醜い世界の狂想曲(カプリチオ)後篇Aパート「戦いの果てに……」 | シュンタスの台本置き場 兼 日記帳

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自分の書いた声劇用台本を掲載していきます。
二次利用は許可なしでOKです(コメント・メッセージ等で感想など貰えるとすごく嬉しいです!)・・・たまに日記帳に化けます。


登場キャラ


♂:5 ♀:5  or  ♂:3 ♀:3


飽きずに出来るのは後者だと思います。


ユウ・バルモック兵士              ♂:
ノエル               ♀:
レティ               ♀:
ジル                ♀:
アッシュ              ♂:
ウィル             ♂:
リタ(レティと被り可)     ♀:
ウルフガン(アッシュと被り可)  ♂:
レヴァン(ウィルと被り可)   ♂:
ティルデ(ジルと被り可)          ♀:




以下、主要な登場人物の紹介

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<主人公・ヒロイン> ※()内はキャラの一人称と呼ばれ方


ユウ・カグラ(僕・ユウ・カグラ君)♂

地下牢に幽閉され育った少年
クアッドラングルに拾われた後、戦闘員としての才能を開花させる


レティシアの姉 ノエル・コルデー (私・ノエル)♀

幼いころマフィアに売り飛ばされた妹を探す
貴族の身分を捨て、犯罪組織を滅するため<クアッドラングル>に加入した


<キーパーソン>


反バルモック勢力の長 ジャン=クロード・アッシュ(俺・ジャン・アッシュ・ボス)♂

領土解放・正義執行のため活動する解放軍<クアッドラングル>を牽引する若きリーダー


レティシア・コルデー(私・レティ・レティシア)♀ 

幼いころマフィアに売られ殺し屋として育てられた、心を殺され道具として生きる少女
殺し屋の集団である<リーパー>の一員となる


バルモック教の幹部 レヴァン・カーフェン(私・カーフェン卿・レヴァン)♂

幼いころから英才教育を受けた生粋のバルモック教徒
対立するフィーリアス教の指導者の娘リタに恋をしてしまう


フィーリアス教の指導者の娘 リタ・アズナブール(わたくし・リタ様・リタ)♀

幼いころから宗教対立に疑問を感じ、争いが起こるなら宗教などいらないと考えている
対立するバルモック教の幹部レヴァンに恋をしてしまう


中立を貫く凄腕の傭兵 ウルフガン(俺・ウルフガン)♂

金を積まれれば何でもするが、気持ちは常に中立を保つを信条とする傭兵部隊を率いる
宗教対立を金づると考えている。元バルモック教団幹部


クアッドラングルの部隊長 ウィル(俺・ウィル)♂

クアッドラングルの主力メンバー
ミランダ奪還作戦の先陣を切る。ミランダの恋人


<登場人物>

レヴァンの部下 ティルデ (私・ティルデ)♀


レティの同僚 ジル (私・ジル)♀



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ユウ「 醜い世界の狂想曲(カプリチオ)後篇<戦いの果てに……>」



ノエル「全隊! 橋に着くまで歩(ほ)を休めるな!」


ウルフガン「おぉ~、かっこいいねぇ彼女……
      戦(いくさ)乙女、ここにありって感じ?(ユウを突っつきながら)」


ユウ「僕に振らないでよ」


ウルフガン「へへっ……つれないねぇ」


アッシュ「バルモック側にも動きがあるはずだ! 橋が降り切る前に陣を敷くぞ!」


ウィル「先手を取られるのだけは勘弁だぜ。潜入が一気に難しくなる」


リタ「はあ……(怯えている)」


ユウ「リタ、怖いなら本部で待ってればよかったのに」


リタ「いいえ、私が見届けなければ。この国の王族として、できる責務を果たします」


アッシュ「みんな気を引き締めろ! 橋は近いぞ!」


全隊員「イエス、ボス!!」(アッシュ・リタ以外の全キャスト参加で)



