リンチ版「デューン」で、ポールが生命の水を飲んで、結局どーなったのさ?
突然だけれど、クリスマスなのに、リンチ版「デューン/砂の惑星」を、リンチ本来の構想に可能な限り復元する「究極試写版」プロジェクトだが、とあるシーンについて、現在、改めて編集中だ。
それは、主人公ポールが、超人クイザッツ・ハデラッハに進化するために、(男にとっては死ぬかもしれない)生命の水を飲むシーンについてだ。
先に結論から言えば、これが再編集した動画だ。
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では、順を追って説明していこう。
劇場公開版では、砂漠で生命の水を飲んだポールは、血の涙を流し始め苦しみに顔をゆがめる。
苦しみの果てに、ポールは砂虫を克服するチカラを得たとヴォイスオーバーでのたまう。
さらには、香料メランジを破壊するチカラまで得たとも言う。
その瞬間、ナビゲーターの姿が画面に映り、一瞬でナビゲーターが白く弾けるのだ。
そして、ポールの身体に、大きく開いた手の映像が重なり、
ついにポールはクイザッツ・ハデラッハとして覚醒するのだ。
・・・というのが劇場公開版の流れなんだけれど、ポールがいかに「生命の水」を飲んで苦しもうが、血の涙を流そうが、結局はサクサクっと砂虫を克服して、楽にメランジを破壊するチカラまで得てしまっているようにしか思えない。
後半で登場したナビゲーターが白く光るのだって、何が起こったのか良く分からなかった。
そこで、これまでにも何度か言及してきたけれど、結局、ポールが「生命の水」を飲むことで、ポールはどうなったのか?
さらには、ポールを取り巻く環境にもどんな影響があったのかを、改めて検証してみたい。
まずは、脚本の最終稿である、第7稿の当該シーンをご覧いただきたい。
劇場公開版よりも若干ディテールは詳細なのが分かるハズだ。
【脚本 第7稿より】
235. 室内。ジェシカの部屋-シエチ・タブール-夜
アリアは真っ暗な部屋の中を歩いている。
鼻からは血を流している。
彼女は無理をしてジェシカのベッドに向かう。
すると、ジェシカも鼻血を出している。
ジェシカは痛みで目を覚ます。
二人は暗闇の中、見つめ合う。
ジェシカ:
アリア!
アリア:
母上・・・助けて
ジェシカ:
(もがく)アリア、何があったの?
アリア:
ポールよ。
彼が生命の水を飲んだの。
233C. ポールの精神世界
静かに黒画面に変わる - 再び青い画面にディゾルブ - 水滴音 - 低い音 - 静寂-黒にフェード。
245A. 外観 皇帝の宇宙船-宇宙
皇帝の宇宙船がこちらに向かって迫ってくる。
246. 船内。皇帝の宇宙船-宇宙
教母ヘレン・モヒアムが床に倒れている。
鼻血を流し、痛みで弱っている。
恐怖におののく皇帝。
233D. ポールの精神世界
突然、白い輪っか、星々・・・
そして巨大なギルドがこちらに向かって叫んでいる。
ナビゲーターだ。
233E. 砂漠-夜
ポールの目が固く閉じられ、目じりから鮮血がにじみ出ている。
233F. 砂漠-夜
ポールの口が開き、叫び声。
砂漠に巨大な風が巻き起こる。
234. (削除)
235A. ポールの精神世界
巨大な眼球を噛んで、血と光と音を吐き出すナビゲーター。
ポールの口が、ナビゲーターの目の上に二重に重なっていく。
ポールの口からほとばしる音声がナビゲーターを破壊し、アラム(訳注:あらゆる物理的制限が取り除かれた神秘的な世界)が開かれる。
ナビゲーターは、巨大な光の輪の中に飛び込み、我々は次から次へと輪の中を移動し、液体のようになった星の塊の中を素早く移動する。
目がくらむほどに光は増していき、その光の中へ...
235B. 屋外。開花する花
金色の花が咲き、鮮やかに輝いている。
迫り来る砂虫の音。
236.から239. (削除)
240. 砂漠 - 夜
チャニとフェダイキン(訳注:ポールを守る決死隊)達は凍りつき、7匹の巨大な砂虫が、自分たちに襲いかかるのを恐怖の眼差しで見つめる。
彼らに襲いかかる・・・かのように、砂虫は砂漠の表面を割って上昇していく。
そびえ立つ砂虫。その状態で待機している。
241.から245. 削除
240A. 砂漠 - 昼間
チャニがフェダイキンに目をやる。
彼女はクリスナイフで、砂漠全体が震えるように(ポールを縛る)ロープを切る。
ポールの目がパチリと開いた。
ゆっくりと体を起こす。
チャニは畏敬の念で彼を見つめる。
チャニ:
ポール…ポール…
240B. 打ち寄せる波
大きな波が押し寄せ、ポールは父親の姿を見る。
ポール、ゆっくりと膝をつき、そして立ち上がる。
240C. 砂漠 - 夜
ポール:
父上!父上!
眠れる者は目覚めました!
