事を翻訳したものだ。
原文はコチラ
 

この記事を読めば、リンチが「デューン」で目指したのに、結果的に、そのほとんどを削除してしまった、「スペーシング・ギルド」とは何なのか、よく理解できると思う。

 

リンチ版「デューン」の世界をより深く楽しむにはとにかく必読である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ドゥニ・ヴィルヌーヴ版「デューン」の解釈とは異なり、ギルドは、デイヴィッド・リンチのバージョン(1984年)で大きく取り上げられた。
リンチ版における、削除されたシーン、絵コンテ、脚本を元にして、映画本編よりもさらに大きな、ナビゲーターの計画されていた役割を明らかにし、物議を醸した映画の結末についても光を当てる。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『デューン パート2』の多くの変更点の一つは、スペーシング・ギルドが完全になくなったことだ。

『デューン パート1』の冒頭では、ギルドを少しだけ垣間見ることができ、ハイライナー(空間移動の大型輸送船)でも何度かギルドは登場したが、小説のファンにとっては、ナビゲーターがいないことが気になった。

 

”…私たちは、この本の一面、つまりベネ・ゲセリットの筋書きだけを受け入れることを選ばなければなりませんでした。

他の要素は取り除く必要があったのです。メンタットやスペーシング・ギルドに焦点を当てた全く別の映画を作ることもできました - もちろん、それらを見るのも面白いでしょうが、私たちは選択しなければなりませんでした。”

ドゥニ・ヴィルヌーヴ、サイト&サウンド – 2024年4月より

 

しかし、デイヴィッド・リンチの場合、ベネ・ゲセリットとメンタットが、彼の脚本に登場する一方で、スペーシング・ギルドが物語を大きく前進させる役割を担っていた。
例えば、冒頭の皇帝へのギルドの訪問から、ギルドがポールに生命の水を飲むように促すビジョン、そして映画の終わりでのポールとギルドとの(最終的にはカットされた)最後の対決に至るまでだ。

 

実際、映画の削除されたシーン、絵コンテ、脚本の複数の草稿からの証拠は、ギルドがもともとはるかに大きな役割を果たすことを意図していたと明らかにしている。

 

ナビゲーターは、ポールの旅路に対する主要な敵対者として位置付けられていた。

 

小説では「砂の惑星/砂漠の救世主」まで「姿を現さない」突然変異したナビゲーターを、リンチは映画で紹介して、スパイスによって引き起こされる進行性の突然変異を示す、第1ステージと第2ステージのナビゲーターを造形した。
マスクは、第2ステージ用に作られたが、最終的には顔にメイクを施した程度だった。

 

※第2ステージのギルド・ナビゲーターの未使用のヘッド

 

 

もともとリンチ版では、フレメンの教母ラマロが「デューン」の世界について解説するシーンから始める予定だったが、最終的にはイルラン姫の解説に置き換えられ、続いてカイル・マクラクランが声を当てた「ギルドの極秘報告」が続いた。

 

その後、ギルドはカイテイン(シャダムⅣの住まう惑星)の宮殿に到着し、シャダムIVが全宇宙の皇帝であるにも関わらず、真の力を持っているのがギルドであることが明らかになる。

 

ギルドは玉座の間に入ると、皇帝の側近の”真実を読める者”を遠ざけ、皇帝に計画の詳細を話すように命じる。

さらには、ポール・アトレイデスを殺すように命令する。

皇帝は、なぜポールを殺すのか不思議に思うが、彼はギルドに大声では尋ねないように敢えて控える。

※リンチ版「デューン」に登場する第3ステージのギルド・ナビゲーター(1984)

 

その後、カラダンでポールは側近のハワトと話し、ハワトはハルコンネン家が依然としてアラキスに脅威を与えると警告する。
しかし、ポールはより大きな危険がコリーノ家(皇帝シャダムⅣの家系)から迫っていることに気づくが、皇帝の背後にギルドがいることを理解するのは後になってからだ。

 

”ハルコネンは僕らの敵だ、そう...しかし、彼らの後ろには皇帝がいるのではないかと僕は思っている。”

ポール・アトレイデス、リンチ版「デューン」より

 

次にナビゲーターが登場するのは、アトレイデス家がハイライナーでカラダンからアラキスに移動するときだ。
小説では描かれていないが、リンチは”宇宙を折りたたむ”シーンにほぼ2分を費やしている(そして、視覚効果の予算はかなり厳しいものだった)。


原作小説では、”宇宙の折りたたみ”はホルツマン・エンジンによって行われるが、「バートラーの聖戦」が原因で、思考機械を非合法化した後には、人類は安全な移動を計算するためにコンピュータを使うことができなくなった。
 

別のSFシリーズに登場するスパイスの密輸業者の言葉を借りれば、「折りたたみ式の宇宙は、農作物の種蒔きとはわけが違うんだよ、坊主!正確な計算をしなければ、惑星の中心に飛び込んだり、超新星に近づき過ぎて、旅があっという間に終わってしまうのさ!」

 