少し間



ジル「この熱気。どうやら進軍が始まったみたいだな。
   ……見てみろ。どこ見渡しても、武装した人間だらけだ。
   一般市民までチャカ持って歩いてやがる……物騒なこった」


レティ「自分の身は自分で守らなくちゃいけない。自然なことだよ。
    ……それに、殺し屋の私たちが言えた義理じゃない」


ジル「物騒のシンボルみたいなもんだからな。私たちは」


レティ「誇らしげに言わないでよ」


ジル「どんな仕事だろうが、生業(なりわい)には誇りを持つものだぜ。
   ……じゃないと、やってらんなくなる」


レティ「やってられなくなったほうがいいよ。こんな仕事」


ジル「ま、人さまの安全のためにはな。

   けど、私たちが生きていくためには必要なこったろ? それともなんだ。

   こんな仕事するくらいなら死んだ方がマシ、とか言い出すんじゃないだろうな?」


レティ「それは――」


ジル「(遮って) あまり自分の生(せい)を軽視してやるな。
   私たちには、これしかないんだ。だったらやるしかないだろうが」


レティ「……」


ジル「……ま! 今すぐ割り切れなんて言わねぇよ。お前にもいずれ、分かってくるさ」


レティ「割り切る? マフィアに心を売り渡して、殺人機械になることを?」


ジル「<自分の命より大切なものはない>ってことをだ。

   ……罪悪感なんて犬に食わせとけ。
   お前は、自分が生きることを最優先に考えてればいいんだよ」


レティ「(ボソッ)……無駄じゃない」


ジル「あぁ?」


レティ「ずっとずっと人を殺し続けて……こんな人生、無駄だよっ!」


ジル「……じゃあ死ぬか? なんなら今、私が殺してやるよ(レティに銃を向ける)」


レティ「……っ!(ジルに銃口を向けられ固まる)」


ジル「同僚のよしみだ(撃鉄を起こす)」


レティ「あ……ぁ……(怯える)」


ジル「楽に逝かせてやるよ(トリガーに力を入れようとする)」


レティ「……や、やめてぇっ!!」


ジル「……(銃を降ろす)」


レティ「(泣く)うっ、うぅ……」


ジル「……わかったかよ。

   今お前は、自分の命と、他人の命を秤にかけたんだ。 

   誰だって自分の命の方が重い。それが当たり前なんだ」


レティ「(涙声)でも、もう殺したくないっ……嫌なんだよぉっ……
    目を閉じると、殺した人の顔が浮かんでくるのっ……

    瞼に焼き付いて離れないのっ……
    夢にも見る……私は標的に銃口を向けて……それでっ……!!」


ジル「レティ……(レティを抱き寄せる)」


レティ「(泣く)うぅっ……」


ジル「意地悪が過ぎた……謝る」


レティ「……ジルは、優しいね」


ジル「はぁ?」


レティ「悪人を気取ってはいるけど……私のこと、心配してくれてるから」


ジル「(レティを軽く突き飛ばして)ざ、ざけんなっ! わ、私は……
   あんたがしっかり仕事してくんないと、自分の命にも関わるんだっ!だから――」


レティ「知ってるよ。
    私が怖い夢を見てうなされてるとき、こっそり手を握ってくれてること」


ジル「んなぁっ!?」


レティ「そうするとね、生き別れたお姉さまが夢に出てきて、すごく安心するんだ。
    ノエルって名前なんだけど……なんか、雰囲気がジルに似てる気がする」


ジル「……ったく……あああ全く!!!(恥ずかしさを紛らすように)
   しんみりしてんじゃねえよ! これから仕事なんだぞ! やりにくいだろうが!」


レティ「ごめん……」


(一拍置いて)


