カズオ・イシグロと小泉文夫。僕の理想主義を省察する。やや赤裸々に。 | 保坂修平のピアノ音楽

保坂修平のピアノ音楽

東京藝術大学楽理科卒業。ジャズピアニスト、作曲家。

Facebookで続けているブックカバーチャレンジ。

さーて今回は??

 

カズオ・イシグロ「私を離さないで」

 

蜷川幸雄さんの舞台「私を離さないで」の音楽を阿部海太郎くんが担当したとき、録音でピアノを弾かせてもらった。そのときカズオ・イシグロをはじめて知った。

 

とにかく今まで読んだどの小説にも似ていない。

不思議な静寂をたたえ、高揚感を抑えたジェントルな語り。

 

しかし人間存在の深奥部をえぐる強烈な小説である。

全ての感動的な小説が、それぞれの形で向き合うところの「生と死」に真正面から対峙している。

 

そして、カズオ・イシグロ作品に共通する、基本的に人間の尊厳を守り生き続けるということに対する漠としたポジティブシンキング。

 

これらが奇跡的な密度で凝縮したすごい作品だ。

 

そして海太郎が書き下ろした「Never let me go」。

本当に美しかった。

ジャズ・スタンダードの同名の曲と同じくらい素晴らしかった。

 

 

そして僕はカズオ・イシグロからインスピレーションを得た作品を2作品作っており、どちらもyoutubeに公開している。よかったらぜひお聞きください。

 

 

 

 

そして⑤

岡田真紀「世界を聴いた男 ー 小泉文夫と民族音楽」

 

高校生の時、藝大楽理科を目指して猛勉強のさなか、この本に巡り合った。

 

クラシック一辺倒だった自分に、「民族音楽」という広い「世界」が広がっていることを教えてくれた。

 

 

しかし後悔しているのは、大学生になったら、貪るように何でも聴いて何でも吸収しようと息巻いていたが、進学後、意外とまたクラシックの世界に閉じこもってしまったことだ。

 

バッハが、ブラームスが、マーラーが、ブルックナーがヒーローで、聴きまくった。

よく本は読んでいた。

日本なら川端康成、三島由紀夫、泉鏡花なんかが好きだった。

ドストエフスキー、カミュ、ハイデガーみたいなお堅いヤツも今しかないと夢中で読んだ。

それはそれで、オタクで楽しい学生時代ではあったが。

なんか、古いんだよな(笑)

 

そんな中、ジャズだけが、突き抜けて自分に入ってきた。

そして夢中になり、現在に至る。

 

その間、いわゆる「民族音楽」にきちんと向き合う時はなかった。

今更に、向き合ってみたい、そんな気にはなる。

特にアフリカとインドは気になる。

 

僕は本当に視野が狭い人間で、広くなんでも知っていくタイプではない。

民族音楽も、結局取り組まず。

好きなものだけ何度も聴き、何度も立ち戻る。

 

でも、小泉文夫さんという非常に魅力的な語り口を持った学者がいて、世界を縦横無尽に駆け巡り、日本と西洋文化のこと、日本人にとっての音楽、世界の中の日本ということを考え抜き、数々の提言を行なったこと。そしてハイカルチャー寄りになってしまう悪しきプロフェッショナリズムの世界を批判的に見る視点。

こういうことを発信する小泉文夫という人の存在自体にすごく衝撃を受けたことを覚えている。

 

僕は、若い時から、日本人がクラシックを学ぶ、そしてジャズを演奏する、この時に必ずぶつかるジレンマ、コンプレックスみたいなものに敏感だった。

小泉文夫ショックの影響なのか?今はもうわからない。

好きな音楽、好きにやればいいんじゃない?みたいな意見を「お気楽なヤツ」と見下し、「本物とは何か?」みたいなことを年寄り臭くブツブツ考えていた。

 

そんなこと考える暇があれば、動けばいいのだ。

実際に音に出して、ぶつけて、反省して修正して、進んでいけばいいのだ。

その行動力にも欠けていたと思う。

 

そして今も、ブツブツ考えている。

僕が音楽をする上で、日本人として、何かしら「世界」に貢献できる表現があるとしたら、それは何なのか?

はっきり言って、無駄に大きすぎる問題意識だ。

身の程を知れ、と自分に言いたい気もする。

 

コロナ騒ぎで、自分が食うのにアップアップしながら、何を言っているのかと。

 

とはいえ。

でも、これでいいのだ。とも思う。

こういう思考の方式が、そして妙な理想主義が、僕の性格なのだ。

この性格は、もう治らないし、付き合っていくしかない。

高い理想を掲げ、毎日挫折感を味わいながら、かつ明日食べるためにも、一所懸命活動するのだ。

 

そして、民族音楽も勉強しよう。今さら。

 

最後までありがとう!

 

 

ピアニスト/作曲家 保坂修平

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