小説のギルド・ナビゲーターは、先を見通す力を駆使して、多くの起こりえる未来を見定め、安全な狭い道を選んでいた。
リンチの映画では状況が異なり、ナビゲーターは直接空間を折りたたむように見える。
光の輪を泳いだ後に、ハイライナーがアラキス上の軌道に現れる。
 

それを単なるSFスペクタクルとして片付けるのは簡単だが、このシーンには、映画の後半の出来事につながる、いくつかの重要な視覚的な手がかりが含まれている。
たとえ、その後半のシーンで、文脈の一部が、編集段階で失われたとしても…だ。

※リンチ版「デューン」で、光の輪をくぐり抜ける第3ステージのギルド・ナビゲーター

 

 

その後、スペーシング・ギルドと皇帝の両方が、映画のかなりの部分で姿を消す。
ポールとフレメンがスパイスの生産を停止させたとき、ギルドは再び皇帝を訪れ、スパイスが流通しない限り、皇帝の座は危ういとシャダムⅣを脅す。

誰が本当に帝国を運営しているのか、我々にはもう明らかである!
 

その後、ポールが見る「夢/ビジョン」のシーンに移りる。

その夢では、ギルドがポールに生命の水を飲ませまいとする様子が映し出される。


彼らの会話の声は途切れるが、彼らがまだ話しているのが分かる。
脚本の第5稿では、ギルドの完全な会話が明らかになっている。

 

第5稿でギルドは、ポールが生命の水を飲むだろうと話している。
それは、会話の最後の部分だ。
「彼(ポール)が”アラム”に入る時、我々は奴を殺さねばならない。」
 

アラムとは、小説の末尾にある「帝国の用語集」では、「すべての物理的制限が取り除かれた相似の神秘的な世界」と説明され、「アラム・アル・ミサル」のことを指す。

この単語ひとつで、映画の航海士の多くのイメージが、うまくまとまってくる。
リンチ版『デューン』では、”アラム”はギルドが光の輪を通過して旅する場所であり、物理的制限がなく、空間を折り畳むことができる場所なのだ。

 

その後、ポールは生命の水を飲み、ナビゲーターが通過したのと同じ光の輪の中を、彼の体のシルエットが浮遊しているのが映される。


ポールは”アラム”に入り、ヴォイスオーヴァーで「動かずに旅をする」と話す。
つまり、空間を折りたたむことができるようになったのだ。

※ポールがアラム・アル・ミサルに入る様子

 

 

脚本の第7稿目(最終稿)では、第3ステージのギルド・ナビゲーターがポールを殺すために、アラムで彼を攻撃する場面があるが、これは最終的な本編にはないシーンだ。

※リンチ版「デューン」で削除されたシーンの絵コンテ。無数のギルドナビゲーターたちが、アラム内で、巨大化したポールの目を攻撃している。

(訳注:詳しくは、過去のこちらの記事、失われた、アラムでのポールとギルドの戦いについてを参照のこと)

 

ポールは、妹のアリアを通じて(母ジェシカとも)コミュニケーションを取り、ギルドがすべての物事の背後にいることを明らかにする。


この場面は、「削除されたシーン」として、ソフト化されているが、アリシア・ウィットのオリジナルの声のままで、ポール役のカイル・マクラクランの声に置き換えられていない。

 

映画では、ポールとギルドとのやり取りは非常に短い。
(映画ラストの宮殿で)ギルドの一員に向かって、「お前には僕の力が分かるのか?」というセリフで、スパイスを破壊するポールの能力をほのめかしている。


しかし、脚本の第5稿では、ポールはハイライナーに自分の心を投影し、500フィートにも及ぶ砂虫のように巨大な第4ステージのナビゲーターと会話をする‼

 

ポールは、ギルドを相手にした後、この宇宙の皇帝として帝位に就く前にすべきこと、つまり、物理世界でのいとこ、フェイドとのナイフ戦に臨む。
 

リンチ版「デューン」では、アラキスに雨が降るという、悪名高い結末を迎えるが、これはポールが「神」になったゆえの「奇跡」を表現したからだと解釈されることが多い。


それどころか、これはポールが新しい能力を使って、空間を折り畳むことで、惑星カラダンからアラキスに、雲を運んで来たと解釈することも可能だ。

移動せずに旅行すること…。
一度に多くの場所にいること…。


なぜそれが可能なのか?
それは、ポールがクウィサッツ・ハデラッハだからである。
 

ディヴィッド・リンチの『デューン 砂の惑星』の様々な段階の脚本や、他の監督による多くの『デューン』関連の脚本などは、こちらから読むことができる。
DuneInfoスクリプトアーカイブ.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

なお、記事の中でも紹介されている、アリアの声がポールの声に変わるシーンだが、(過去に紹介したように)カイル・マクラクランとアリシア・ウィットのヴォイスサンプルをAIに読み込ませて、声が変わる様子を作ってみた。

まだ色々不完全だけれど、これをベースにして、僕の「リンチ版デューン究極試写版」に組み込む予定だ。