ジル「(顔をそむけて)……今回のヤマが終わったら、私から上に直訴してやる」


レティ「えっ……?」


ジル「貴重な戦力が使い物にならなくなるってカマかければ、
   少しの間ではあるが、暗殺の実動隊から外してもらえるかもしれねぇ」


レティ「ジル……」


ジル「お前は、私の相棒だからな。
   不安定なまま現場に出て、ヘマでもされたら困るんだよ」


レティ「ありがとう」


ジル「ちっ……! そろそろ行くぞ。……憎くてかったるい<仕事>の時間だ」


レティ「うん」


ジルM「はぁ……やっぱり殺しに向いてないよ、お前。 
    ちっ、めんどくせえの相棒にしちまったなぁ……ツいてねぇ」



少し間



ユウN「嵐の前の静けさ。僕たちは降下を待つ<橋>の前に陣を構えた。
    向こう岸には……すでにバルモック教団の先兵部隊が睨みをきかせている。
    <橋>が降り切った瞬間が、開戦の合図だ。そして今、ーーーー橋が降りた」


アッシュ「……状況開始!!」


バルモック兵士「行くぜえええぇ! ネズミ一匹通すな! 蹴散らして進めぇ!」


ウィル「……押し通る!!」


バルモック兵士「行かせるかよぉ!」


ノエル「防衛部隊は潜入組の援護にまわれ! 道をこじ開けるんだ!」


ウルフガン「俺らに任せな!!

      ……シールズ部隊! 敵先兵部隊に一斉射撃、用意!」


バルモック兵士「うおらああああ!!」


ユウ「来るよ」


ウルフガン「まだだ!……まだ引きつけろ」


ウィル「雑魚は引っ込んでろぉ!!」


バルモック兵士「う、ぐぉっ……!?」


ノエル「隙ができた!」


ウルフガン「一斉射撃、撃て!!」


ユウN「シールズ部隊の放った正確無比な弾丸は、先兵部隊をことごとく薙ぎ払った。
    弾幕にさらされたバルモック教団の兵士たちが、次々と橋から落下していく」


バルモック兵士「うがああああぁ!!」


ユウ「す、すごい」


リタ「なんて……惨(むご)い  (目をそむける)」


アッシュ「シールズが道を作った! 陣形が整う前に……進めっ!」


ノエル「援護するっ! 行ってこい、ウィル! ミランダとマルクを、頼んだぞっ!!」


ウィル「合点承知よぉ! ……ウルフガン、援護に感謝する」


ウルフガン「へっへへ……礼を言うのが早すぎやしないかい?
      ……つーか俺も行く。潜入組に加えてもらうぜぇ」


ウィル「わかった。一緒に来いっ!」


リタ「わ、私もっ……一緒に連れていってくださいっ!!」


ウィル「んなっ!? ……無茶を言わないでくれリタ様! 危険すぎる!」


ユウ「そうだよ。リタは戦えないじゃないか」


リタ「わかっていますっ! けど、向こうにはレヴァンがいるんです。
   レヴァンは、話の通じる相手です! 私が行けば、説得できるかもしれないっ!」


ウィル「リタ様、あんた……」


ユウ「死ぬかもしれないんだよ?」


リタ「危険は重々承知です。それでも私は……私の戦いをします!」


ユウ「リタ……」


ノエル「急げウィルっ! この機を逃したら次はないぞ!!」


リタ「ウィル、お願いしますっ……!(必死な目で訴える)」


ウィル「あああぁもうっ! わかったわかった!……そのかわり、絶対離れるなよ!!」


リタ「はいっ! ありがとうございます!」


ウィル「行くぜ……! すべてを取り返しに!!」



少し間



ティルデ「レヴァン様。 どうやら橋の防衛ラインを一部隊に突破されたようです」


レヴァン「そうですか。さすがはクアッドラングル、と褒めておきましょうか」


ティルデ「随分と……落ち着いていらっしゃいますね」


レヴァン「ははっ……戦争なんてものはね、なるようにしかならないんですよ。
     焦ったところで良いことなど、なに一つもない。次の一手を打つまでです」


ティルデ「次の一手……とは?」


レヴァン「あちらの狙いは至ってシンプル。

     我々を内側から乱し、前線と分断させること。

     さて、アッシュなら、次はどう動くでしょうか……。

     情に脆いやつらのことだ。同時に人質の解放も企(くわだ)てるはずです。

     が、敵陣で悠長に探し回れば、包囲されるのは火を見るより明らかだ」

 