この音声の巨大な反響が、広大な砂漠に響き渡る。
砂虫は砂の中に戻ると、雷鳴とともに去っていく。
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というのが、第7稿での、ポールが超人クイザッツ・ハデラッハに覚醒するシーンだ。
この脚本だと、クイザッツ・ハデラッハに覚醒するための”ラスボス”がナビゲーターで、ポールは、どうやらナビゲーターを倒した末に超人に覚醒しているのだと分かる。
つまり劇場公開版で、ナビゲーターが光って弾ける描写は、ポールとの戦いに敗れた”名残”だったというワケ。
でも、あの一瞬だけだと、何が起きたのか、正直分かりづらい。
ちなみに、第7稿の描写を考えると、劇場公開版にあったような、「砂虫を克服して、メランジを破壊する能力を得た」などの説明がないので、超人に覚醒した能力としては、一長一短だとも言える。
では、脚本を遡って、第5稿での描写を見てみよう。
【脚本 第5稿より】
235. 室内 ジェシカの部屋 - シエチ・タブール - 夜
アリアは、非常に暗い部屋で激しく震えながら立っている。
突然、彼女の鼻から血が流れ出る。
彼女は無理をしてジェシカのベッドまで歩いていく。
彼女は、ジェシカの鼻からも出血しており、枕が血で濡れていることに気づく。
ジェシカは痛みで目を覚ます。
2人は、暗闇の中で見つめ合う。
ジェシカ:
何?…どうしたの?
アリア:
ポールよ…
ジェシカ(苦しみながら):
え?
アリア:
彼が、生命の水を飲んだの。
236. 室内 チャニの部屋 - シエチ・タブール - 夜
チャニは、苦痛の表情を浮かべながら寝返りを打っている。
237. 室内 メイカー製造の部屋(訳注:砂虫の幼虫から生命の水を抽出する部屋) - シエチ・タブール - 夜
ポールは意識を失い床に横たわっている。
238. ポールの精神的イメージ
ポールの意識はトンネルを通り、歪んだ顔になりつつも、ますます暗い領域に入っていく。
その後、まばゆいスパークが起こると、光の輪が、その奥深くに広がるトンネルに向かっていく。
そこからは、激しい風が吹き出している。
ポールはゆっくりと暗いトンネルの中に降りていく。
風が、心に響くような低い音で吠えている。
時折、火花の”星”が飛び出すと、小さなドーナツ状の光がポールの上を生き生きと移動する。
とても暗い場所だ。
ポールはさらに深く、さらにさらに、奥に進んでいく。
トンネルの側面が突然消え、ポールは深宇宙にいると気づく。
彼の皮膚がはためきだすと、頭は瞬時に膨れ始める。
彼の目も膨らみだす。
ポールは、ゆっくりと自分の周りを見回す。
遠くには、薄暗い星が密集している。
広大な空間を示す”音”を除けば、不思議なほど静かだ。
ポールが見上げると、上空に金色の光で満たされた巨大なトンネルを見出した。
彼はそれに向かって動き始める。
突然、彼が振り返ると、火花が出て、宇宙の遠くの領域に光の輪が形成されていくのが見えた...
そして、新しいトンネルから、何百人もの第3ステージのナビゲーターが、競うい合うように猛スピードで彼に向かってやってくる。
ナビゲーターたちは、飛んでくると、ポールの頭に体当たりしてくる。
特にポールの目に当たってくる。
ポールの頭が巨大化したため、ナビゲーターがかなり小さく見える。
彼らはポールの目を殴り、噛みつき、穴を開け、深い青色の虹彩の領域に群がって出入りをする。
体液と血液が暗い流れとなって、宇宙に放出する。
ポールの叫びは、彼の口から、火や水、土や空気となって飛び出す。
ジェシカの部屋 - シエチ・タブール - 夜
暗闇の中で、アリアはジェシカに向き直りる。
彼女らの鼻からはまだ血が流れ、体は痛みに引き裂かれている。
アリア(ポールの声が口から出る):
助けて。
ジェシカ:
ポールの声…!!!
