キャットファイター04ラウンド |  月は欠けてるほうが美しい

 月は欠けてるほうが美しい

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「おじさん !! 私、勝ったよっ ! 」、美緒は一睡もしないで店で男を待っていた。
「良かったな ! お前は本当に良くやった。顔にキズが無いところを見ると殴られてないんだな ? 」、男は皺だらけの顔を皺くちゃにして喜ぶ。
「うん、一撃でKОしたんだ。おじさんの言う通り、ビミョーに相手の目が動いたよ。」、美緒は興奮から覚めやらなかった。
「それでもって、私、自分に10万賭けたから50万になっちゃった。おじさんに半分あげるよ。」、美緒はジーンズに丸めてしまってあった札束を取り出した。
「バカ、俺が貰う筋合いじゃねえ。今日はお前は休みなんだから、遊ぶなり買い物するなりしな。」、男は白衣に着替える。
「じゃ、寝るよ。」、美緒は部屋に戻って行った。

「おいっ ! お前に電話だ。」、男の声に夕方近く美緒は目が醒めた。
美緒は受話器を取り、「あっ、はい、ありがとうございます。」、短く話して電話を切った。
彼女が口を開く前に男が、「試合だろ ? 行ってこい。明日の店の事は心配するな。」、と言う。
「すまないね、早く帰ってきて早く寝るから朝起きてなかったら起こしてくれよ。」
「美緒、今日は化粧をしていけ。まだ時間はあるだろ ? 」、男は初めて美緒の名前を呼んだ。

顔のアザやキズが治った美緒は相当な上玉であり、前日の試合も噂になってライブハウスは満員御礼だった。
今夜の相手は背が高くリーチも長い中国女だ。
ゴングが鳴った。
相手は美緒の目を見据えたまま、いきなり眉間を狙ってジャブを打ってきた。
目の動きに囚われていた美緒は慌ててガードをする。
ガードは美緒の目をふさぎ、相手の動きの予測を妨げた。
相手はガードを狙って打ち続け、やがて最後の一発を美緒のみぞおちに叩き込んだ。
美緒は腹を抱えて床に倒れる。

翌朝、男が店の鍵を開けると美緒が唸っていた。
「おいっ、どうしたんだ ? 」、男が彼女の部屋に入ると、「ボディブローもらって負けた。」、と美緒が全身を震わしていた。
「バカヤロウ ! 内臓損傷だっ ! いま救急車呼んでやるからな。」、男は慌てて119番する。