 

ティルデ「二兎追う者は、ということですね」

 

 

レヴァン「ならば、やつらの狙いは自然と見えてくるでしょう?

     人質解放のためには、こちらの中枢を麻痺させる必要があるのですから」

 

 

ティルデ「まさか……」

     

 

レヴァン「二兎を得るために、まず確実に一兎をしとめる。

     つまり指揮官への直接攻撃。これがアッシュが描いたシナリオでしょう」


ティルデ「甘く見られたものだ。スピード勝負をしようと、そういうことですか」


レヴァン「ええ。しかしだからこそ、私たちが圧倒的に有利。でしょう?」


ティルデ「なるほど……だからマルクとミランダを生かしておかれたのですね」


レヴァン「そういうことです。いささか卑怯ではありますが、ね」


ティルデ「いいえ。もはやこの戦争は、単なる小国の内紛ではありません。
     世界の未来をも決めかねない……重要な戦争ですから。
     どのような手を使ってでも、必ずや勝利を我がバルモックに!」


レヴァン「そうです。勝たなければ、これまでの行いすべてが意味を失う。
     平和のために築いてきた犠牲を……無駄にするわけにはいかない。
     修羅の道を歩むと決めたその瞬間から、私は悪魔にでも命を売る覚悟です」


ティルデ「ではこの命、先んじて悪魔に売り渡しましょう。
     レヴァン様の使命の成就。それこそが……私の生きる目的なのですから」


レヴァン「ふふっ……貴女ほど優秀な部下はいない。

     ではティルデ、改めて命じましょう――!

     <私のために死ね。それ以外で死ぬことは許さない>」


ティルデ「仰せのままに」


レヴァン「私は父上……大司教様に報告をしてきます。
     ミランダとマルクを独房から出しておいてください。いつでも<使える>ように」


ティルデ「かしこまりました」



少し間



ユウ「銃撃が止んだ」


ノエル「急に静かになったな。不気味だ」


アッシュ「無暗に突っ込んでも無駄と気付いたのだろう。
     ここからは持久戦になる。集中を切らし、隙を見せたほうが負ける」


ノエル「なら、今のうちに兵を休ませよう」


アッシュ「ああ。交代で橋を見張ろう。
     ウィルの合図があるまで、何としてもここを落とされるわけにはいかない」



ユウN「僕たちは残っている部隊を3分割して、交代で橋を見張った。
    その間、<リーパー>からの襲撃も警戒しなければいけない。
    敵はスナイパー。消耗戦だ。僕とノエルは、アッシュを護衛するため、
    本陣中央へと後退した」


ノエル「……日が落ちてきたね、長い夜になりそうだ」


ユウ「リタ、大丈夫かな?」


アッシュ「ウィルとウルフガンの部隊が付いている。信じよう、彼らを」


ノエル「きっと大丈夫だ。リタは昔から悪運が強いから」


ユウ「……ずっと気になってたんだけど、

   リタとノエルはどういう関係なの?
   旧知の仲っていうのは、リタからも聞いてたけど」


ノエル「あぁ……それはだな――」


ユウ「ちなみにノエルが元貴族のご令嬢だっていうのはアッシュから聞いて知ってる」


ノエル「なっ! おいアッシュ!」


アッシュ「すまんすまんっ! ユウ君なら喋っても問題なかろうと思ってな」


ノエル「はぁ……ま、隠してるわけじゃないから良いんだけどね。

    で、ユウはどこまで知ってるんだ?」


ユウ「元貴族ってところまで。あとは何にも」


ノエル「そうか。……私の本名は<ノエル・コルデー>という。
    コルデー家は王族に仕える、ダクト十三貴族の1つだった。
    王族であるリタと親交があったのも、そのころに何度か会っていたからだよ。
    私たちは歳が近いこともあって、すぐ意気投合してな」