アリア(ポールの声):
ギルド…彼らは精神世界で僕と戦っている。
彼らは物事の黒幕だ...。
彼らは”やがて来る者”を恐れている...。
より”知識のある者”を...。
より”見通せる者”を…。
ギルドはあらゆる事象の黒幕だ。
でも、まだ僕は無理だ……。
整っていない。
240. ポールの精神的イメージ
ポールが、黄金のトンネルに向かって移動すると、星が動いているように見える。
241. 室内 メイカー製造の部屋 - シエチ・タブール - 夜
ポールは石の床に横たわっている。
彼の体はわずかに震えている。
彼の口が開くと、微かな、しかしせわしない呼吸音が聞こえ始める。
床が、地震のように揺れ始める。
242. 室内 通路 シエチ・タブール - 夜
フェダイキンたちは、お互いに顔を見合わせる中、足元の岩が揺れ始める。
遠くで地鳴りのような音が響き、風がうめき声を上げる。
243. 室内 通路 シエチ・タブール - 夜
フレメンが部屋から出てくる - 岩が激しく揺れている。
244. 室内 トレーニングルーム - シエチ・タブール - 夜
地面がゴロゴロと唸っている。
突然、いくつかの岩製のモニュメントが爆発して砕け、チグハグに並んでいるロボット達も爆発したり火災を起こす。
245. 室内 ジェシカの部屋 - シエチ・タブール - 夜
寄り添うアリアとジェシカ。
246. 船内 皇帝の宇宙船 -宇宙
教母ヘレン・モヒアム牧師は床に横たわり、鼻から血を流し、痛みで弱っている。
皇帝は恐怖の表情でそれを見つめている。
247. ポールの精神的イメージ
星々が、白く熱してぼやけて消えていく。
ナビゲーターたちは燃えて飛び去り、ポールを追うが、光の中へ入ることが出来ない。
ポールの意識は、金色のトンネルに入る。
ポールは通り抜けると、月光ソナタの黄金の水の世界に至る。
そこでは、押し寄せる水滴が霊的な光に伸びて、一万の天使たちと溶け合う。
完璧になったポールの顔は、黄金の世界を進むにつれて金色に変わっていく。
248. 室内 メイカー製造の部屋 - シエチ・タブール - 夜
ポールは、意識を失ったまま、岩の床に横たわっている。
彼の隣にはチャニ、ジェシカ、アリアがいる。
チャニ(ささやき声):
ポール…ポール、聞える?
(ジェシカに)彼は本当に生きているんですか?
ジェシカ:
大丈夫。
でも命の糸はとても細いわ…
チャニは、生命の水の入ったカップを手に取ると、真っ青な液体を見つめる。
彼女は指で一滴すくい取ると、ポールの顔に向かって動かす。
ジェシカ (続き):
だめ…何する気?
アリア:
じっとして!
これは、上手くいくかも。
チャニは、ポールの鼻の下に、水滴を持っていく。
鼻が震えている。
彼女はその滴をポールの唇に這わせる。
ポールは突然、すすり泣きながら長く息を吸い込んだ。
彼の目は、パッと開いた。
ジェシカ:
ポール…聖水を飲んだのね。
彼は手を伸ばしてカップを手に取ると、残りの全てを飲み干した。
そこにいた者すべてが一斉に「ポール!」と叫んだ。
ポールがジェシカを掴んだ。
アリアは笑顔のまま後ずさる。
ポール:
今、母上に、僕の意識を近づけていきますね。
普段行けない暗い場所を、私に見せてください。
249. 精神的イメージ
突然、ジェシカの顔が、フレメンたちの老教母ラマロの顔に変わり、瞬間で全てが暗くなり、火花が散り、光の輪が脈動する。
250. 室内 メイカー製造の部屋 - シエチ・タブール - 夜
ジェシカの目がパッと開き、ポールを見つめる。
ジェシカ:
”彼”が見たのね。
ポールは暗闇の中、狭い通路の出入り口の方を向く。
足が動き、歩み出す。
ポール:
フェダイキンは聞いたのだ……
物語は、火のように全土に広がるだろう……
ムアディブは他の男たちとは違うと……
これ以上の疑いの余地はないと…。
ジェシカ:
未来を見たことは?
ポール:
「今」を見てきました...
アラキスの上空には、ギルドの船で溢れています。
皇帝はそこにいます。
男爵や...帝国の全ての大公家が、襲撃者と共に、我々の頭上で待っています。
ギルドが”その時”を迎えるだろうと...彼らはそう考えている!
母上…大量の水を交換しなければなりません…
触媒が必要です…
そしてチャニ、精製前のスパイスの塊を見つけるために、偵察部隊を編成してくれ。
母上…精製前のスパイスの塊に水を注ぐと、何が起こるか分かりますか?
ジェシカ(突然見て):
ポール!! ポール、それは「死の水」ね…
すべてのスパイスを破壊する連鎖反応が起きる…永遠に。
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私の翻訳能力に限界があるため、意味が良く分からない箇所がたくさんあるのは申し訳ない。
ただ、第5稿まで遡ると、ポールが精神世界では巨大化して、ナビゲーターたちと熾烈な戦いを繰り広げたり、サイケデリックな光の乱舞が交錯したりと、中々刺激的なイメージに溢れていたことが分かる。
残念ながら、現在の私が所有している未公開シーンなどでは、第5稿のような壮大な物語を復元することは敵わない。
ただ、このポールが生命の水を飲むことで示さないといけないポイントとしては、以下の内容が挙げられるだろう。
過去の脚本や未公開シーン、そして劇場公開版のシーンを基に考えたものだ。
・ポールは苦しみながらも「砂虫」を支配するチカラを得る。
・香料メランジを破壊するチカラも得る。
・精神世界で、ナビゲーターと対決して制する事で、ポールはクイザッツ・ハデラッハに覚醒出来た。
そこで、これらの要素を含んだシーンを再構築してみた。
第5稿を知ってしまうと、ギューッと小さくまとまった印象になるけれど、劇場公開版や、他のファンエディットよりは、元々の構想に近いと考えられる。
なお、この動画は、現在ネットにアップされている「究極試写版」本編とは違う構成になっている。
今回、改めて編集し直したものが、このシーンの「最終版」となる。