映画『怒り』感想 | 日向修二製作所

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この間映画の『怒り』を観てきたのでその感想。相変わらずネタバレ全開なんで気になる方は回れ右。

疲れる映画だった。いい意味で。緊張感がすごく続いていた。冒頭で殺人事件のシーンがあって、その緊張感が続いている感じ。本編は、3人の得体の知れない男が出てきて、そいつらが「実は殺人犯なんじゃないか?」という雰囲気のまま最後まで進んでいく。結構最後のほうまで、3人のうちの誰が犯人なのかはわからない。一応作中にヒントはあるっぽいから、察しのいいひとはわかるのかもしれない。断定はできないと思うけど。

それぞれ、どこかからふらっとやってきて素性がしれない。何かから逃げているのか、本名もよくわからない。

松山ケンイチ扮する「タシロくん」はどこかの漁師町に流れ着いて、そこにで働き始めた。住み込んでいるお家の娘と懇意になって、同棲も始めた。だけどその彼女も、彼女の父親も、もしかしたらタシロくんが殺人犯なんじゃないかと思い始める。テレビ公開捜査の映像と似ている気がしたからだ。だけどタシロくんは「親が作った借金があって、借金取りに追われている」という説明を彼女にしていた。本名を隠していた理由もわかる。だけどやっぱり疑念は消えない。そしてついに、彼女は警察に通報してしまうのだ。「もしかしたら彼が犯人かもしれない」と。

綾野剛扮する大西直人は妻夫木聡扮する藤田優馬と東京のゲイバー? で出会ったゲイだった。優馬は直人のことを気に入り、住むところがないという直人を自宅に住まわせる。ホスピスに入っている実母にも紹介し(ゲイであることは伏せていたようだ)、優馬が仕事に行っている間、母の面倒を見てもらっていたりした。母が亡くなったあと、墓参りのときに「一緒の墓に入るか?」と冗談めかして聞いてみる。返答は「別にいいけど」。お互い、冗談めかしていたけれど、本心は嬉しそうだったような気がした。ある日優馬は直人がカフェで女性と談笑しているのを目撃してしまう。直人はバイだったのか? と裏切られた気持ちになって直人を詰問してしまうが、直後に直人がいなくなってしまう。電話をしてもつながらない。もしかして殺人犯だったんじゃないか? テレビを見ながらそんなことを考えてしまった。そしてある日、警察から電話が来た。「大西直人さんという方をご存知ですか?」

森山未來扮する「タナカ」は沖縄の無人島に移り住んでいた。無人島に遊びに来ていたイズミ(広瀬すず)と出会い、交流を深める。イズミのボーイフレンドのタカラくんとも仲良くなり、彼の実家の民宿で働き始める。ある夜、離島から那覇に遊びにいったイズミとタカラは偶然タナカと出会い、夕食をともにするが、慣れない泡盛を飲んだタカラは泥酔。タナカと別れた後にふらふらとどこかへ行ってしまったタカラを探しにイズミが裏通りに入ってしまうと、沖縄の米兵に襲われてしまう。タカラは近くにいたにも関わらず何もできなかった。イズミから「誰にも言わないで」と言われ、誰にも相談できずに悩んでいたタカラだが、タナカには「友達のいとこの妹」の話として暗に相談する。実はタナカもあのとき現場の近くにおり、ことの顛末は知っていた。それは表に出さずに「いつでもお前の味方になる」と言ってくれたタナカ。たのもしいお兄さんだった。
しかしある日、夜中に民宿で暴れ始め、民宿をめちゃくちゃにしてしまう。我に返り自分の荷物を持って民宿から逃げていったタナカ。タカラは彼を追って、例の無人島へ向かっていった。


3つの視点が切り替わりながら話が進んでいって、別々の3つの話を同時並行で追っかけている感じだった。3人が3人とも怪しいという以外に、特に共通点は無かった。ただ、誰が犯人なのかわからなかったので、「誰が犯人なんだろう?」というミステリ的な視点を楽しめた。ただ、この作品が目指したのはミステリではなくて、「自分のたいせつな人が殺人犯かもしれない、と思った時に、あなたはどうする」という人間ドラマだったのだと思う。結論から言うと、殺人犯はタナカなのだが、他の二人も、それぞれたいせつな人から疑われてしまう。疑われたほうはショックだろう。信じてくれていたと思ったのに、信じてくれいたわけじゃなかったのか……と悲しみに沈んでいくだろう。そして疑ってしまったほうも、なぜ最後まで信じられなかったのか、信じ抜けなかったのか、という後悔の念にさいなまれるだろう。一人目のタシロくんはまだいい。二人目の直人は実は死んでしまうので、しかも和解せずに急死してしまうので、優馬の後悔は計り知れない。

この映画を見て、自分だったらどうするだろうか、なんて考えた。自分のたいせつな人が疑わしかったら。僕は最後まで信じられるだろうか。信じ抜けるだろうか。正直自信はない。でも、こういうこと書くと間違ってる! と言われてしまうかもしれないけど、僕はたいせつな人と一緒にダメになれるように信じ抜けるようになりたい。

話は変わるが、実はエンドロールを見るまで広瀬すずが出ていることに気づかなかった。あ、あれ広瀬すずだったのか、と思った。
最後に彼女が海に向かって叫ぶシーンがあるのだが、そこがすごく気持ちよかった。やっと叫んでくれた、と思った。この作品、叫びたくなるような場面や人物が多いのだが、なかなか叫んでくれないのだ(笑)
海に叫ぶシーンは爽快感があってよかった。

あと、音楽がよかった。すごく盛り上がっていた。坂本龍一、さすがだ。

沖縄の海がきれいすぎて、沖縄に行きたくなった。また行きたいな沖縄。