ユウ「その言い方だと……コルデー家はもう十三貴族の1つじゃなくなったの?」


ノエル「ああ。コルデー家は没落した。
    そして、私が貴族の身分を捨てた瞬間に……消えたんだ」


ユウ「なぜ身分を?」


ノエル「……許せなかったからだ。父を」


ユウ「おとう、さん?」


ノエル「ここで話すようなことじゃないと思うが……ここまで話してしまったしな。

    実は私には妹がいる。唯一残っている肉親だ。名を……<レティシア>という」


アッシュ「……」


ノエル「10年も前の話だ。
    当時コルデー家は、深刻な資金難に陥っていてな。
    父はコルデー家を守ろうと必死だった。憑りつかれていたと言っても良い。
    だが、何もかもが上手くいかず、血迷った挙句マフィアから金を借りていたんだ。

    ただ外聞を守るためだけにな」


ユウ「貴族がマフィアからお金を?」


ノエル「これは後から知った話だが……父には計画があったんだ。
    他の十三貴族の嫡子を養子に迎えることで、コルデー家の再建を目論んでいたらしい。
    男子が生まれなかったコルデー家にとっては、

    新たな当主を迎えられて、一石二鳥だったわけだ。
    だがそのころには……悪評が世間に出回っていてな。

    そんな家と縁組する物好きなんて、見つかるはずもない。
    そしてついに、莫大な借金だけを残して財産が底をついた。当然の結果だけどね」


ユウ「うん」


ノエル「そしてマフィアに金の返済を催促され、命の危機に追い込まれた父は、
    ……貴族の身分と、己の命を守るために……レティを売り飛ばしたんだっ……!」


ユウ「自分の娘を……売ったの?」


ノエル「ああそうだ。だがそれ以上に許せないのは……

    父がそのことを死の淵まで隠していたということだ!
    レティは療養のため、遠い親戚に預けたと……私を欺き続けたっ!
    一週間に一度送られてくる手紙の代筆を雇ってまでだっ! 許せるものか……」


ユウ「……ひどい」


ノエル「父は最後まで身分という妄執に囚われ続けた、哀れな男だったよ。
    父の死後、その事実に気付いた私は、その日のうちに爵位を返上して家を飛び出した。
    妹を探すために、様々な土地を転々と渡り歩いたあと……
    当時マフィアと抗争していたクアッドラングルに出会い、入隊したんだ」


ユウ「そうだったんだ」


ノエル「……もちろん。今となってはこの国の領土解放も、私の目的の一つだ。
    貴族の身分は捨てても、国を愛する気持ちに偽りはない。妹と育った大切な場所だ。
    レティが帰ってきたときに、自分の家がなくなっていては……示しがつかないからな」


ユウ「そっか……妹さん、早く見つかるといいね」


ノエル「ああ、必ず見つけてみせるさ。……ありがとう、ユウ」


アッシュ「さ、昔話はそこまでだ! 続きは戦いが終わった後で、一杯やりながらにしよう」



少し間



レティ「R1……指定位置に付いた」


ジル「標的を捕捉できるか?」


レティ「遮蔽物(しゃへいぶつ)が多すぎて視認できない。迂回して背後に――」


ジル「(食って)駄目だ、嫌な予感がする。指示を待て」


レティ「わかった……ジルの勘は当たるからね」




アッシュM「風向きが変わった……?」


ユウ「どうしたの? アッシュ」


アッシュ「いや……なんでもない」




ジル「――地形を確認した。迂回せずに丘を30m登れ。
   そこからなら問題ないはずだ。狙撃の難易度は上がるが、できるな?」


レティ「うん」


レティN「自分が生きるために人を殺すこと。今でも間違っていると思う。
     でも、それでも、自分の命を大切にしろと言ってくれる人がいる。
     今はそれだけで、私は頑張れる。トリガーを引ける……そう思った」


レティ「……やれるよ」




ノエル「そろそろ交代の時間だ。明りを消して、闇に目を慣らしておけ」


ユウ「わかった」




ジル「確認できたか?」


レティ「今着いた。……うん、遮蔽物もない。これならいけるよ」




ユウ「ふあぁ……眠い」


ノエル「緊張感を持て馬鹿もの! リーパーはいつ襲ってくるかわからないんだぞ!」


アッシュ「無理もないさ。俺の護衛で ずっと気を張っていてくれたからね」




レティ「――目標を捕捉。陣の中央にいる……

    たぶんあの男が、ジャン=クロード・アッシュだ」


ジル「近くに誰かいるか?」


レティ「確認する。ちょっと待って……」


ジル「標的は頭1人だ。スマートにいこうぜ、レティ」


レティ「目を闇に慣らすために明りを消したみたい……」


ジル「見えないのか?」


レティ「狙撃に支障はない、けど。女性と少年がうまく射線上に入ってる」


ジル「ちっ……護衛兵だな。さすがに簡単じゃなさそうだ」


レティ「いざとなったら……」


ジル「殺す。任務は完遂しなきゃなんねぇ。それが私たちリーパーだ」


レティ「……」




ユウ「ノエル。そのチョーカーにぶら下がってる金の十字架(クロス)って……」


ノエル「ああ、これか? これは妹のペンダントを改造して、チョーカーにくくりつけたんだ」


ユウ「綺麗だ」


ノエル「このクロスは、私がオーダーメイドしたものでな。世界に1つしかない」


ユウ「へえ」




レティ「女性の護衛兵に全く隙がない……少年のほうは隙だらけなんだけど」


ジル「迂回してりゃ、今頃仕事は終わってたな……勘が外れた」


レティ「動き出したよ。どうするの? ジル」


ジル「今から迂回してもジリ貧だ。少し様子を見て、射線から外れないようなら……
   護衛兵ごと殺すしかない。隙を見せたらいつでも撃てるようにポイントしとけ」


レティ「……わかった」




ノエル「いつかこのペンダントを……

    再びレティの首に巻いてやるのが、私の夢なんだ」



レティ「暗くて見えない……何かを手にとって見つめてる……?」



ノエルM「レティシア……今どこにいるんだ。
     元気にしているのか? 私は、ここにいるぞ……(目をつぶっている)」



レティM「隙が、できたっ!」


ジル「撃て! 今しかねぇ!!」


レティ「……っ!(トリガーに力を込める)」



ユウ「いたっ……なんか踏んずけた。明りつけるよ」



レティM「生きるためだ。殺さなきゃ。生きるためなんだっ……!!」


ジル「殺(や)れ! レティ!!!」




ノエル「馬鹿もの! これから暗闇での見張りだというのに――」



レティM「――え?」


ユウN「生き別れた姉妹」


レティM「嘘……な、なんで。あの、金のクロスは……」


ユウN「お互いにとって唯一の肉親」


レティM「嘘だ……そんなっ……そんなわけ。嘘、なんで……ノエル、お姉、さま?」


ユウN「感動的な再会になるはずだった」


レティM「なんでっ! 嘘だっ、嫌っ……
     駄目、だよっ……もう指、止まれ、ないのにっ……!」


ユウN「だが皮肉にも運命は」


レティ「嫌あああああああああああああぁ!!(トリガーを引いてしまう)」


ユウN「悲劇を望む」



パアーーーーーン!!(銃声)





後篇Aパート「戦いの果てに……」 FIN